有休年5日取得義務化も、社員を縛るネットの「縄」 打開策は?

  • ライフ
有休年5日取得義務化も、社員を縛るネットの「縄」 打開策は?

\ この記事を書いた人 /

川上敬太郎のプロフィール画像

川上敬太郎

しゅふJOB総研所長、ヒトラボ編集長

ライターページへ

2017年にフランスで施行された「つながらない権利」。日本企業における導入にはどのような課題があるのでしょうか。しゅふJOB総研所長でヒトラボ編集長の川上敬太郎さんが解説します。

「働き方改革」と「休み方改革」は表裏一体

「働き方改革」という言葉は世の中にかなり定着していますが、それに比べると「休み方改革」という言葉を耳にすることは少ないように思います。

コミュニケーションに便利なインターネット。その反面、利用者を縛る「見えない縄」になることも(画像:写真AC)



 内閣府は、平成26年に「休み方改革ワーキンググループ」を立ち上げて提言をまとめています。その報告書の一文に、「休み方の見直しは自ずとワークスタイルの変革につながる」と書かれています。本来、「働き方改革」と「休み方改革」は、表裏一体の存在です。

 働き方改革の流れで労働基準法が改正され、企業は一定の条件を満たす労働者に対して、年間5日以上の有給休暇を取得させなければならないことになりました。

 しゅふJOB総合研究所が、主婦業をこなしながら働きたいと考える“働く主婦層”に行った調査(2016年、ビースタイル登録者/求人媒体『しゅふJOBサーチ(現しゅふJOBパート)』登録者、960人)によると、有給休暇を「取得しにくい」「どちらかというと取得しにくい」のいずれかと回答した人は38.3%。重ねてその人たちに、どうすれば有休を取得しやすくなるかを尋ねたところ「職場に有休を取得しやすい雰囲気を作る」と答えた人が58.0%にのぼりました。

 この結果を逆に読み解けば、有休取得する際に「後ろめたさ」を感じてしまう人が一定数存在していることになります。であれば、法律で有休取得が義務付けられたことで後ろめたさから解放されそうにも思いますが、実際はどうでしょうか。

 例えば、以下のようなケースです。

A:「おつかれさまです」
B:「あれ? 今日、有休取ってなかったっけ?」
A:「そうなんですけど、仕事終わってないんで会社きちゃいました」
B:「そうか! がんばってるねー」

 夜遅くまで残業をしたり、休日返上で仕事をしたりすることが「美徳」とされる会社で働いた経験のある人には、聞き覚えのある会話ではないでしょうか。

 休日出勤をしなかったとしても、今はいつどこにいても誰とでもつながることができる社会です。携帯電話が普及したころからその傾向は見られましたが、スマートフォンが当たり前の現代では、その気になればいつでもどこでも仕事ができてしまいます。

 だからテレワークが推進されつつある訳ですが、いつでもどこでも誰とでもつながる社会というのは、自由に見えて、実はインターネットという“見えない縄”に常に縛られている社会でもあるのです。

「つながらない権利」とは?

 インターネットによって、いつでもどこでも誰とでもつながる社会は、一歩間違えると24時間私生活がない社会になりかねません。2017年1月、フランスでは勤務時間外にメールなどを通して仕事とつながらなくてもよい権利が法律で認められました。俗に「つながらない権利」といわれています。

有給取得に関するアンケート調査の結果(画像:しゅふJOB総合研究所)



 この法律は従業員50人以上の企業が対象で、勤務時間外のメールや電話など、企業から従業員へのアクセスを遮断する権利を認めるものです。権利を侵害された場合は、訴訟を起こすこともできます。イタリアやアメリカなどでも法制化が進み、日本でも先行した取り組みを行っている企業もあります。

 日本ではまだあまり馴染みのない「つながらない権利」ですが、休むことに後ろめたさを感じてしまう人にとっては、「つながっているから逆に休みやすい」と感じてきた面もあるのかもしれません。

「申し訳ないのですが、明日はお休みをいただきます。でも、いつでも携帯電話には出られますし、メールもチェックしているので急ぎの場合は連絡ください」

 有休取得前日の同僚と、そんな会話を交わした記憶はないでしょうか。

 仕事を休むことは、周りに迷惑をかけることで悪いことだという前提があると、自然とこのような会話になってしまいがちです。そんな価値観に馴染んでいる人は、むしろ日本人らしい周囲への気遣いだ、と捉えるかもしれません。

 有休取得することが「申し訳ないこと」である限り、「つながらない権利」どころか、暗黙のうちに「つなげておく義務」が発生してしまう可能性があります。それでは、せっかく有休取得が義務化されたとしても、ゆっくりとくつろいだ休みにはなりません。「休み方改革」には程遠いと感じます。

組織全体で、仕事の割り振り方の見直しを

 何とかしたいところですが、今の日本の働き方を見ている限り、「休み方改革」は一筋縄ではいかないかもしれません。

 大きな原因のひとつは、仕事の割り振り方です。担当領域を曖昧にして同僚同士がカバーしあう状態を前提にした業務体制の場合、全体の業務量が調整されないままだと、休んだ人の分の業務がそのまま負荷として残った人に上乗せされます。

 もし、自分の担当領域は自分の裁量で業務調整できて、他の人にしわ寄せがいかない体制が取れると、休むことの後ろめたさから解放されるはずです。

 そんな体制にするためには、個人の力だけでは限界があります。管理職のマネジメント改善はもちろん、組織全体で業務再設計に取り組むことが必要です。

 せっかく有休を取得できたとしても、「つなげておく義務」が伴う休みは、本当の休みにはなりえません。「つなげておく義務」を不要にする「休み方改革」を実現するには、働き方を根本から変える改革が不可欠です。それは、法律に合わせて表面だけ取り繕うような見た目だけの改善では実現できません。

 働き方と休み方、どちらも改善されて初めて本当の「働き方改革」です。そういう意味で日本の働き方改革は、まだまだこれからなのだと思います。

関連記事