人気作『あたしンち』で脚光 西東京の主要駅「田無」はベッドタウンの最適解だ!

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人気作『あたしンち』で脚光 西東京の主要駅「田無」はベッドタウンの最適解だ!

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シュウ

漫画・アニメライター

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漫画・アニメ『あたしンち』。1994年の連載スタートから単行本累計1000万部を超える大ヒット作です。本作の舞台である西東京市の田無は、いったいどんなまちなのでしょうか? その「住みやすさ」を検証してみました。

『あたしンち』ファンにはおなじみ田無

 武蔵野台地のほぼ中央に位置する西東京市の、田無町。西武新宿線の田無駅があることでご存じの人もいるかもしれません。

 この地は人気漫画・アニメ『あたしンち』の舞台としても有名です。同作は1994(平成6)~2012年に読売新聞の日曜版で連載、2002~2009年、2015~2016年にテレビアニメ化されて、映画にもなっています。さらに2019年には週刊誌AERAで7年ぶりに漫画連載を再開しました。

人気作『あたしンち』の舞台にもなっている西武新宿線の田無駅(画像:写真AC)



 単行本累計1000万部を超える本作は、母、みかん、ユズヒコ、父の4人で構成される「タチバナ家」を中心に、何気ない日常を描いた漫画です。熱烈なファンが多く、なかにはアニメに出てきた場所に訪問する「聖地巡礼」をする人もいるほど。

 しかし同じ東京都内のまちといっても、渋谷や新宿などと比べるとどのような場所なのかは案外知らない人が多いのではないでしょうか。

 せっかくですから、街の賃貸情報、鉄道駅とその周辺の特徴、歴史などの観点から、田無という街を見ていきましょう。

4人家族、3LDKマンション暮らし

『あたしンち』のタチバナ家が住んでいる、田無。一家が暮らしているのは、5階建てマンションの一室(3LDK)です。

一般的な3LDKの間取り図(画像:イラストAC)



 公式サイトには、タチバナ家の詳細な間取り図が公開されています。

 玄関ドアを開けて中に入ると縦に長い廊下。左側には、みかんとユズヒコの部屋が並び、右手に浴室や洗面所、トイレ。廊下つき当たりのドアを開けるとリビング・ダイニングと台所があり、その左手には父母が使う6畳の和室があります。

 4人で暮らす部屋としては一般的な広さといえるでしょう。また、日本に数多く見られる間取りのため、見ていると何だか落ち着く、親近感が湧く……といった声もよく聞かれます。

 物件情報サイトなどで検索すると、2021年9月現在の田無にも似たような間取りの物件がいくつか見られ、思わず「似たような家族が暮らしているかも」と想像がふくらんでしまいます。

 さて実際、田無で賃貸物件を借りるとしたら相場はどのくらいになるのでしょうか。今回はワンルーム物件の相場を、全国宅地建物取引業協会連合会が運営する「ハトマークサイト」のデータから見てみましょう。

住むならいくら? 駅周辺の賃貸物件

 まずは駅別に見たとき東京都内の賃料相場です。

 ワンルームでは安いところなら3万円台、高いところだと10万円台する地域もあります。人気の高い新宿区は7万6800円、渋谷区は9万8300円となっており、賃料の高いエリアといえるでしょう。

 一方、田無の場合ワンルームなら4万1400円が相場です。

 新宿や渋谷より安いのは当然でしょうが、都内全体で見てもリーズナブルだと言えそうです。

田無駅と都内主要駅との家賃比較(画像:2021年9月11日現在の「ハトマークサイト」のデータを基にULM編集部で作成)



 さらに厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査(2020年)」によると、正社員・正職員の人の賃金は、20~24歳で21万5400円、25~29歳で24万9600円とのこと。

 昨今は適正家賃の目安は「年収の20%ほど」とされているので、ワンルームなら20代の若者でも部屋を借りられることになります。

 ただし注意点として、西武新宿線には地下鉄との相互乗り入れがありません。そのため交通の利便性という観点に限っては他の私鉄沿線と比べるとやや見劣りします。

 家賃と利便性、どちらをより重視するかによって田無で部屋を借りるかどうかが決まりそうです。

西武新宿線で4番目の乗降客数

 西部新宿線の田無駅は、『あたしンち』のオープニング映像に登場します。人々が行き交う様子が、いかにも日常の風景といった趣です。

田無駅北口の様子(画像:写真AC)



 そんな田無駅ですが、実際のところどれくらい栄えているのでしょうか。まず比較対象として、2020年度の東京メトロにおける乗降人員は、新宿駅で1日平均15万5619人、渋谷駅で12万1153人となっています。

