ノンアル飯系インスタグラマーとは?
とんかつ、ラーメン、海鮮丼、サンドウィッチ、スイーツ……。SNSにあふれる、おいしそうなご飯の写真や動画。特にインスタグラムには投稿が数多く寄せられ、グルメ系インスタグラマーがいろいろなジャンルのお店を紹介しています。
グルメ系インスタグラマーひとつ取っても、ラーメン専門、高級志向のお店専門など多岐にわたりますが、そのなかに“お酒なしの食事”に特化したノンアルコールごはん、いわゆる「ノンアル飯」をテーマにお店を紹介するインスタグラマーがいます。
いったいどんな人なのでしょうか。
文京区根津のそば店で待ち合わせ
「はじめまして、のんある といいます。今日はよろしくお願いします」
東京メトロ根津駅(文京区根津)近くのそば店に現れたのは、ノンアル系インスタグラマー「のんある男の東京ノンアル飯」さん(@non.aldesuga.nanika 以下、のんある さん)。
ノンアル系インスタグラマー「のんある男の東京ノンアル飯」さん(画像:星谷なな)
30歳、都内の食品会社に勤める のんある さんは1年半ほど前にインスタグラムを始め、今ではフォロワー数3.5万人越えを誇る人気インスタグラマーです。
「休日に恋人、親を連れて行きたい」をテーマにプチぜいたくのできる店を紹介するほか、のんある さん自身お酒が飲めないこともあり“ノンアル飯”も紹介しています。
のんある さんにとってノンアル飯に明確な定義はないそうですが、しいて言えば夜ご飯がしっかり食べられることだと話します。
正直がモットー、庶民感覚で評価
「夜仕事が終わって帰るとき、お酒が飲めればひとりで居酒屋にふらっと入って生ビールとおつまみが食べられるんですけど、お酒が飲めない“ノンアルコーラー”が居酒屋で『烏龍茶ひとつ!』というのは言いづらいですよね。でもおいしいご飯を食べて帰りたい。そんなときに参考にしてもらえたら」
取材した2021年9月某日、待ち合わせの場所に選ばれたそば店は、のんある さんがずっと来たかったというお店です。
事前にどのメニューが有名かチェックし、注文。そばが運ばれてくると、写真をおよそ20枚撮り、そばをはしで持ち上げる動画を撮影して、いざ実食。
「うん、おいしいですね」
インスタグラマーにしては撮る写真の枚数は少ないそう。そばは早く食べないと乾いてしまうし、あたたかいご飯であれば冷めてしまうから、と話していました。
のんある さんとともに実食した都内そば店のメニュー(画像:星谷なな)
店選びは飲食店の評価サイト「食べログ」やグーグルなどを駆使するほか、PRのため店から試食の依頼がきて行くこともあるそうです。
のんある さんは「正直」がモットー。ある店の開店前試食会に招待されても、味があまり良くないと「本当においしくないのでこれはすぐ閉店するかもしれない」とお店の人に伝えたこともあるそうです。
「私自身も、お金持ちではないし、むしろ倹約家です。ケチだからこそ、酷評もできるというか。こんなお店で、こんな値段なのかと考えることもあります」
あくまで庶民の感覚に即した評価が、フォロワーたちからの支持にもつながっているようです。
1泊2日で10食! 人生を変える一膳を求めて
のんある さんはこれまでたくさんの店に足を運び、多くの食の経験を積みました。それは東京に限らず、地方へも出向いて老舗の店、話題の店を自分の舌で味わっています。
特に地方などではインターネットにあまり情報が載っていないこともあるため、休日には遠征をすることもあるんだとか。グルメインスタグラマーたちとの美食ツアーでは1泊2日で10食ほど食べたそうです。
「朝7時に群馬でラーメン、その後福島で寿司(すし)ランチ、おやつにロールケーキ、夕方に円盤餃子(ギョーザ)、仙台で牛タン2軒はしごして、最後フィナンシェ。翌日はまた朝ご飯を食べて、という感じでした」
ラーメン、寿司、ギョーザ……1泊2日で10食を食べることも(画像:写真AC)
車で各地を巡ったそうですが、食に集中するあまり、ガソリンの給油をしそびれて帰り際にガス欠になり、野宿になりかけたのだとか。
ほかにも、山奥にジビエ(野生鳥獣の食肉)を食べに行ったときには野生の動物に追いかけられたりと、食を通じて思いもよらない大変な体験もした のんある さん。そうまでして食を追い求めるのは、なぜなのでしょうか?
