マスク自作も再現レシピも「やればできるじゃん」 コロナで分かった、現代人のたくましきサバイバル精神

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マスク自作も再現レシピも「やればできるじゃん」 コロナで分かった、現代人のたくましきサバイバル精神

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鳴海汐

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外出自粛の期間中、手作りマスクやセルフ髪カットなど、必要に迫られてさまざまな「初チャレンジ」に臨んだ人が数多くいたようです。現代人がすっかり忘れていたサバイバル精神やDIYマインドを取り戻したことについて、ライターの鳴海汐さんが総括します。

必要に迫られ……初挑戦だらけの自粛生活

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」が全国で解除されて、数日がたちました。とはいえ私たちの生活は完全に元に戻るわけではなく、「新しい生活様式」とともにウィズコロナ時代を生きていかなければいけません。

 この外出自粛期間中は数多くの変化がありましたが、そのひとつに「DIYマインドの発達」があるのではないでしょうか。

 DIYとは「Do It Yourself」を省略した言葉で、「自分自身でやる」という意味。これまで簡単に手に入っていた物やサービスが突然に絶たれ、多くの人が自作や自力での解決を余儀なくされたのです。

今回、初めてマスクを手作りしたという人も多いはず(画像:写真AC)



 例えば以前はドラッグストアに山積みされていた不織布のマスク。入手が困難になり、それまで誰も作ったことのない「手作り布マスク」が一大ブームになりました。改良に本気を出す「裁縫マニア」のおかげで、型紙やプリーツ付きマスクの詳細な作り方がSNS上を大いににぎわせました。

 買い物の頻度を減らすため、また暇つぶしやストレス解消にお菓子作りをする人も続出し、粉類や生クリームが入手困難になりました。

「お菓子って意外と簡単においしくできるものなんだ」

と気付いたのでしょう。人気料理研究家のSNSで「粉ゼラチンが無いのですが、粉寒天でもいいですか?」といった代用を確認する質問が目立ったのもこの時期ならでは。

 たとえ材料がそろわなくても、ありものでなんとかしようという精神です。

ギョーザ皮もクロワッサンも自作

 外食もままなりませんでした。

 筆者を担当している女性編集者は、板橋区前野町の「中華ソバ 伊吹(いぶき)」に代表される「セメント系ラーメン(煮干しをふんだんに使ったセメント色のスープのラーメン)」が食べたくて、でも外出ができないので、ネット検索して個人ファンが紹介している再現レシピを発見し、自宅で作ってみたそうです。

 ラーメンはかなり手間と時間がかかるもので、なかなかのマニアでないと取り組まない難関です。

 筆者はというと、港区新橋のカレー店『ザ・カリ』の、辛さで地肌の毛穴が全開しそうなシャバシャバなカレーをなぜか急に思い出し、いてもたってもいられず再現レシピに頼りました。

 ほかには足りなかったギョーザの皮、肉まん、クロワッサン、毎日シロップに火を入れて10日かけてつくるオランジェット(オレンジの皮のチョコレート掛け)などに挑戦。

筆者が自作したオランジェット。多少いびつでも自宅で食べる分には問題なし(画像:鳴海汐)



 普段なら面倒で敬遠してしまうことに取り組めたのは、外出自粛によって食欲と時間がこれまでになく湧き出ていたからです。

 皆が欲しくてたまらないのは、食べ物だけではありません。

 世界的な都市封鎖や外出自粛により入手困難となったニンテンドースイッチをどうしても手に入れたい人が、友人を雇って自作したという驚愕(きょうがく)のニュースがアメリカから届きました(2020年4月19日付、GIZMODO)。

 交換パーツによる作り方をネットで公開して世の中に共有する精神もすてきです。

テレビ番組の出演者もセルフ散髪

 ものづくりだけでなく、DIYマインドが必要とされたのがサービスです。

 美容室に行くことができず、伸び続ける髪にフラストレーションを感じる人が多かったため、セルフカットの方法がネット上で出回りました。前髪くらいなら自分でも、とカットに挑戦した人は少なくないでしょう。

 セルフカットというと女性のイメージがあるかもしれませんが、テレビ朝日系列の情報番組『モーニングショー』のコメンテーター玉川徹氏も、耳にかかる部分をセルフカットしたと話していました。画面を通して見る限りは、まったく違和感はありませんでした。

