辞典に収録された現代ワード
「推し」という言葉が、すっかり現代日本語として定着しました。
大辞林第4版(三省堂、2019年9月発行)には「推すこと。特に、『応援していること』『ファンであること』をいう若者言葉」との記載があり、同じく三省堂の現代新国語辞典第6版(同年1月)には「推しメン」という単語も収録されています。
比嘉愛未さん主演で2021年7~9月にフジテレビ系で放送されたのは、ずばり『推しの王子様』。
比嘉さん演じる主人公の泉美は、乙女ゲームを手掛けるベンチャー企業「ペガサス・インク」の社長。泉美自身が理想とするキャラクター「ケント様」と恋に落ちる乙女ゲーム『ラブ・マイ・ペガサス』を制作、大ヒットとなります。
そんなある日、「ケント様」とそっくりな男性がゲームと同じように舞い降りてきて……というストーリーでした。
人気作品のタイトルにも「推し」
いつの間にか日常生活に溶け込んでいた「推し」という言葉。第164回芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』(宇佐美りん著)も記憶に新しいところです。
ほかにも『推しが武道館にいってくれたら死ぬ』(平尾アウリさん著)など作品タイトルに用いられることも多く、「流行」ではなく一般用語になったと言えるでしょう。
「推し」とは、「好き」だけにとどまらず「人に勧めたいほど好き」な対象を指します。もともとはアイドルグループの中で一番応援している(イチオシの)メンバーを指す「推しメン」が流行したことから、広く使われるようになったのだそう。
80年代頃からあった言葉ですが、AKB48グループの人気が高まり始めた10年ほど前から頻出し出したようです。現在ではSNSでも日常的に見かけるようになりましたし、「あなたの推しは?」なんて会話もそこここで聞かれるように。
推しがいる生活は楽しい?
『推しの王子様』に登場する会社、ペガサス・インクでは社員の“推し活”を推奨していました。推しと一言で言ってもさまざまで、女性アイドルや俳優が推しの場合もあれば、ほかにも編み物、歴史。そして社長の泉美は乙女ゲームのキャラクター。
好きなもの、好きな人がいる生活は楽しい! というのは想像ができるはず。
例えば、推しのアイドルのツアーが決まれば、どこの公演に申し込むか、遠征をするか、遠征先のホテルはどうするか、などとウキウキと思案。
推しの俳優のドラマ出演が決まったときにはオンエア前からテレビガイド誌をチェックし、プロモーションで出演するバラエティーや情報番組もチェック、オンエアー当日は仕事も家事も終わらせて正座待機。もちろん録画はするし、できればTVer(民放番組の無料配信サービス)での再生回数も上げたい……と忙しい!
推しの存在は日常に潤いを与えてくれるのです。
ただ、良いことばかりでもなく……。
アイドルを推せば卒業や脱退、もしくは解散の可能性もあります。アニメや漫画ならそんな心配はなし! と思いきや、作品によっては推しキャラが死んでしまったり、不幸な目に遭ってしまう場合も……。
推しができると、私たちの“生殺与奪の権”は推しに握られてしまうと言っても過言ではないかもしれません。
推し活につきものな「遠征」
日本全国で行われるライブ、イベント。推しのステージを見るために遠出するという人も少なくないでしょう。ステージ観戦だけでなく、観光やその土地の名物を食べることも楽しみのひとつ。旅行 = 遠征という人も多いのではないでしょうか。
もちろん、ライブやイベントを堪能するだけでも楽しいもの。遠征して、ライブを見て、友人と食事をし、ホテルに戻ってシャワーを浴びてリラックスしたところでベッドの上でSNSで他のファンのライブの感想を見ながらウトウトと夢の中へ……。そんな時間がプライスレスだったりするのです。
そんなふうに地方へ行くのも楽しい!……のですが、やはり推し活をしやすいのは東京だったりします。
東京は推し活拠点の最適解?
ツアーは全国各地を回るケースがは多いので、遠方のファンにもうれしいところ。
ただ、イベントや展示会、舞台などの開催数は、どうしても東京が多いのは事実。例外として、その推しゆかりの場所が追加になるぐらいです。よほどの支持がなければ多くの都市を回ることはできません。
また、番組の観覧参加となると、これはもう圧倒的に東京が有利。なにせテレビ局の多くは東京に集中しているのですから……!
さらに、関東圏のみでのオンエアーという番組もありますし、もしくはそのほかの地域では時間帯がズレて番組開始という場合もあります。
SNSで関東組が盛り上がっているのに、リアルタイム視聴できないのは唇をかみしめてしまうところです。うっかりタイムラインを閲覧して、ドラマのネタバレが目に入ってしまうことも。
そして、地方公演へ行くにしても東京はどこへ行くにもアクセスが良いのです。
例えば、5大都市に行こうと考えたとき、羽田空港から新千歳空港まで1時間半。福岡まで1時間55分。東京駅から新大阪まで約2時間半。名古屋までは1時間半になります。
どこに行くにしても同じぐらい(というとちょっと幅を持たせすぎかもしれませんが)の時間で行くことができるのです。その分、推す側もフットワークが軽くなり、より推し活がはかどる……というわけです。
東京で推し活満喫はいかが
住む場所によって、推し活の楽しみ方もかわってきます。最近では動画配信も増えましたし、推し方もさまざま。
しかし、フットワーク軽く推しの活動を見守りたい、なるべく多くの“現場”へ足を運びたい、という人の場合は、やはり東京のほうが良いのかもしれません。
人生で一度は、東京で推し活を満喫するというのも悪くない選択肢なのではないでしょうか。