「練馬大根」が有名な練馬区の農産物 でも生産量トップは大根じゃなかった!

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「練馬大根」が有名な練馬区の農産物 でも生産量トップは大根じゃなかった!

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出島造

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東京23区内で最大の農地面積を誇る練馬区。特に「練馬大根」の名前は有名です。しかし実は最も生産されているのは別の野菜であるのをご存じでしょうか。フリーライターの出島造さんが解説します。

世界が注目する練馬区の農業

 練馬区の農産物といえば、「練馬大根」の名で知られる大根です。同区の農業は有望な産業として飛躍している最中で、大根以外の農産物も続々と登場しています。

大根畑のイメージ(画像:写真AC)



 皆さんは、練馬区の農業が東京だけでなく世界から注目を集めているのをご存じでしょうか。その理由は東京23区という都市圏にありながら、大規模な農業が営まれているからです。

 2020年8月に練馬区が発表した最新の農業経営実態調査によると、練馬区の耕作面積は約1万8166a(181万6600平方メートル。東京ドーム39個分)、農家数は421戸を数えています。都内では練馬区のほかにも世田谷区や江戸川区などに農地はありますが、練馬区の規模は圧倒的で、都内の耕地面積の約4割を占めています。

 そんな練馬区で最も生産面積が広いのは、前述の大根ではありません。正解はキャベツで生産面積は2364a、次いでブロッコリーの933a。大根は第3位で883aとなっています。

 キャベツは同区で長く生産されており、石神井公園にあるJA東京あおばとれたて村石神井(練馬区石神井町)の敷地には、1998(平成10)年に建てられた「甘藍(キャベツ)の碑」という記念碑があるほどです。

大根の連作障害が生んだキャベツの台頭

 農業の主体が大根からキャベツへと生まれ変わったのは、戦前のこと。

 1933(昭和8)年頃、それまで練馬区で広く栽培されていた大根の収穫量が連作障害で激減しました。そこで、大根に変わる生産物として注目されたのがキャベツだったのです。

 戦後の食生活の変化で大根よりキャベツの需要が伸びたことから、作付けする農家は増加。現在では大根より多く生産されるようになりました。もちろん、都内でもトップの生産量です。

練馬区石神井町にある「甘藍の碑」(画像:(C)Google)



 そんな歴史を記念して建てられたのがキャベツの碑なのです。ちなみに現在では生産量が落ちている大根も、愛染院(練馬区春日町)の境内に「練馬大根碑」があります。地域の人は、練馬の農業を長らく支えてきた農産物に対する敬意を忘れていないということでしょう。

特徴は「多品目の少量生産」

 練馬区の農業の特徴として、都市での需要に即した生産物をフレキシブルに生産していることが挙げられます。

 前述の農業経営実態調査を見ると、生産面積に対して栽培されている農産物の数は数多く、

・枝豆
・ジャガイモ
・トウモロコシ
・トマト
・白菜

など。野菜以外では

・ブルーベリー
・キウイ

など、現代の食卓に欠かせないあらゆる農産物が生産されていることがわかります。この「多品目の少量生産」こそが、練馬区の農業の特徴なのです。

 そんな農業経営を可能にしているのが、完成された地産地消システムです。練馬区の郊外を歩いていると、農家が収穫した野菜を畑や庭先で販売している直売所をよく見かけます。練馬区内の直売所の数は262か所にも及びます。こうした直売方式が盛んに行われるようになったのは、1980年代後半からでした。

 練馬区もそれまでは23区のほかの地域と同様、都市化により農地は放棄され住宅地へと変わり、衰退が進んでいました。また住宅地からは、近隣の農地が肥料の匂いを垂れ流す迷惑なものと見る向きも少なくありませんでした。

JA東京あおばのウェブサイト(画像:JA東京あおば)

 そうしたなか、一部の農家が野菜のおいしさを知ってもらうために始めたのが、庭先での直売でした。これは次第に定着し、練馬区ではスーパーではなく農家の直売所から野菜を購入するライフスタイルが広がっていきます。

 その結果、農家側も経営を見直し、ひとつの品目を大量に生産するのではなく、家庭のニーズにあわせて、多くの品目を少量ずつ生産する体制へとシフトしていったのです。

キャベツの次はトマトに期待

 こうして定着した練馬区の直売方式。畑の一角に野菜を並べてお金を入れてもらう昔ながらの方式もありますが、ロッカー型自動販売機も当たり前に使われています。

野菜のロッカー型自動販売機(画像:写真AC)



 近隣の都市住民のニーズに応える形で進化して存続してきた練馬区の農業は、今も変革を続けています。

 現在、生産量の増加が期待されているのはトマトです。トマトは野菜のなかでも小さな面積で高い収量を見込めます。練馬区では、収穫量の減る冬から春にかけてハウス栽培を行うことで消費者のニーズに応えることができるとして、生産する農家が増加しているといいます。

 大根ばかりではない練馬区の農業。新鮮な野菜が楽しめるというだけでも、練馬区に住みたくなってしまいます。

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