1000年も前の作品に出会える! 映画『時かけ』が教えてくれた「博物館」という名の奇跡について

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1000年も前の作品に出会える! 映画『時かけ』が教えてくれた「博物館」という名の奇跡について

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成田愛恵

チアライター

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当たり前のように存在している「博物館」は、実は“奇跡”を集積したような場所――。その偉大さを教えてくれた映画『時をかける少女』を下地に、チアライターの成田愛恵さんが東京国立博物館の歴史をたどります。

15年たっても変わらぬ魅力、映画「時かけ」

 平成の大ヒットアニメ映画『時をかける少女』(2006年、細田守監督)。高校生3人が夏の青空の下、放課後に野球を楽しんだり、突然の小テストに一喜一憂したりと青春が満載の映画です。

 映画の中には実在する場所をモデルにした風景がたくさん出てきます。なかでも鍵となる場所に「東京国立博物館」があります。いったいどんなところなのでしょうか。劇中のセリフも交えながら博物館について学んでみましょう。

※本記事はネタバレを含みます。

「未来で待ってる」――同作のあらすじ

『時をかける少女』は筒井康隆氏が執筆したSF小説が原作のアニメ映画です。高校生3人のひと夏の友情と恋を描いた本作は、公開から15年がたった2021年現在も多くのファンに愛されています。

映画「時かけ」の重要な舞台として描かれた、東京国立博物館(画像:写真AC)



 物語は夏のある日、高校2年生の紺野真琴が理科実験室で転倒、落ちていたクルミを割ってしまい過去に戻る力「タイムリープ」を手に入れるところから始まります。

 過去に戻れるようになったことに気がついた真琴。最初は妹に食べられてしまったプリンを食べたり、何度も友人の間宮千昭、津田功介に野球のスーパープレーを見せつけたりと無邪気に楽しんでいました。

 しかしタイムリープの能力を使い切った直後、津田功介と後輩がブレーキが壊れた真琴の自転車に乗り電車と接触しそうになります。時を戻すことができず、必死に自転車を追いかける真琴。ふたりが宙に投げ出されたそのとき、突然時が止まります。

 間宮千昭によるタイムリープです。実は千昭は未来からやってきた人物で、クルミは千昭がタイムリープのために未来から持ってきたが紛失していたというものでした。

 千昭は過去の人間にタイムリープの存在を知られてはいけないという決まりを破ったため、真琴に別れを告げ姿を消しました。

鍵となるコレクションがある「東京国立博物館」

 本作の聖地のひとつは上野にある東京国立博物館(台東区上野公園)です。

2021年夏、細田監督の最新作『竜とそばかすの姫』公開に先立ちdTVで配信された『時をかける少女』(画像:(C)「時をかける少女」製作委員会2006)



「魔女おばさん」こと真琴のオバの芳山和子が働いており、真琴はタイムリープや友人関係の悩みを話すためにたびたび博物館を訪れます。

 東京国立博物館は本作の鍵となる場所です。劇中にこんなセリフがあります。

「どれだけ遠くにあってもどんな場所にあってもどれだけ危険でも、見たかった絵なんだ」(千昭)

 千昭が未来から来たのは、千昭の時代には残っていない絵画「白梅二椿菊図」(架空の作品)を東京国立博物館でひと目見るためだったのです。所在や来歴が分かる記録もなく、存在が確実に記録されているのは「この時代の、この場所の、この季節だけだった」と語っています。

 実は作品は和子が修復中。千昭と思われる人物が展示ケースの前でたたずみ、「保存上の理由により、一時展示を見合わせています」と書かれたキャプションを見つめているシーンが、何度も登場しました。

 まもなく修復は完了したものの、千昭はそれを目にすることができずに未来へ帰ります。真琴は河川敷で未来へ帰る千昭にこう言います。

「あの絵、未来へ帰って見てね。もう無くなったり燃えたりしない。千昭の時代にも残ってるようになんとかしてみせる」

「未来で待ってる」

 千昭はそう言い残し、真琴の前から姿を消しました。

文化財を未来へ受け継ぐ 博物館を守るには

 東京国立博物館は1872(明治5)年に湯島聖堂で文部省博物館として最初の博覧会を開催し、開館。日本を中心とする東洋の美術品や考古遺物など約12万件の文化財を収蔵。日本の文化芸術の歴史が一堂に会しているといっていいでしょう。

 博物館や美術館は文化財を展示・公開する場所ですが、文化財の保存・修復という役割を担う場所でもあります。

 文化財は展示ケースや保管庫に収蔵しておくだけでは未来に受け継げません。

 落下や故意の破損、盗難や紛失などを防がなくてはいけないのはもちろん、湿気、虫、強い光による劣化を防ぎ、退色や破損がある場合は修復しなければいけません。自然災害や紛争などによって博物館・美術館ごと壊れてしまう恐れもあります。

国宝「千手観音像」平安時代、12世紀(画像:東京国立博物館 名品ギャラリー)



 文化財の保存・修復には学芸員や修復担当者などの人員に加えて、安全に文化財を保存できる設備、それらを運営するための税金や寄付金、チケットやグッズ販売による収入などからなる財政基盤が欠かせません。

 しかし最近では新型コロナウイルス感染症の拡大により、展覧会の中止や休館が相次ぎ入館料やチケットによる収入が減少。国内外で博物館を支える財源の確保が課題となっているほか、紛争地域では博物館や遺跡の破壊行為も相次ぎ、文化財がこの時代で失われてしまう可能性があります。

 千昭は過去に来て、川が地面に流れている景色や人がたくさんいる様子を初めて見たと言っています。千昭が生きている未来では、テクノロジーが高度に発展し自然環境が姿を変えているか、もしくはなんらかの理由で荒廃し、その過程で作品が失われたのかもしれません。

いくつもの“奇跡”を収めた場所、博物館

 私たちが何千年も前の生き物の化石や建築、何百年も前の絵画や彫刻などの文化財を目にできているのは奇跡といっていいでしょう。過去から現在に至るまで、守り抜いた人たちがいなければ、消失してしまっているからです。

 そして過去の英知である文化が継承されている国は、それらから学び、発展することができます。そのためには、文化芸術を享受する私たちが博物館・美術館の役割を理解し、支えなければいけません。

 未来で待っている千昭に私たちの財産を受け継ぐために、私たちにできることはなんでしょうか。感染症の危機が去った社会が訪れたら、ぜひ博物館に足を運んでみてください。

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