全てが「中止」となったコロナ禍、イベント業界は何を考えていたのか? ベテランプロデューサーが振り返る「1年9か月」

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全てが「中止」となったコロナ禍、イベント業界は何を考えていたのか? ベテランプロデューサーが振り返る「1年9か月」

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テリー植田

イベントプロデューサー

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あらゆるイベントが軒並み「中止」となった2020年からの新型コロナ禍。イベント業界は、いったい何を感じ、何を考えていたのでしょうか。ベテランプロデューサーのテリー植田さんが、自身の体験を元にこの1年9か月を振り返ります。

まだ甘く見ていた2020年2月末

 イベントプロデューサー「テリー植田」と、そうめん研究家「ソーメン二郎」。東村山市に在住し、ふたつの肩書きで活動する植田さんが見た新型コロナ禍とイベントとは。自身の体験を元に2021年2月末からの1年9か月を振り返ります。

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 イベントプロデューサーとしてコロナの影響を最初に意識したのは、2020年2月末に渋谷で開催予定だった地方自治体のイベントを中止することになったときでした。

 地方自治体のイベント担当者から電話がかかってきて、東京でのコロナ状況を懸念してイベントを中止にできないでしょうかという相談でした。その県内では地方自治体が主体となるイベントが全て中止になり、東京で実施されるイベントも中止要請が出ようとしているタイミングだったのです。

コロナ禍でイベントが軒並み中止となったイメージ(画像:写真AC)



 私は正直この2月末の時点では、体温検査、消毒、換気をしていればイベント実施は問題なくキャンセルになるイベントはないだろうと甘く考えていたのです。それからあっと言う間に2020年3月以降ほぼ全てのチケット発売済みのイベントがキャンセルになり、イベントでのクラスター発生、音楽フェスティバルの開催中止が続いたのはご存じの通りです。

 2020年に小売店で行う新商品の試飲会やサンプリング配布など企業の大掛かりなプロモーション企画など私がプロデュースを予定していたものは一切なくなりました。2021年の9月になっても新規のイベントがほとんど実施できないような状況が続くことになるとは夢にも思いませんでした。

 と言っても実際は、非常事態宣言下であっても政府、東京都のコロナ対策のガイドラインに沿ってイベントは開催できます。しかしながら主体になる企業や地方自治体からすると、人が集まるリアルイベントの開催にはまだまだ慎重です。

 ライブを主催するイベント制作会社やアーティストも実施したい気持ちとコロナを懸念する気持ちで2020年から悩みに悩んでいることだと思います。これはイベントに関わっている方々がコロナ禍において皆同じ体験をされたものだと思います。

 ライブハウス、飲食店の閉店休業。結婚式、修学旅行、音楽フェスの中止とイベントがことごとくなくなっていきました。ワクチン接種は全国的に進み、2021年9月30日(木)で緊急事態宣言は全面解除されましたが、マスクの着用や「3密」回避は今も欠かせません。

 コロナ以前に実施していたようにイベントが自由にできるような世界に戻るのは一体いつになるのでしょうか。

オンライン開催が残した功績

 2021年7月29日(木)から8月1日(日)にかけて米シカゴで実施された巨大音楽フェス「ロラパルーザ」は、4日間で38万5000人の動員がありました。ワクチン接種を受けた人が入場を許可され、ノーマスクで観覧できたようです。

 日本でもワクチン接種を証明する「パスポート」を発行する動きがあります。今後はイベント会場の入り口でワクチン接種証明書のチェックがされるようになるでしょう。

 イベントプロデューサーとしてはイベント開催ができなくなったのですが、ビジネスセミナーの講師を何度か務める機会がありました。コロナ禍でイベントができないのにイベントセミナー講師をするのは歯がゆい思いでしたが、コロナ明けにはきっとイベントが実施できる世界が来ると願って引き受けました。

 セミナーではコロナ禍のオンラインイベントやSNSの活用事例について紹介しました。お話したのはこんな内容です。

 コロナ禍になり無観客の音楽ライブがオンライン配信で多く行われました。海外ではBTS(防弾少年団)、ビリー・アイリッシュが全世界に向け新しい配信プラットフォームを使用しライブ配信を実施。日本では嵐やB’z、サザンオールスターズ、白石麻衣(乃木坂46)、Official髭男dismなどがライブ配信を行い、多くの人が視聴しました。

