台東区にある「革カバン店」がオープン1年で多くの女性から支持されている理由
台東区松が谷にある革カバンの店「LONA」。同店はオープンからわずか1年で、多くの女性から高い支持を得ています。いったいなぜでしょうか。店主の青木さくらさんに聞きました。オープンは2021年3月 東京・台東区は「職人の街」「ものづくりの街」として知られる街です。 ジュエリーショップやカバン店、畳店、看板を作る店など、ジャンルも幅広く、散歩する人を飽きさせません。その分、店の新陳代謝も激しいのが現実です。 台東区松が谷にある「LONA」(画像:星谷なな) そんな街で2021年3月にオープンしたのが、革カバンの店「LONA(ロナ)」(台東区松が谷)。 同店はオープンからわずか1年で、多くの女性から高い支持を得ています。革職人がしのぎを削る街で、どうして支持されているのでしょうか。 趣味で作り続けたカバン 合羽橋近くにあるLONAは2021年3月、蔵前のシェア工房から移転し、オープンしました。革カバンのデザインと製作を行っています。ヨーロッパの一角にありそうなお店で、店先には革リュックやハンドバッグなどが並んでいます。店の奥にある工房では、店主・青木さくらさん(33)が大きなミシンを走らせます。 「小さなカバンだと1日五つ、六つ作れますが、大きなリュックだとひとつ、ふたつほどなんです」 製作するカバンは、毎月平均60~70個(100個近く作った月もあるそうです)。現在ではスタッフが週に何度か手伝いに来てくれますが、開店当初は全てひとりでこなしていました。 店主の青木さくらさん(画像:星谷なな) 青木さんは福島県出身。かつては仙台市の革製品店などで働いていましたが、結婚を機に上京したのをきっかけに、独立しました。 「東京に来るのは不安でしたが、来てよかった。チャンスがたくさんありますよね。東京にいないと出会えない人がたくさんいます。あと、革や金具などの素材を扱う店がたくさんので、気になった素材を実際に手にとってすぐに確認できるのもいいところ。クリエーティブをするなら間違いなく東京ですね」 フェイクレザーは使わないフェイクレザーは使わない 青木さんが革製品を作り始めたのは、服飾の専門学生だった頃でした。学校では主に洋服を勉強していましたが、人によって体形が違うので、万人が身に付けられるものを作ることの難しさを感じることがありました。 その一方で、カバンは誰でも手に取れます。いつしかカバンに心を奪われて、趣味でカバンを作るようになりました。学生当時、革は高価で手が届かなかったので、カバンの持ち手部分のみに使用。ボディーは比較的安価な帆布で作っていました。 しかし、当時からリアルレザーを選んでいました。フェイクレザーは扱いやすく価格も安いですが、青木さんはリアルレザーにこだわっています。 「リアルレザーは面白いですよね。使っているうちに、あめ色に変化したり、つやがでたり、傷ができたり。時間とともに風合いが出るのがいいなと思っていました。自分と一緒に成長していく感じですね」 青木さんの手掛けた商品(画像:星谷なな)特に、青木さんが製品に現在使用している革は変化の過程がわかりやすいものです。 専門学校卒業後は、アパレルの販売員として仙台で働き始めますが、趣味のカバン作りは続けていました。そんなある日、転機が訪れます。 ずっと好きだった革製品のお店が仙台にオープンすることになったのです。応募要項には「経験者歓迎」の文字。革製品作りはほぼ未経験の青木さんでしたが、構わず履歴書を送りました。見事熱意が伝わり、合格。その会社で7年間カバン作りやデザインを学びました。 「その会社(仙台店)は作る場所と売る場所が同じなんです。販売も携わり、お客さまの声が聞こえたのがすごくよかったです。理想のつまった場所でした」 職人同士のつながりが大事職人同士のつながりが大事「いつか、自分で店を構え、よりお客さまと近い距離でカバンを作りたい。工房でカバンを作りながら、お客さんが製品を手に取るところを眺める。そんな店をいつか持つことができたなら……」 修行を積むなかで見えてきた理想の店の形。ちょうど結婚したタイミングもあり、退職を機に、店を構えることを決意。蔵前のシェア工房を見つけ、出店。その後、浅草に店を構えました。ただ、どちらのエリアも革製品の職人たちがひしめき合うところ。実際に、現在の店の裏側にも革製品の店が2、3軒あります。ライバルの多い激戦区ですが、青木さんはむしろ「仲間がたくさんいる場所」と話します。 「確かに同じ業界の人が多いです。でも、同じ“革”でもみんな違うことしているんです。例えば、靴を作る人、ジビエ革を自分で取って作る人。百貨店で売る人が得意な人や、海外に展示会を出す人。アーティスティックな製品を出していたり。革だけど、みんな全部違うんです。だから、仮に客層がかぶっても、私たちは同じものを作っていないから取り合うこともないんです。お互いに協力して一緒に業界を盛り上げようという気持ちが結構あります」 青木さんの手掛けた商品(画像:星谷なな) 同じものを仕入れて販売するホームセンター、ネットショップなどでは、いかに売るかで勝負しますが、青木さんたちは自分の店らしさをアピールすることで共存につなげているのです。 「これも、東京ならではなのかな」 LONAが目指すものとはLONAが目指すものとは 他の職人との協力でクオリティーの高いものを作り出すLONA。ただ、店が愛される理由は他にもありました。 多くの職人がSNSを通じて商品の情報発信を行っているように、青木さんもインスタグラムなどで商品写真を投稿しています。しかし異なるのは、製作への思いをつづっているところでした。 「LONAがの大事にしているものが伝わるようにしたいと思っています。夢を売るように、ワクワクする気持ちをどう持ってもらうか。作るのも好きだけど、お客さまにどう喜んでもらうか、というのを考えるのが好きなんです」 「LONA」の内観(画像:星谷なな)「カバンを買うために仕事を頑張ります」というファンからのダイレクトメッセージや、購入したカバンを持って外出を楽しむ様子をSNSで知ることが、青木さんの大きな原動力になっています。 「仕事の定義は誰かの役に立つことだと思っています。誰の役にも立たなかったら仕事じゃない。だから、誰かの役に立っているのが見えると仕事が楽しくなったり、頑張れるきっかけになったりします。今後やりたいアイデアもわくと思うんです」 SNSを見ているだけで楽しく、店に行けばもっとワクワクする――。そんな店作りが、LONAの人気の秘密なのです。
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