「ザ・純喫茶」な上野の老舗名店 昭和レトロな豪華内装がむしろ新鮮?
レトロな内装や調度品、それから王道な珈琲(コーヒー)と昔ながらの軽食メニューが魅力の「純喫茶」。皆さんは行ったことがありますか? 東京喫茶店研究所二代目所長の難波里奈さんが、純喫茶の世界をご案内します。昭和生まれの純喫茶、今なお健在 皆さんは「純喫茶」という言葉を耳にしたことがありますか? 一般的には「酒類を扱い、女給による接客を伴う特殊喫茶」に対して「酒類を扱わない純粋な喫茶店」のことを指す、昔ながらのお店のことです。 昭和の時代に創業し、今なお近隣住民のリビングのような場所として親しまれ、その土地を訪れた人たちにとってはひとときのオアシスとして存在する「純喫茶」。筆者(難波里奈。東京喫茶店研究所二代目所長)がその虜になって早十数年、これまで全国津々浦々さまざまなお店へ足を運んできました。その熱は冷めるどころか知れば知るほど夢中になってしまう、とても奥深い世界です。 純喫茶「古城」で提供される食事メニュー(画像:難波里奈) 令和を迎えて早くも半年が経ち、昭和はふた昔も前の時代となってしまいました。喫茶店に限らずさまざまな分野で古いデザインの良さなどが見直され、若い世代の間でも昭和の文化を好む人々が増えているように思います。 喫茶店誕生の地、上野喫茶店誕生の地、上野 日本で初めての喫茶店は、鄭永慶(てい・えいけい。別名・西村鶴吉)によって1888(明治21)年4月13日に上野の地で産声をあげました。「もりそば」が8厘であった時代に、珈琲(コーヒー)1杯は1銭5厘と高級な嗜好品。店内にはビリヤード場やシャワー室も兼ね備えていて、ハイカラなサロンのような役割も果たしていたそうです。 1927(昭和2)年に東洋初の地下鉄が浅草~上野間で開通するなど、各地から訪れる人々の窓口として栄えてきた上野。現在でも、交通の便の良さはもちちん博物館に美術館、動物園など文化への入り口として多くの往来で賑わう街です。 そんな上野界隈には、映画やドラマの撮影場所にも使用される昭和の空気感をそのままに残した素敵な純喫茶が数多く存在しています。 例えば「丘」「ギャラン」「王城」「マドンナー」「古城」……。今回は喫茶店を訪れることにまだ慣れていない人でも入りやすく、一度足を踏み入れたらその美しい世界に恋い焦がれてしまうような素晴らしい内装を持つ「古城」をご紹介します。 東京メトロ銀座線1番出口を出て歩くこと2、3分。「高級喫茶」という看板が掲げられた地下への階段が見えてきます。 入り口からすでに注目すべきところがたくさんあります。女性を模したドアノブの形状、壁に貼られた黄金色の獅子たち、馬に乗った勇者たちのステンドグラス、足元を照らすダイヤモンドのような形をした大きなシャンデリア……。 高鳴る胸をおさえながら地下のフロアへたどり着くと、その奥にはさらに、溜息が出るような美しい世界が。 純喫茶「古城」の店内。先ほどまでいた現実世界を忘れるような非日常の空間(画像:難波里奈) 視界の一番奥に、異国の教会のようなステンドグラス。天然石をふんだんに使用したゴージャスな仕切り。背もたれに白い布が掛けられた深緑色の椅子……。 少し暗めの照明も手伝って、今自分がどこにいるのかわからなくなってしまうような非日常感に包まれる心地良い時間。店内の注目オブジェを店員さんに尋ねてみたところ、入り口から見て左側の壁に大きく描かれた富士山とのことでした。こちらを眺めるのも、どうぞお忘れなく。 喫茶店の定番メニューであるナポリタンやクリームソーダはもちろん、サンドイッチやレモンスカッシュなど食事メニューも豊富です。混み合うランチの時間をずらして、珈琲だけでなく軽食も一緒にゆっくりいただくのもお薦めです。 喫茶店で珈琲を飲む楽しみとは喫茶店で珈琲を飲む楽しみとは コンビニエンスにお手頃な価格で珈琲を飲めるようになった近頃では、喫茶店での珈琲1杯500円は少し高く感じるかもしれません。 しかし、そこには飲み物としての値段だけではなく、のんびりと過ごせる空間や適切な温度の提供、程良いBGMが流れる楽しさ、テーブルまで注文を聞きにきてくれて運んでくれるフルサービスとちょっとした会話ややり取り、お店によっては自由に読むことのできる雑誌や新聞のサービスなどのいくつもの付加価値も含まれているのです。 純喫茶「古城」の店内。先ほどまでいた現実世界を忘れるような非日常の空間(画像:難波里奈) 筆者はときどき「喫茶店でのマナーは?」と尋ねられることがありますが、店内で過ごしている自分の姿をもうひとりの自分が眺めたときに「無粋」でないと思えるならば、ある程度好きに過ごして良いのではないか、と思っています。 「純喫茶へ行ってみたい!」、そう思ったなら、まずは上野に出掛けてみるのはいかがでしょうか? 喫茶店発祥の地だという歴史性はもちろん、徒歩圏内にいくつもお店があるので、地理に詳しくない人でも少し歩けば必ずどこかのお店に行き当たる街です。 気になるお店に足を運んで、また1軒、また1軒。そうしているうちに「次はどこのお店に行こうかな」なんて考えが頭をよぎったら、次の休日がますます楽しみになってしまうかもしれません。
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