 2005(平成17)年にDVD150万部の大ヒットを記録したフィットネスの「ビリーズブートキャンプ」の令和版が、外出自粛・テレワークの運動不足を解消するオンラインプログラムサービスとして大復活を果たしました。

 2020年4月に人気落語家の春風亭一之輔さんがコロナの影響で休演となったことを受け、10日間連続で高座をYouTube無料配信しオンライン上に新たなファンを獲得したことは、落語界としては画期的な出来事でした。

 無観客オンライン配信で行った「マジカルラブリー no 寄席」は、客席にいる出演者がステージの出演者に笑ってしまう野次を飛ばすのが大ウケしてチケット(960円)が1万7000枚以上売れました。

 ツイッターのコメントとYouTubeの面白さが話題になった高知の桂浜水族館は、水族館人気ランキング(ねとらぼ調査隊)でTOP50の中でダントツの1位を記録しました。これは休園中の水族館がオンライン上で未来のファンを多く獲得したミラクルな作戦でした。

見直されたポッドキャスト

 TikTokで小説紹介を行う けんご(@kengo_book)さんが、30年前の実験的SF小説『残像に口紅を』(筒井康隆・著)を紹介すると瞬く間に3万5000部の重版になったのは出版界にうれしい悲鳴をもたらしました。

 宿泊サービスのAirbnbが始めた動画体験サービスでは、奈良市でカフェWAKAKUSAを経営する中西弘之さんが主宰する折り紙体験が海外企業の社員向けチームビルディングに効果的だと評判です。

 この中西弘之さんは、Amazon primeが新たに始めたバーチャル旅行体験ができる動画サービス「アマゾン・エクスプローラー」でもツアーを提供し、奈良に興味のある海外在住の外国人に新しい旅行体験の提供に成功しています。

 公営ギャンブルでは、北海道の帯広市にある世界唯一の農耕馬レースである「ばんえい競馬」が2020年の開幕日4月24日(土)にオンラインで歴代最高となる5億9233万円を1日で売り上げました。

 ブームが過ぎ去ったと思われていたポッドキャストが、2020年になってアメリカで大ブレークしました。その波が日本にもジワジワと押し寄せています。Spotify、Apple Podcast、Amazon music、Google Podcastでポッドキャストが配信されるようになり、人気番組も多く視聴できるようになりました。

コロナ禍で人気が再燃したポッドキャストのイメージ(画像:写真AC)



 スマートフォンで簡単に配信できるポッドキャスト配信アプリが登場し、また複数のマイクで同時に収録が可能でリーズナブルな価格のレコーダーも発売され、ポッドキャスターは急増しています。

 Spotifyは、2020年に「今、絶対聴くべきポッドキャストを見つけよう」をテーマに掲げてポッドキャストアワーズを実施しました。選考委員にはテレビプロデューサーの佐久間宣行さん、市川紗椰さんが参加しています。テレビ東京ではSpotifyと連動した深夜枠ドラマ『お耳に合いましたら。』(伊藤万理華さん主演)が放送スタートして注目されています。

 私はポッドキャスト番組を個人でも始め、企業からの依頼を受けて番組の制作も始めました。2021年に入り音楽雑誌の編集長から声がかかってポッドキャスト番組の制作に取りかかり4月から配信開始しました。 アメリカでのポッドキャストムーブメントの盛り上がりがすごいことになっていて、その余波が日本にも来るであろうというタイミングでした。

 番組制作のためにレコーダー、マイク、マイクスタンド一式を購入し収録、編集、配信をひとりで担当するようになりました。自分が制作した番組がApple Podcast、Spotify、Google Podcast、Amazon musicで配信されたときは声をあげるほど喜びを味わいました。

 こんな苦しい時期は、コンテンツの新発明をするか、既存のコンテンツを新しい見せ方で売ることしかありません。イベントができなければ、この時期は割り切ってイベントノウハウを学ぶセミナーという形でコロナ明けに備えて学びましょう、というスタンスを取りました。

