2年ぶりに復活した幻想空間――ホテル雅叙園東京がコロナ前と同じ企画展を続けるワケ

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2年ぶりに復活した幻想空間――ホテル雅叙園東京がコロナ前と同じ企画展を続けるワケ

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ホテル雅叙園東京で現在、企画展「和のあかり × 百段階段2021」が開催されています。日本全国の明かりアートが集結する同展をアーバンライフメトロ編集部が取材しました。

開催は2年ぶり

 七つの部屋を99段の階段でつなげた「百段階段」は、ホテル雅叙園東京(目黒区下目黒)の前身・目黒雅叙園3号館にあります。

 百段階段は1935(昭和10)年創建のホテル雅叙園東京のなかで唯一現存する木造建築で、東京都の有形文化財に指定されており、現在は人気企画展「和のあかり × 百段階段2021」が9月26日(日)まで開催中です。

 同展は2015年に初めて開催され、2019年までの5シーズンで累計来場者数が35万人を超えるなど、企画展のなかでもトップの人気を誇ります。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け開催を中止したため、2年ぶりの開催となっています。

日本全国の明かりアートが集結

 2021年のテーマは「ニッポンの明かり、未来のひかり」。日本五大風鈴や切り子、陶芸、月山和紙、琉球(りゅうきゅう)ガラスなど日本全国から34もの出展者による明かりアートが集結し、文化財である百段階段を彩っています。

ホテル雅叙園東京で開催されている「和のあかり × 百段階段2021」(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 展示されているのは、北は北海道、南は沖縄まで日本全国の伝統工芸や美術品の品々。百段階段の七つの部屋をそれぞれ

・風のあかり
・ガラスのあかり
・紙のあかり

などと展示テーマを分け、全国から集められた工房やアート作家の作品をズラリと並べました。

 また、各部屋には企画展のためにつくられたオリジナルBGMも流れており、会場はまるで映画のような雰囲気。展示会場は全期間、全時間帯で撮影が可能。歴史的な文化財と幻想的な明かりに包まれた夏だけの百段階段で、ひと夏の非日常を楽しめます。

2020年から企画展をすべて中止

 文化財イベント企画を担当している学芸員の梶野桜さんによると、この百段階段で企画展を開催するのは実に約1年半ぶり。

目黒区下目黒にあるホテル雅叙園東京(画像:(C)Google)



 2020年3月の企画展の後に緊急事態宣言が出されてからは、百段階段含めホテル全館で営業を休止。その後、緊急事態宣言が明けてからはホテルの営業は再開しましたが、密を避けるために百段階段の企画展はすべて中止してきました。

「企画展を中止する代わりに、人数を制限した上で日本画や建物などの文化財だけを見ていただく文化財公開を行ってきました。それでも、緊急事態宣言延長に伴う都の緊急事態措置に準じるなどしてたびたび臨時休館。今回は満を持しての企画展開催となりました」(梶野さん)

 例年、会期終了前になると決して広くない百段階段の会場内は大混雑となってきたために、コロナ禍においては企画展の在り方や百段階段の見せ方を見直さなければならなかったと言います。

 百段階段の企画展は、今回の「和のあかり展」のように各地から美術品を借りてきて催すことが少なくありません。これまでは訪日外国人やホテル宿泊客、展示品を借りた地域からバスツアーの団体客が数多く来場していました。

 そのため2020年は人の混雑が予想される美術品展示はできるだけ最小限にし、百段階段の文化財そのものを見てもらう小規模イベントを随時開催。

 2021年の1月からは「初春の文化財見学 百段階段の百の縁起もの」と題し、250枚の日本画と建築意匠に囲まれた百段階段の中の扇や鶴、鳳凰(ほうおう)、富士山といったおめでたいモチーフを紹介するイベントを開催しました。

コロナ禍だったからこそ文化財の魅力を再発見できた

 こうした文化財公開は功を奏し、アンケートでもお客さんからの満足度がとても高かったという結果に。「文化財公開の際にはいつも展示品で隠れていた日本画をじっくり見られた」「この絵の意味を知ることができてよかった」といった反応があったそうです。

ホテル雅叙園東京の周辺の様子(画像:(C)Google)



 梶野さんは企画展が開催できなかったこの1年半を、

「大変だったけど企画展の在り方を考える時間でした。新しい企画のやり方や文化財の見せ方、コロナ禍での人の集め方などを模索して見直せたことはすごく貴重なことだったと思います」

と振り返ります。

 コロナ禍によって今までにはない文化財公開を通して、改めて百段階段の文化財そのものの魅力を再発見できたそう。その変化は2021年の「和のあかり展」に大きく反映されました。

「これまでは青森のねぶたや鹿児島のランタンなど、部屋を埋め尽くすほどの大がかりな展示が多かったので、部屋がただの背景となってしまったり部屋とはあまり関係のない展示品を置かれたりする場合がありました。しかし2021年は、部屋の意味や歴史と関連付けつつ、大きすぎない展示品がメインです。部屋の建築や日本画も十分に鑑賞しながら、明かりアートも味わうことができて相乗効果。文化財があるからこその展示を意識したので、真っ白な壁がある美術館とはまた違った環境で鑑賞いただけると思います」(梶野さん)

企画内容がコロナ禍にマッチした

 またコロナ禍で再発見した文化財の魅力を発信するために展示品を大きすぎなくしたことが、結果的にコロナ対策にもつながりました。今までは難しかった動線や回遊スペースが確保できているので、密を避けてゆったりと鑑賞できるようになっています。

「会場内では開けられる窓は開放してなるべく換気を徹底していますが、企画展の性質上、どうしても遮光をしなければいけません。そのため今回からサーキュレーターを導入して、空気の循環をしています。また通常は18時に閉館しますが、今回から閉館後、19時まで鑑賞できる20人限定の貸し切りチケットも用意しました。2015年の開催では会期が30日間と短かったんですが、2021年は7月3日から9月26日までと長めに取っているので混雑を回避して、お客さまにゆったりと鑑賞や写真撮影を楽しんでいただけると思います」(梶野さん)

「和のあかり展」はそもそも、現地に行かなければ見ることができない工芸品やお祭りの明かりを見ることができる企画展。都内にいながらも日本旅行をした気分になれる内容は、今なお続くコロナ禍にマッチしているとも言えます。

 コロナ禍で美術館や博物館は「お客さんに来場してほしいけど、混雑はしてもらいたくない」というジレンマを抱え続けています。そんななかで、百段階段が企画展を中止して模索してきた1年半は、今回の「和のあかり展」に実を結んでいると感じました。

ホテル雅叙園東京で開催されている「和のあかり × 百段階段2021」(画像:アーバンライフメトロ編集部)

 ホテル雅叙園東京の百段階段で照らされる和の明かりが、暗いニュースが続く中で未来への光になるかもしれません。

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