ネットの「薄っぺらい」情報に飽きたら図書館に行こう! 東京の「知らない」を探る、郷土史研究のススメ
東京にはまだまだ知られざる情報があります。そのような情報を得るためには、いったいどうしたらいいのでしょうか。メディアウォッチャーの本多修さんが解説します。東京関連情報は膨大 東京に関するさまざまな情報はテレビやインターネットで発信されていますが、私たちの知らないことはまだまだたくさんあります。 ・街の成り立ち ・神社仏閣 ・暗渠(あんきょ。地下水路) など、お題をあげたらキリがありません。 東京に限らず郷土史は興味深いものですが、東京のそれが面白いのは情報量が圧倒的だからです。東京は日本の中心であり、その分、多くの記録が残されています。そのため、より濃密な情報を得られます。 とりわけインターネットの普及以降、一般人による発信が多くなり、地域の細かい歴史も気軽に知られるようになりました。ただ、そうしたものも東京全体の情報から見れば、ほんのわずかにすぎません。 長らく週刊誌などの現場を渡り歩いてき筆者の経験上、たとえ本や雑誌、資料などに記録されても他人の目に触れるのは、全体の1割もないでしょう。東京で起きた大抵の出来事は忘れられ、そして記録の存在すらも消えていくのが現状です。 地域図書館に注目しよう ただ、皆さんに濃密な情報への渇望があるのなら、アクセスは意外と簡単です。なぜなら、東京都の各市区町村にある地域図書館を調べればいいからです。都内には ・国立国会図書館(千代田区永田町) ・都立中央図書館(港区南麻布) ・都立多摩図書館(国分寺市泉町) という膨大な蔵書を抱える国立・都立の図書館がありますが、そこにも収蔵されていない資料はたくさんあります。地域資料は特にそうです。 国分寺市泉町にある都立多摩図書館(画像:(C)Google) 地域資料といってまず思いつくのが、その地域の人による個人出版物です。よく見かけるのは、コピーを閉じた小冊子スタイルのもの。内容は自伝が多いのですが、文章の合間に 「地域の○○に△△という店があった」 「○○年に△△というトラブルが起きた」 など、自治体の発行物ですら書かれていない細かな情報があります。 また、独自に町の由来を調べている人もいます。東京ではありませんが、以前、岡山市立中央図書館である人物の歴史を調べていたとき、司書さんが「こんなものもありますよ」と、『岡山県著名人家系図』という資料を見せてくれたことがあります。 それは、岡山県の著名人の家系図とお墓の場所がノートに記されたもの(厳密にはそのコピー)でした。このような、寄贈以来、誰も手に取ったことがないような独自資料が東京の図書館では極めて豊富なのです。 地域紙という情報の宝庫地域紙という情報の宝庫 地域図書館には、地方紙よりさらにローカルな情報を集めた地域紙もあります。東京の地方紙は東京新聞ですが、地域紙には ・新宿新聞 ・豊島新聞 ・西多摩新聞 などがあります。休刊したものでは『中央区民新聞』というのもありました。 大抵の地域図書館では、地域紙を創刊号から揃えています。昭和20~30年代の創刊が多く、地域の開発を巡る記事が豊富に掲載されているため、地域が戦後復興と高度経済成長期を経て、どのような課題を解決していったのかを知ることができます。昭和の東京は一般的に人気のテーマですが、こうした地域紙まで読んでいる人はまだまだ少ない印象です。 ほかにも、地域住民への聞き取り本は貴重な資料です。タイトルに「古老に聞く」という一文が入っているケースが多いので、筆者は「古老系資料」と呼んでいます。これらは、各自治体の文化財担当部署が行った聞き取り調査のまとめで、特に昭和50~60年代にかけて都内各地で盛んに作られました。 渋谷区神宮前にある渋谷区立中央図書館(画像:(C)Google) 個人的なおすすめは、目黒区の『目黒の近代史を古老に聞く』と中央区の『中央区の昔を語る』です。 前者では、地域の名望家である岡田家(文化財になった長屋門が知られる)の当主・岡田衛さんが、東急東横線の建設や、都立大学を巡る五島慶太(東急グループの創始者)とのやりとりについて、一部始終を語っています。日本の近代産業史を語る上で大変貴重な資料です。 調査の困難は探究心で乗り切ろう調査の困難は探究心で乗り切ろう 先ほど「濃密な情報への渇望があるのなら、アクセスは意外と簡単」と書きましたが、最近はそうも言えなくなりつつあります。なぜなら、以前は地域図書館に必ずいた「奉職して数十年」という情報検索職人とも呼ぶべき司書さんが、近年の指定管理者制度の影響で減っているためです。指定管理者制度とは、 「地方公共団体が設置する文化施設などの公の施設の管理,運営を株式会社やNPOを含む民間事業者に行わせることができる制度」(図書館情報学用語辞典) です。民間委託になると、いうまでもなくコストが削減されます。。 調査相談を行うレファレンスカウンターで「○○について調べている」といえば、かつての情報検索職人は 「それは、○○の数ページに書かれている」 と即座に教えてくれました。しかし今ではパソコン端末でキーワード検索をして「ありませんね」というケースが増えています。 図書館での調査のイメージ(画像:写真AC) しかし泣き言をいっても仕方がありません。その分、探究心のある人には情報を「掘る」楽しみがあるはずです。地域情報をテーマにしたウェブサイトは増えましたが、その大半はオシャレなお店か食べ物ばかり。そんな情報に閉口している人は、埋もれた、忘れ去られた地域情報を調べてみることをおすすめします。
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