名作映画『時をかける少女』 都内4か所がモデル地に選ばれた“必然性”とは?

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名作映画『時をかける少女』 都内4か所がモデル地に選ばれた“必然性”とは?

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有馬里美

フリーライター

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いつまでも色あせない青春の輝きを放つ、細田守監督の映画『時をかける少女』。この作品に登場するシーンには、東京都内のスポットがモデルとなっているとされる場所がいくつもあります。それらの場所が作品の舞台に選ばれた理由とは何か。フリーライターの有馬里美さんが案内します。

東京都内の要所がいくつもモチーフに

 2021年8月現在、大ヒット上映中の細田守監督の最新アニメーション映画『竜とそばかすの姫』。

 その細田監督が手がけ、2006(平成18)年に公開された作品が、青春とタイムリープをテーマにした『時をかける少女』です。

 日本アカデミー賞・最優秀アニメーション作品賞を受賞したこの作品は公開から十数年経ちますが、今見ても色あせない青春の爽やかさ、切なさで多くのファンを魅了し続けています。

 高校2年生の紺野真琴は、あるきっかけで時をさかのぼる「タイムリープ」の能力を手に入れ、男友達の間宮千昭や津田功介たちとの何気ない毎日を楽しく過ごすために使います。

 しかし、千昭から告白されたことで、その楽しい日々は終わりを迎えることに。タイムリープの残り回数が0になって初めて、かけがえのない時間がそこにあったことに気づく真琴。一度しかない青春のきらめきが心を打つ作品です。

 この映画に登場する主要な場所は、東京国立博物館(都台東区上野公園)や哲学堂公園野球場(中野区松が丘)など、都内の要所がモチーフとされています。タイムリープにより作品内で繰り返し何度も描かれるため、それぞれの場所を印象深く思うファンも多いのではないでしょうか。

 今回は、最新作『竜とそばかすの姫』の原点ともいえる作品『時をかける少女』のモチーフとされる場所を、「過去と現在・未来」の切り口からご紹介。訪れると真琴と同じように「タイムリープ」した気分になれるはずです。

モノに宿る過去を伝える「東京国立博物館」

 映画内に登場する博物館は、物語のキーとなる重要な場所です。真琴の良き相談相手である「魔女おばさん」が勤めている場所で、真琴は突然獲得したタイムリープ能力に戸惑い「魔女おばさん」に相談に行きます。

 映画では、館内のエントランスホールや階段、文化財が飾られている展示室などが描かれました。

 この博物館のモデルは東京国立博物館とされており、エントランスや展示室は訪れてみると、ほぼ映画に登場するとおりの風景を見ることができます。

物語のキーとなる博物館のモデルとなったのは、東京国立博物館と言われている(画像:写真AC)



 東京国立博物館はJR上野駅から歩いて10分の場所にある、1872(明治5)年に創立された日本で最も歴史ある博物館です。

 刀剣や彫刻など日本の数多くの国宝や重要文化財を見ることができ、さらにアジア諸国の文化財も展示されています。レストランやカフェもあるので、1日いても飽きることなく満喫できる場所です。

 過去の人々が遺した文化財を伝えているという点で、「タイムリープ」をテーマにする『時をかける少女』にふさわしい場所。映画を最後まで見ると、過去から伝わるものを今に生きる人々が努力し、未来の世代へ伝えることの大切さが分かるはず。

 物語を追体験できるだけでなく、さまざまな地域から集められた多彩な文化財が現在まで伝わり、今ここで鑑賞できる奇跡を感じることができます。

偉大な先人たちの思いを感じる「哲学堂公園」

『時をかける少女』では、真琴と千昭、功介の3人が学校帰りに野球のグラウンドに寄って野球をしているシーンが描かれます。たわいもないおしゃべりをしながらキャッチボールをする様子からは、青春や高校生らしさを感じられました。

 物語の展開が進むと、進路や恋愛などの真剣な話をしたり、終盤では真琴が千昭に大切なことを伝えるシーンで登場したりと、登場頻度も高く重要な場所です。

 この野球場のモデルは、「哲学堂公園」とされています。東洋大学の創立者であり、哲学者である井上円了博士によって1904(明治37)年に創設された公園で、令和2年3月に国指定名勝に指定されました。

野球場も擁する哲学堂公園は、春はサクラの名所として親しまれている(画像:写真AC)



 映画では野球場や水飲み場、並木道が主に登場しました。しかし園内は広く、スポーツ施設以外にもウメやサクラなどの木々や、哲学に関連する建物があります。

 過去の偉大な先人たちの考えを今に伝える、孔子や釈迦といった哲学者をまつる四聖堂などがあり、思索にふけりながらゆったりと散策することができます。

 およそ100年前に建てられた趣のある建物がいくつもある園内は、歩くだけで過去に思いを馳せ、タイムリープした気分になれるかもしれません。

『放浪記』作者の時代に触れる「林芙美子記念館」

 作中における真琴の自宅のモチーフは、新宿区中井にある林芙美子記念館と言われています。

 同記念館は、『放浪記』や『浮雲』を執筆した小説家・林芙美子が亡くなるまで実際に住んでいた和風の趣ある家です。昭和初期に建てられ、現在は記念館として一般公開されています。

一般公開されている林芙美子記念館(画像:(C)Google)



 真琴の家と記念館とを比べてみると、外観は異なること、内部の調度品が異なることから、一見モデルとなっていることが分かりにくいかもしれません。

 しかし、縁側や障子のある居間の風景をよく見ると、ほぼ一致していることが分かります。

 真琴の家の縁側が面している庭には、鉢植えの花が置かれるなど緑が豊かな描写がされていました。実際に訪れると、記念館の庭は桜や紅葉、季節ごとの色とりどりの花が楽しめる、緑あふれる癒しの庭園となっています。

 敷地内に足を踏み入れると、純和風で風情ある落ち着いたたたずまいを感じられます。昭和の昔、林芙美子が住んでいた当時にタイムリープしたかのような感覚を味わえるはずです。映画では季節が夏だったので、その時期に訪れるとより臨場感を感じられるかもしれません。

番外編・夕焼のシーンが印象的な「荒川河川敷」

 最後に番外として、同じく作品内で何度も登場した「河川敷」を紹介します。

 真琴が身に付けたばかりのタイムリープ能力を練習し、映画中盤から終盤まで重要なシーンで登場した、とりわけ印象深い場所です。

 河川敷の道を学校帰りの自転車の学生が通り、川辺で子どもたちが水切りをして遊んでいる様子など、ゆったりとした雰囲気の場所として描かれました。

荒川の河川敷と東京メトロ千代田線(画像:写真AC)



 この河川敷は「荒川河川敷」だとされていますが、実際にある特定のポイントを切り取ったわけではないようです。ただ、鉄道橋が架かっているシーンがあることから、東京メトロ千代田線の橋が見える一帯だと推測されます。

 映画では夕焼け空が映る場面が多いので、夕方に訪れてみるのがおすすめです。

※ ※ ※

『時をかける少女』で物語の舞台とされる場所は、いずれも歴史が感じられ、過去と現在、そして未来を意識させる、まさに作品テーマにふさわしい場所ばかりでした。

 あなたも、作品のモチーフとされる場所を巡りつつ、心だけでも真琴のように「タイムリープ」してみませんか?

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