外出自粛中、自宅でヘアカットを試みた人も多かったのではないか(画像:写真AC)



 DIYといえば、家のメンテナンスが最もイメージされるジャンルです。

 2020年の2月、東京を含む関東地方で相当な強風が吹いた日があったのを覚えていますか? 2019年の台風被害もあったので、その翌日、筆者の家では窓ガラスの飛散対策が議題にのぼりました。

 すでに新型コロナウイルスの感染拡大が始まっていたため、職人さんにお願いするのもはばかられます。セルフでやるしかない、担当は筆者となり、通販で「飛散防止フィルム」を取り寄せ。

 窓の寸法に合わせてフィルムを切り、洗剤を溶かした水を窓とフィルムに吹き付けてから、窓にフィルムを配置し、硬いヘラでしごきながら入り込んだ空気を抜いて貼り付けていきます。

 元・大家族のため部屋数が多く、窓が多い造りのため、食器棚を含めたら計70枚以上のガラスにフィルムを貼ることになり、苦行とも言える日々でした。気泡が入ったままのところもあって仕上がりは素人でしたが、ひとりでやり切った自信は「システムキッチンの壊れた食洗機の取り換えも自分でやる」と提案して家族に却下されたほどです。

DIYは、どこでなぜ生まれたのか

 ところでDIYはどこで始まったのでしょうか。開拓者精神の強いアメリカというイメージがあるかもしれませんが、発祥はイギリスのロンドンです。

 ネット百科事典「コトバンク」には「第二次大戦後のロンドンで、廃虚に立った元軍人たちが『何でも自分でやろう』を合言葉に町の再建に取り組んだのが始まりとされる」とあります。

 筆者は2019年ロンドンに滞在したとき、住宅街にあるような普通の商店街にペンキ屋さんがちょこちょこあることに気づきました。DIYは今も健在です。

DIYという言葉が誕生したイギリス・ロンドンの街。その精神は今も健在(画像:写真AC)



 一時滞在していたシェアハウスでは、管理人であるイギリス滞在歴の長い日本人女性に「部屋の壁にカビがある」と話したら、仕事が休みの日にさらっとペンキを塗ってくれたことがありました。

 大家に依頼しても対応に時間がかかるから自分でやるようになったとのこと。これまでペンキ塗りは大仕事と思っていた先入観を覆された経験でした。

 地方でイギリス人の一般家庭に滞在していたときは、ペンキ塗りの準備の場面に遭遇しました。あるとき、キッチンの壁にそれぞれ色の違う3本の線が描かれていました。どの色にしようか、実際塗ってみて検討しているということでした。なかなか大胆な方法だと印象に残りました。

 極めつけは、民泊を行っている20代カップルの家に滞在したときのこと。家の中がインテリア雑誌の中のようにおしゃれだったのですが、実はDIYなんだと言って元の典型的なイギリスの古い部屋といった趣のビフォー写真を見せてくれました。仕事の合間に1年かけて少しずつ造ってきたそうです。

 バスルームやキッチンなどの難所は、大工をやっている友達に手伝ってもらったと言っていましたが、完全にプロのレベルでした。

 日本でも、ひとりで家を建ててしまう人などをテレビで見ることがあります。とても特殊な例だと思っていましたが、実際にそういう人に会ってみると、案外できるものかも、と思うようになります。

現代に復活した頼もしきマインド

 緊急事態宣言が明けたので、今後はDIYをせずとも、プロによる商品、サービスを享受する機会が増えていくでしょう。しかし、この間に味わった「やればできる」という感覚は、この先も自信として残ります。

 そもそもDIYがロンドンで誕生したのも、前述の通り有事のときでした。

 もともと私たちに備わっていて、けれど休眠していたサバイバル能力やDIYマインドは、こんなときにこそ現れるのですね。とりわけ、何でもそろう便利なこの現代社会において、人々がたくましいマインドを呼び戻したことは、非常に意義深いことのように思われます。

「やればできる」という感覚は自信として残る(画像:写真AC)



「いざというときはDIYすれば案外どうにかなる」と分かったことは、未曽有(みぞう)の災禍である新型コロナの外出自粛期間が残していったレガシーと言えそうです。

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