昭和時代は秋開催だった「小学校の運動会」が知らぬ間に春に移ってたワケ

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昭和時代は秋開催だった「小学校の運動会」が知らぬ間に春に移ってたワケ

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日野京子

エデュケーショナルライター

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かつては秋に開催されていた運動会ですが、現在では春に行われるケースも少なくありません。いったいなぜでしょうか。エデュケーショナルライターの日野京子さんが運動会の歴史もふまえて解説します。

エリート層から始まった日本の運動会

「スポーツの秋」という言葉があるほど、涼しい秋は運動に適しており、運動会も各地で行われています。

小学校の運動会のイメージ(画像:写真AC)



 そんな運動会ですが、一般的に日本で最初に行われたのは1874(明治7)年に海軍兵学寮で行われた競闘遊戯会とされています。一方、「海軍兵学寮の競闘遊戯会に関する一考察(日本教育学会「教育学研究vol63」1996年6月 木村吉次)」には、

「運動会の起源ということでは、1868年8月15日(慶応4年6月27日)横須賀製鉄所で開催したものが指摘されている。『岸野他編 近代体育スポーツ史年表』では、これを『日本最初の洋式運動会』としている」

とあるため、その起源は諸説あるようです。ただ、日本が近代国家へと歩みだした頃にはすでに行われていたことに変わりないようです。その後には、札幌農学校(現・北海道大学)や明治法律学校(現・明治大学)でも運動会が開催されています。

 現在は「運動会 = 小中学校」のイメージが強いですが、その黎明(れいめい)期は、欧米文化と接する機会の多かった高等教育機関で盛んに行われていたことになります。

体操教育の普及で運動会の原形が誕生

 高等教育機関ではなく、小中学校の運動会を語る上で外せないのが体育の存在です。

 体育は1872(明治5)年に公布された学制に「体術」という名で登場し、翌年には体操に改称されます。そして、体操を教える教員育成機関「体操伝習所」が1878年に神田一ツ橋に設立されたことで、体育教育は徐々に広まっていきました。

 この体操伝習所で行われた「春季大演習会」というイベントが、小中学校での運動会誕生のきっかけになりました。

東京2020オリンピック競技大会のメイン会場となった新国立競技場(画像:写真AC)



「日本の学校における運動会の発達に関する研究(中京大学体育学論叢36巻2号1995年3月)」によると、1884年4月に開催された春季大演習会では、体操だけでなく綱引きや競歩なども実施。同年11月には早くも第3回目となる「秋季大演習会」が行われており、だいぶ好評だったようです。

 演習会の盛り上がりを目の当たりにした教職員が、自分たちの学校で開催できないか考えるのは自然な流れです。同年、当時の東京府の公立小学校の教員と生徒が参加した体育奨励会が体操伝習所を会場として行われています。

 同年には徳島県でも体操や縄跳び、綱引きといった演目の演習会が実施されており、運動会誕生の兆しが各地で芽生えた年といえます。

世界的イベントの影響で秋に定着した運動会

 東京都内で学校が主体となった演習会が初めて開催されたのは、1885(明治18)年です。北豊島郡の一部(現・北区)の地元公立小13校が集まりました。

「運動会と日本近代」(青弓社)によると、最初の開催場所は飛鳥山でした。鉄道唱歌の北陸編の4番に

「春はさくらの飛鳥山 秋は紅葉の滝の川 運動会の旗たてて かける生徒のいさましさ」

とあり、運動会の会場として名をはせていたことがわかります。

 その後、校庭の整備が進むとともに各学校で運動会が行われるようになります。そして、「運動会 = 秋」というイメージを定着させたのが、1964(昭和39)年の東京オリンピックです。

現在の千代田区一ツ橋エリア(画像:(C)Google)



 今でこそ夏季オリンピックは7月や8月に開催されますが、東京オリンピックの開会式は秋晴れの10月10日に行われました。なおそれを記念して、1966年に10月10日は「体育の日」に制定されています。

 法改正により、2000(平成12)年からは10月の第2月曜日に変更。2020年からは「スポーツの日」に改称されました。

 戦後日本の復活を世界中にアピールした東京オリンピックの影響は大きく、「秋といえば運動、スポーツ」というイメージが定着。昭和から平成初期にかけて、小学校の運動会は9月や10月開催が中心となりました。

東京では春開催が増加

 なお最近の運動会は、秋ではなく春に実施する小学校が増えています。

「全国の公立小学校の運動会開催時期と熱中症の危険度評価」(日本生気象学会雑誌54巻、2017年)には、小学校の運動会(2013~2015年度)が実施された季節の調査結果が記載されています。

 それによると、東京都内の小学校の59.9%が運動会を春に開催していました。近年、9月や10月はまだ暑く、熱中症の不安も残ります。また、台風シーズンということもあり延期・中止の可能性も低くありません。

 また、秋には学習発表会などの行事もあり、学校生活は慌ただしくなります。また、東京都内では中学受験をする児童もいます。このようなことから春の開催に移行する学校が増えていったと考えられます。

小学校の運動会のイメージ(画像:写真AC)



 新型コロナウイルスの感染拡大で、直近2年の運動会は従来通りに実施することが難しかったですが、1日も早い完全復活を願って止みません。

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