 セミナー専門企業からセミナー講師として呼んでもらうことが増えました。オンラインでの地方企業担当者の視聴参加が多かったことから、企業や自治体がイベントできないタイミングでこそイベントについて学びオンラインで実践しようという意識があることを実感しました。

すっかり定着したオンライン出演

 一方、コロナ禍でそうめん研究家・ソーメン二郎としてのメディア出演活動では得るものがたくさんありました。オンラインでのテレビ・ラジオ収録や取材経験です。

 コロナ禍で、日常生活でもPayPayなどQRコード決済に始まり、Zoomでのオンライン会議は定着しました。ソーメン二郎としてのテレビ・ラジオ番組収録、インタビュー、打ち合わせは、ほとんどがZoomなどを利用したオンラインでの実施になりました。

 2021年5月31日(月)に刊行したレシピ本『ラク旨!無限そうめんレシピ』(扶桑社ムック)の制作は、編集長、編集者と私のZoom企画会議に始まり、料理の撮影現場でオールスタッフで一度会いはしたものの本が発売した後は会っていません。PRは、テレビ・ラジオ出演、ウェブ記事になりリアルのイベントは実施しませんでした。本の帯コメントを書いていただいた歌舞伎役者の松本幸四郎さんにも、コロナ禍ではお会いしていません。

 2020年夏前にはMacBook Pro、iPad、マイクを買いそろえ番組収録に備えました。コロナ禍では外でのロケ撮影が減り、芸人さん、タレントさん、アナウンサーさんらと一緒に行うスタジオ収録もほとんどありませんでした。

 その代わり、キッチンスタジオでの料理撮影、もしくは自宅とキッチンスタジオをZoomでつないで私が自宅からリモートでアナウンサーさんやタレントさんに調理の指示や解説をする撮影方法が多くなりました。

 2020年最初は、放送局からiPadと三脚、Wi-Fiが送られて来てドギマギしながらFaceTimeでつないで収録していましたが、コロナ禍以降、ラジオ、テレビ番組に50本以上出演し今はもうオンライン収録・出演は当たり前になりました。

 夏になると毎年出演させてもらう番組が多くなり、ディレクター氏とはLINEでつながっています。自分のスマートフォンで料理の撮影した動画をLINEで送って、それをディレクター氏が編集して放送されることもよくあります。

 とても驚いたことがあります。ソーメン二郎の活動としてやっている、小・中学生向けにオンラインで食育イベントでのことです。

子どもたちの目覚ましい創造力

 子どもたちと一緒にそうめんの新しいレシピを考えるオンライン・ワークショップです。驚くことに小学校2年生がZoomをひとりで操作して私と話すのです。

 そうめんの新しいレシピを家にある食材で考えるために、冷蔵庫の中の余り食材を見に行ってもらいます。そうめんに合いそうな食材を探しながらレシピを創作してもらいます。冷蔵庫に良さそうな食材がなければ後日お母さんと一緒にスーパーに買い物に行ってもらいます。

そうめんのイメージ(画像:写真AC)



 翌週に行うワークショップでは、実際に作ったそうめんレシピの写真やイラストを私に見せながらプレゼンテーションをしてもらいます。子どもが初めてそうめん料理を作る記憶に残る体験です。子どもたちはこの夏のオンライン体験は一生忘れないでしょう。

 なんと言っても私が思いつかないようなそうめんレシピが次々と出てくことに驚きました。ソーメン二郎として出演するテレビ番組をオンラインワークショップ前に知らせておいて番組を見てもらうと、子どもたちはテレビで見た人だと言ってとてもうれしがってくれます。

 コロナ禍でオンラインイベントを実施するのも参加することも当たり前になりましたが、日常生活で仕事でもプライベートでもコミュニケーションがオンライン化し人間関係自体がデジタル化しています。

 ラジオ、テレビ、ウェブなどメディアの担当者ともオンラインでいつもつながっている感覚です。その担当者とは一度も直接会っていないのに収録され放送されて関係性が続くのは不思議な日常です。

 このオンライン生活の日常化こそコロナ禍で起こった一大イベントのように感じています。

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