外国人の同僚に感じる「違和感」の正体

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外国人の同僚に感じる「違和感」の正体

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淺海一郎

内定ブリッジ代表、日本語教師

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4月1日の「改正入管法」施行を受け、外国人労働者の増加が見込まれる日本。そのような状況下で、求められるのは彼らとの円滑なコミュニケーションです。いったいどういったことに気を付ければいいのでしょうか。

日本語の「配慮表現」がすれ違いを生む

「この仕事、できたら明日までにお願いできるかな。ちょっと急いでいて」

 みなさんは上司からこう言われたら、どう感じますか。そして、このあとどうしますか。

気をつけたい「配慮表現」(画像:写真AC)



 上司との関係や、その時の状況にもよると思いますが、多くの日本語ネイティブスピーカー(日本人)は、おそらくこの上司が「急いでいる」というメッセージを受け取ったと思います。その結果、多くの日本人が「はい」と言って、この仕事を始めるでしょう。この場合、上司から「指示」を受けたと感じる日本人が多いはずです。

 私が代表を務める内定ブリッジ株式会社が事業の対象としているのは、主に外国人スタッフを受け入れる企業なのですが、社内の外国人スタッフへの日本語教育と同時に、日本人側への日本語教育も専門的に行っています。

 日本人へ日本語を教えると聞いて、違和感がある方がほとんどだと思いますが、実はここが最も重要なのです。

 では、ここでみなさんに質問です。先ほどと同じ状況が起きたとき、日本語がネイティブでない多くの外国人社員はこの場合、どうすると思いますか?

 その外国人社員の方は、おそらく「はい」と言います。そして翌日、こういう会話が起きます。

「昨日の仕事、終わった?」
「いいえ。他の仕事がありましたから」

 指示をした(つもりの)多くの日本人はこう考えます。

「この外国人は信用できない。口ばかりだ。同意したのに仕事をする気がない。しかも、言い訳までするなんて、無責任だ。だから外国人は使えない。」

 しかし、果たしてそうなのでしょうか? ここでもう一度、日本人の指示を読んでみましょう。

「この仕事、できたら明日までにお願いできるかな。ちょっと急いでいて」

 外国人が混乱しているのは、「できたら」という表現なのですが、みなさんはこのことに気づきましたか。

 これを「配慮表現」といいます。オフィスコミュニケーションでは、頻繁に使用される日本語表現(特性)のひとつです。

 今回は「急いでいて」のメッセージを重く受け止めず、「できたら」を「できなかったらしなくてもよい」と理解した外国人の気持ちを考えてみましょう。

 いま提案された仕事ではなく、自分がすでに取り組んでいる仕事の優先度が高いと判断したこの外国人社員は、文字通り「できたら」この仕事をすることに対して、「はい」と返答をしました。

 決して日本語が分からないわけでも、無責任なわけでもありません。そして、優先度の高い他の業務が終わらなかったために、昨日依頼された業務ができなかったので、その理由を、誠意をもって説明したいと考えたわけです。

「終わりましたよ」にイラっとする理由とは?

 もうひとつ、日本語の会話事例をみてみましょう。

外国人社員とのコミュニケーション問題の本質とは(画像:写真AC)



「◯◯さん、昨日の仕事、終わりましたか?」
「終わりましたよ」

 相手や状況によるのですが、「はい、終わりました」ではなく「終わりましたよ」という返答に対し、自分が質問する側の立場であるとき、何か“違和感”を感じる方もいらっしゃると思います。

 しかし、多くの日本人がその違和感の正体を説明できません。それは、みなさんが日本語ネイティブなので、日本語を無意識に使えるからです。

「終わりましたよ」と言われ、一部の日本人がイラっと感じるのは、終助詞「よ」の機能的側面に由来しています。しかし、そのことを自覚できていない多くの日本人は、こういった「日本語からくるストレス」に対して、日本語の問題だとは認識せず、「この人は失礼だ」と理解する傾向にあります。

 これが日本語コミュニケーションのリスクです。

「性格」ではなく「日本語」の問題だと理解する

 いま示したふたつの事例には、共通点があります。

 それは、ミスコミュニケーションが生じた際、日本語ネイティブの日本人には「日本語の問題」と認識されず、それを発した側の「性格の問題」だとされやすい点です。

 加えて、これがオフィスのコミュニケーションであったなら、特に人間関係で評価が変わってくる日本企業の場合は、その人の評価にマイナスの影響を与えかねません。

 内定ブリッジ株式会社は最近、外国人受け入れにあたる日本人スタッフのコミュニケーションスキルや、外国人を受け入れる社内体制の現状を点検し測定するチェックテストの提供を開始しました。

 これは、日本人自身が気づかないうちに問題化している日本語コミュニケーションスキルや社内体制の不備が外国人社員の定着を阻害している多くの事例をふまえ、それらを個人レベルで測定するものです。

 チェックテストや日本語コミュニケーションの講習を受けることによって、自分にとって当たり前すぎて「意識していない、言語化できていない」知識や価値観、常識が客観的に意識できるようになります。

 問題の本質は、日本人が日本語の特性とリスクを自覚できていないところにあります。日本人が日本語のリスクを意識できないのは、意識したくないからではなく、そういう学習をしたことがないからです。

 ここはネイティブスピーカーの弱点で、いわば内側から日本語をみようとしても、何も見えてこないという構造になっています。しかし、外国人など、日本語がネイティブではない人に日本語を教える日本語教育のメソッドを用いると、外から日本語を眺めることになるため、コミュニケーションの問題の本質がみえてくるというわけです。

淺海一郎(内定ブリッジ株式会社代表、日本語教師)

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