ネット情報をコピペしまくった「記事」が日本にあふれている理由

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ネット情報をコピペしまくった「記事」が日本にあふれている理由

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本多修

メディアウォッチャー

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芸能人のSNSやテレビ発言での発言を切り取った「お手軽記事」があふれるネットニュース。そんな状況に対して、メディアウォッチャーの本多修さんが持論を展開します。

ネットにまん延する「取材なし記事」

 皆さんは「こたつ記事」という言葉をご存じでしょうか。こたつ記事とは、

「独自の調査や取材を行わず、テレビ番組やSNS上の情報などのみで構成される記事」(小学館デジタル大辞泉)

を指します。

 日々流れるニュースを見ていて、

「政治家や芸能人が○○と話した」

といった見出しの記事の大半は、ほぼ100%こたつ記事です。

原稿を書くライターのイメージ(画像:写真AC)



 このような記事は、記者会見に足を運ばなかったり、当人に直接取材してコメントを取ったりせず、ただひたすら、テレビ番組やTwitterなどの発言を切り取って、1本の記事に仕上げています。

 筆者も以前、芸能ニュースを扱うサイトからこたつ記事の作成依頼を受けました。当初はSNSなどの記事リンクがいくつか送られてきて、「これをつなげて1本の記事にしてください」というものでしたが、次第に

「発言をニュースっぽくまとめるだけでいいですよ」

となりました。

 古くから付き合いのある編集者からの依頼だったので、「原稿料は激安でも1時間ぐらいで書けるからまあいいか」と思っていましたが、数か月間やっていたら見事に飽きました。いや、嫌になったという方が正しいでしょうか。

 なぜなら、こたつ記事を量産していたところで、ライターとして何のキャリアにもなりませんし、またライティングスキルは確実に落ちていくからです。

 わずか100文字程度の発言をニュースっぽくまとめるためには、適当な情報を付け足さなければなりませんし、それ以上でもそれ以下でもありません。はっきり言わせていただきますが、ライターもしくはライターを目指す皆さんは、いくら小銭が稼げてもこんな仕事をやるべきではありません。

出典不明な都市伝説がそのまま記事に

 こたつ記事がまん延する風潮は、

・最低限のことは調べて書く
・インターネットの情報をうのみにしない

といった、ライターの基本スキルを養う機会すら奪っています。

 以前、ある歴史系の読み物サイトでこんなことがありました。

 そこでは、若いライターが幕末から明治にかけて活躍した人物の逸話を記事にしていました。ところがその内容すべてが

「インターネットに流布しているが、出典不明な都市伝説」

ばかりだったのです。

都市伝説が多く存在する東京(画像:写真AC)

 あいにくこの人物の子孫は研究者で、自分の祖先にまつわるうそだらけの逸話が流布していることに問題意識を持っていました。

 結果、その記事はサイトから取り下げになり、編集部から執筆陣に対して「資料の出典を明記してください」というお願いが来ました。ただ、その後も同ライターの記事を読んでいると、資料をしっかり精査しているのか首をかしげたくなるものが目立ちます。

 これはライター自身の素養というより、これまでの人生のなかで

・調べて書くこと
・取材して書くこと

の重要性を誰からも教えられなかったためで、故意の「やらかし」というより、重大な悲劇と表現した方が正しいのではないでしょうか。

大宅壮一文庫とは何か

 ライターがいかに調べて書かなくなったか――それを如実に表れているのは、大宅壮一文庫(世田谷区八幡山)の経営悪化にも関係しています。

世田谷区八幡山にある大宅壮一文庫(画像:(C)Google)



 大宅壮一文庫は日本唯一の雑誌図書館で、蔵書は70万冊以上。評論家の大宅壮一(1900~1970年)の収集した雑誌をもとに、現在でも年間1万冊ずつ増加しています。

 その特徴は、項目がデータベース化されていることです。1階にある端末の検索欄に人物名や事象を入力すると、その情報が掲載されている記事が一覧で表示されます。そのため、人物の事績や過去の出来事を調べるときには欠かせません。なお1988年頃より前は紙ベースとなっています。

 しかし近年の大宅壮一文庫の運営は危機を迎えています。

 利用者は、2000(平成12)年の約8万6000人をピークに減少、2012年からは赤字が続き、2017年には運営費確保のためにクラウドファンディングが実施されました。

 このことは大きなニュースになり、多くの支援者が集まったことでなんとか維持できました。それでも運営は常に危機的な状況です。

雑誌すら見ないライター

 危機的な状況に陥った理由として、挙げられるのがインターネットの普及です。ようは過去の雑誌を読まなくてもインターネットで簡単に情報を集められるようになったわけですが、これはおかしな話です。

駅で売られるさまざまな媒体(画像:写真AC)

 雑誌はメディアのなかでも特に衰退しているジャンルですが、いまだに多くの種類が定期刊行されています。なぜなら

「ネットメディアより経費をかけて取材をしており、情報は濃く、精度も高い」

からです。

 こう考えれば、ネットメディアで記事を書くために精度のより高い雑誌から情報を収集するのは当然ですが、ネットメディアのライターで、そこまでやっている人はあまり見かけません。

ネットの普及で一億総ライターに

 とりわけ大宅壮一文庫が重要なのは、人物を取材するときです。

 ある程度実績のある人を取材する場合、インターネットの情報だけではまったく取材になりません。たまにインターネットの情報をもとに質問して、取材対象者から

「それは間違った情報です」

と怒られて、大恥をかくライターもいます。

 どんなささいなことであっても、大宅壮一文庫のデータベースを検索する、あるいは図書館で1次情報を確認することは、新人ライターが最初に先輩から教えられることだったはず。

取材中のライターのイメージ(画像:写真AC)



 ところがいまはそんな面倒なことをしなくても、インターネットに転がっている情報をまとめて記事にして、ライターを名乗れる時代になっています。

 根底にあるのは、当人がライターという仕事にどういう思いで向き合っているか――ではないでしょうか。この世にはさまざまな職業がありますが、資格のいらないライターは特にこの思いが必要です。

 筆者は20年近いこれまでの仕事を振り返って、そんなことを考えています。

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