「インスタグラマー以前に、グルメが好きなんです。私のフォロワーさんは若い人が多いので、お金よりもおいしいという経験をしてもらいたいと思っています。だから、おいしいものをしっかり伝えたいんです」
「例えば、とんかつひとつとっても、今までの概念を変えるとんかつに出合うことがあります。40年とんかつを揚げ続けた人のとんかつはやはり違う。たった一膳でその店のストーリーを感じ取ることができる。感動しますよ。家でもとんかつは作れるのに、これだけの価値を提供できるんだ! というのは誰かの人生を変えるかもしれないですよね」
モテたくて始めた趣味がライフワークに
小さい頃から、食べることが好きだった のんある さん。農家の祖父が採ってくる新鮮なキュウリなどをかじり、有名百貨店に勤務する父親が持ち帰ってくる総菜を食べて育ちました。
「実は、のんある一家全員お酒を飲めないんです。お酒のない環境で育ったので、ノンアルコーラーになったのかな」
店を巡り始めたのは、大学生の頃でした。女性にモテたい。その一心で、何か趣味を持とうと考えたところ、誰にとっても身近な「食」を趣味にすることにしたといいます。
しかしすぐにインスタは開設しませんでした。というのも、ずっとガラケーを愛用していたので、写真の画質が悪く、できなかったそう。しかしせっかく増えてきた食の知識を生かさないのはもったいないと、1年半ほど前ついにインスタをスタートしました。
ノンアル系インスタグラマー「のんある男の東京ノンアル飯」さんのアカウント(画像:@non.aldesuga.nanika)
開設当初はフォロワー数を意識し、いずれはお金をもらうためにやっていたそうですが、徐々に心境に変化が現れます。
「お金払ってご飯食べているから、お金もらわなかったらやる意味がないと思っていました。だから最初はフォロワー数増やすために頑張っていたんです。でも、PR案件などいただくようになって、いろんなお店の方と接するうちに、それぞれに悩みがあることに気付いたんです」
「その悩みにどう寄り添えるかと考えたときに、お金も大事だがそれ以上に大ことなことがあるなと」
いま、新型コロナの影響で苦境に陥る飲食店はたくさんあります。一方で、流行(はや)る店もあります。のんある さんは、コロナを乗り越えて新しいことに挑戦すること、苦しい中でも違う戦略を考えてやっていくことの重要性を感じています。
ただのPRより、お店と一緒に成長したい
「テイクアウトを始めること、インスタグラマーを使ったPR、これまでと違う食材を使ってインスタ映えさせるメニュー開発など、流行りを模索し、自分の店にあったやり方を考えていければ苦しいけどやっていけるのではないかと思うんです」
「その力になるために、インスタグラマーがいるんです。だから、『PRする』というより『店と一緒に成長する』。1回限りの付き合いでおしまいではなく、その後も関係性を作っていけるようなインスタグラマーでありたいです」
もちろん、味の好みは人それぞれ。のんある さんが酷評した店を愛している人がいるのも事実です。フォロワーのなかには、「のんある さんの感性だけで、良い悪いを投稿するのはいかがなものか」とダイレクトメッセージを送る人もいるのだとか。
評価することについて葛藤もあるそうですが、自分なりに感じた良いところは良い、悪いところは悪いと伝えることで、店の魅力がさらに増し、フォロワーがおいしいご飯を食べる経験につながると考えています。
いずれはグルメ本の出版や、自分自身でも飲食店を経営してみたいといいます。
「飲食店で働くのは辛いと思われている人たちが多いと思うんですが、飲食店の店長に聞くと楽しいという人が多いです。そういうのもあって、いつか自分でもやってみたいですね」
飲食店をやるときは、定食を出したい、と話していました。
厳選、都内の本当においしい2店
最後に、都内のおいしいお店を紹介してもらいました。
1.「炭手前 鷽(うそ)」中央区日本橋蛎殻町
「天ぷらを揚げて、炭で焼くんです。炭火で焼いた天ぷらだからヘルシーです。そして、さくっと焼いているので、これまでの天ぷらとは違った食感で、かつ香ばしい香りもあります。2021年6月頃に行きましたが、今年一番個人的には感動しました。面白いなとおもいました」(のんある さん)
2.「レストランサカキ」中央区京橋
「昼だけ洋食、夜はフレンチのお店。20食限定の「林SPF(千葉県産のブランド豚)」を使用したポークジンジャーが絶品です!」(のんある さん)
食事の際は少人数で行き、マスクをつけるなど感染症対策をしっかり行い、節度を持って食べに行くことが大切です。
インスタを通じて、食でつながる人の輪。コロナで希薄になった人との縁をこれからも大切にしたいと話していました。グルメと一緒に、のんある さん自身も日々進化していきます。