 一方、同年度の西武新宿線・田無駅は5万6667人とのこと。

 新宿や渋谷と比べてしまうとだいぶ少なく感じますが、西武新宿線の停車駅29駅(西部新宿~本川越)のなかでは、実は高田馬場、西部新宿、所沢の3駅に次いで4番目に多いのです。

 このことから西武新宿線においては、田無は代表的な駅のひとつと言ってよいでしょう。

お父さんも満足? 都心に好アクセス

 そんな田無駅が開業したのは約90年前、1927(昭和2)年のことです。これは川越鉄道の後身、旧西武鉄道が、東村山―高田馬場間を開業したのと同時期にあたります。

 そして現在、急行や快速急行などが停まったり、通勤時間帯には始発も出ていたりと、田無駅は何かとありがたい存在です。また主要な駅への所要時間の面でも、メリットを感じられます。

 平日午前8時に乗車すると仮定した場合、高田馬場まで26分、西武新宿まで30分、池袋まで36分、渋谷まで43分、大手町まで48分と、都心の主要各駅まで1時間以内でにアクセスできるのも大きな魅力といえるでしょう。

『あたしンち』のオープニング映像では、田無駅を通勤に使う父の姿が描かれます。都心までの好アクセス、家族で住むにもひとりで住むにも申し分ありません。

住民におなじみ、駅前のお店

 田無駅の周辺は、北口側と南口側とで雰囲気が異なります。

 北口側はショッピングモールやロータリーなどが整備されていて、いかにも街の中心といった印象です。交番があるのも“街らしい”というイメージを抱く一因なのかもしれません。飲食店はチェーン店が多く、地元民でなくても入りやすいです。

 一方の南口側は、一戸建てや商店が並び、穏やかな雰囲気を感じられます。飲食店は個人経営のお店が多いようです。どちらかというと地域密着型のエリアといえるかもしれません。

 買い物の面ではどうでしょうか。

 例えば田無駅の駅ナカ商業施設「エミオ田無」。持ち帰りしやすいおにぎり、トンカツ、総菜などのお店のほか、カフェやレストラン、携帯ショップも入っているので便利です。

商業施設があり便利な田無駅(画像:(C)Google)



 また駅から徒歩1分のところにはショッピングモール「田無アスタ」もあります。『あたしンち』でも、みかんと母の買い物エピソードなどで登場する、地元の人御用達の場所です。

 こちらの地下フロアは生鮮食品やお総菜を売るお店が豊富にあります。特に人気なのが「ザックザク肉の宝屋」。お肉や唐揚げなどを扱っており、アスタ専門店街で「お客様数ランキング」1位を獲得し続けているお店です。

 もし田無に引っ越す場合はお世話になることもあるはずなので、覚えておくといいでしょう。

地名の由来には諸説あり

 年代はわかっていないものの田無の発祥は、現在の田無駅より少し北側に位置する、谷戸(やと)町のあたりとされています。

 もともと谷戸という言葉は、丘陵地が侵食されてできた谷状の地形のこと。この地形だと、生活に欠かせない水が集まりやすいというメリットがあります。

 田無の名が確かな記録として登場するのは、小田原城に拠点をおいた後北条家の文献「小田原衆所領役帳」です。このことから室町時代の田無は、戦国大名の支配下にあったと考えられています。

 その後、明治になると田無は、品川県、入間県、神奈川県などの管轄下に置かれたのち、1893(明治26)年に東京府に編入。さらに1967(昭和42)年には「田無市」に、2001(平成13)年には保谷市(ほうやし)と合併し、西東京市の一部になりました。

 地名の由来については諸説あります。この地域一帯に田んぼがないから、という一般的な解釈です。ほかにも、古村一帯に水田を開く「田を成す」、かつてこの村が年貢の収奪が厳しく、種もみすら取られてしまったため「種なし」の村と呼ばれた、といった民間伝承もありますが、いずれも史実上の根拠は明らかではないようです。

『あたしンち』の世界観にぴったり

 ちなみにこの地に古くからある田無神社の本殿の正面には、湧き水から水をくんでいる様子を表した彫刻があります。谷戸から移り住んだ祖先たちへのねぎらいやいたわりが伝わってくるようです。

田無神社(画像:写真AC)



 さまざまな歴史をへて20万人都市となった西東京市。そのなかの田無。今では比較的安く部屋を借りられて、多くの人員を輸送する主要駅を擁し、駅周辺には便利な商業施設が建ち並ぶ、大変暮らしやすいまちとなっています。

 このような「渋谷・新宿ほど都会ではないけど賑わいがある街」というのが、『あたしンち』の世界観とも好相性だったのかもしれません。

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