かつての「静岡おでん」ブームを超えるか? 日本橋開催の静岡イベントに登場するピンク色の食材とは?

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かつての「静岡おでん」ブームを超えるか? 日本橋開催の静岡イベントに登場するピンク色の食材とは?

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小川裕夫

フリーランスライター

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11月8日(月)から12月7日(火)まで、日本橋の老舗料理店が静岡食材を使う「日本橋 しずおか食堂」というコラボキャンペーンが行われます。その背景には一体何があるのでしょうか。フリーランスライターの小川裕夫さんが紹介します。

コロナ禍で減少した静岡の観光需要

 サクラエビは、国内では駿河湾でのみ水揚げされる貴重な水産物です。生でも干しても、天ぷらや丼などの料理具材として活躍しています。また、生の身は透き通ったピンク色で、見た目も美しいことで知られています。

 そんなおいしいサクラエビですが、近年は不漁が続き、漁獲量は大きく減少していました。サクラエビは春と秋の2シーズンに分けて漁がおこなわれていますが、今秋は漁獲量が復調傾向にあります。豊漁は漁業関係者にとっても喜ばしいことですが、一方で漁獲できても販売ルート面で不安を抱えています。

約15年前、東京を中心にブームが起きた“静岡おでん”(画像:写真AC)



 というのも、2020年から感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響もあり、静岡への観光需要は大幅に減少しているからです。

 サクラエビは、本来なら静岡まで足を運ばなければ味わうことができない人気食材です。コロナ以前は多くの観光客が静岡を訪れていたことから、需要的な心配はありませんでした。

 ところがコロナによる観光客の減少。サクラエビは静岡にとって、いわば“外貨獲得”の手段でもあります。観光客の減少により、サクラエビによる経済効果が薄れているのです。

静岡と日本橋の老舗料理店がコラボ

 そうした状況を改善するべく、しずおか中部連携中枢都市圏とNPO法人全国街道交流会議が東京・日本橋の老舗料理店とコラボして、サクラエビをはじめとする静岡食材を使った「日本橋 しずおか食堂」キャンペーンを11月8日(月)から12月7日(火)までの約1か月間にわたって展開します。

11月8日から始まる「日本橋 しずおか食堂」の宣伝チラシ(画像:静岡市)

 しずおか中部連携中枢都市圏とは、

・静岡市
・島田市
・焼津市
・藤枝市
・牧之原市
・吉田町
・川根本町

の5市2町によって構成される団体で、全国街道交流会議は江戸時代に整備された全国の街道を生かした地域振興策を提案する団体です。

 両団体と日本橋北詰商店会が協力し、同キャンペーンを開始。静岡食材のPRや販路拡大、観光の再活性化や交流人口の増加にもつなげることを目的にしています。

約15年前に起きた“静岡おでん”ブーム

 静岡食材を使ったメニューを提供するのは、

・江戸前ずしの名店「日本橋 蛇の市本店」
・元禄(げんろく)元年創業、宮内省御用達も務めたかまぼこの老舗「神茂」
・徳川御三家の家令が買いに来た記録が残る「日本橋 弁松総本店」「にんべん日本橋本店」「文明堂カフェ」

など17の飲食店です。

 日本橋を代表する老舗17店で、サクラエビをはじめとする静岡食材をふんだんに使った期間限定メニューを味わうことができます。そのほか、「タロー書房」では静岡関連書籍コーナを特設します。

サクラエビ初セリの様子(画像:静岡市)



 駿河湾という天然の漁場を擁し、山の幸にも海の幸にも恵まれる静岡県ですが、“美食”のイメージは決して強くありません。静岡産の食材はお茶・ワサビ・ミカン・ウナギなどがありますが、それらを使った料理となるとすぐに思い浮かべる名産品はあまり多くないかもしれません。よくも悪くも、静岡は平均的なためにグルメ分野でも個性を発揮できていなかったのです。

 しかし、静岡グルメがほかの地域で受け入れられなかったわけではありません。約15年前、東京を中心に“静岡おでん”ブームが起きました。“静岡おでん”は、濃い口しょうゆを使った黒いスープで煮込んでいることが特徴です。

 見た目からは味が濃いように見えますが、見た目ほど味はくどくなく、静岡では駄菓子屋で食べるスタイルが主流です。そのため、主に小学生はおやつとして、中学生などは部活帰りに食べることが多いようです。

 東京で起きた“静岡おでん”ブームでは、さすがに駄菓子屋で食べるスタイルまで取り入れられませんでしたが、大人を相手に居酒屋や定食屋などで好評を博しました。
また、静岡で忘れてはならないのが、緑茶です。近年は健康志向の高まりからペットボトル緑茶の需要が拡大し、各メーカーがしのぎを削っています。

コラボで新たな食文化誕生なるか

 2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」では、主人公の渋沢栄一が静岡で商法会所を設立して、お茶の振興に努めたシーンも描かれるなど、緑茶と静岡は濃密な関係にあります。

 緑茶ブームに伴って、静岡茶がクローズアップされ、私たちの生活に当たり前のように定着。そうした普及過程を考えると、緑茶はブームというより定番化した静岡グルメといえるのかもしれません。

「青天を衝け」でも描かれた静岡茶の振興。大河ドラマを機にPR(画像:静岡市)



“静岡おでん”以降、静岡グルメは大きなブレークを起こしていません。それだけに、静岡県の関係者はサクラエビに大きな期待を寄せています。

 今回、日本橋北詰商店街を中心とした17店が期間限定で静岡県食材を使った特別メニューを提供しますが、日本橋は江戸期に魚河岸が開設され、関東大震災で損壊するまで江戸町民・東京市民の台所として親しまれていました。

 関東大震災からの復興で、魚河岸は築地へと移転。それが築地市場となり、築地市場も2018年に閉場。卸売市場は豊洲市場(江東区豊洲)へ移転しています。

 日本橋が担ってきた魚河岸の役割は忘れられつつありますが、現在でも日本橋には「日本橋魚河岸記念碑」が残り、その由緒を伝えています。

 江戸時代に魚の卸売市場としてにぎわった日本橋と、東京へ水産物を供給してきた静岡が時代を超えて“食”で結びつくことで新たな食文化が生まれるかもしれません。

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