東京の子どもは「小4の壁」より「低学年の壁」! 中学受験がもたらすハード過ぎる現実とは

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東京の子どもは「小4の壁」より「低学年の壁」! 中学受験がもたらすハード過ぎる現実とは

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日野京子

エデュケーショナルライター

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小学生の子どもを持つ保護者なら誰でも知っている「小4の壁」。今回は東京にフォーカスし、エデュケーショナルライターの日野京子さんがその困難を解説します。

「小4の壁」は学力の分岐点

 小学生の子どもを持つ保護者が一度は耳にしたことのあるフレーズ、それが「小4の壁」です。「小4の壁」とは

「10歳(小4)くらいの時期に児童の学習が急に進みにくくなる現象のこと。学習内容が抽象的になり思考力が必要とされる時期であることや、自他の違いを意識し始める不安定な時期であることなどが原因とされているが、明確な根拠はない」(知恵蔵mini、朝日新聞出版)

を意味します。このほかにも「10歳の壁」「9歳の壁」はたまた「小3の壁」言葉もあります。それだけ子どもの成長にとってこの年齢は大きな節目になっているのです。

小学生のイメージ(画像:写真AC)



 子どもから大人への変容期にあたり、親や友人との関係性が少しずつ変化。心の変化もあり、身近な人との衝突やトラブルも発生しやすい時期で、ざっくり言えば「大人の階段をひとつ上る」年頃です。

 学力の差が出始めることから、教育産業は「小4の壁」で生じるデメリットを強調する傾向があります。また、保護者側も小4が最初の大きな分岐点と認識しており、教育に関心の高い家庭では学習習慣の定着を目指し、通信教材や幼児から通えられる学習系の習い事をし、「小4の壁」を越えようとします。

 しかし、首都圏のように中学受験熱が高い地域では、必ずしも「小4の壁」が学力の分岐点と言い切れません。

中学受験と「小4の壁」の微妙な関係

 小学6年生になってからに中学受験を決意する子どもは少数派です。ほとんどの家庭は小学校低学年や就学前から中学受験を検討し、小学6年生の冬に向けて逆算をしながら通塾時期を決めます。

 その結果、かつては小学3年生の2月からの入塾が定番となっていました。しかし現在、加熱する中学受験も相まって、こうした流れも崩れつつあります。このような通塾開始の低年齢化は

・早いうちから中学受験に慣れさせたい
・人気のある学校の席が埋まる前に入れさせたい
・入塾テストの難易度が高まる前に入れさせたい

といった思惑に支えられています。

 中学受験に特化した塾ではたとえ低学年であっても、公立学校の域を飛び越えた内容を学ぶため、基礎学力があっても余裕を持ってついていける子どもは多くはありません。学校の授業は問題なくついていけるが、塾の内容はハードという具合です。

中学受験のイメージ(画像:写真AC)



 そしてなによりも気をつけなければならないのが、7~8歳の時期は思考力や読解力などで個人差が大きいということです。

 つまり、東京を始めとする中学受験熱の高い地域では、一般的に学力差が顕著になる10歳前後よりも早くから、子どもが習熟度や理解力の差を感じる場面に遭遇しやすくなります。

 周りを気にするタイプの子どもは早い段階から自信をなくし、親からせかされます。いずれにしても親の焦りを生み、後で伸びるタイプの子どもをつぶしてしまう恐れも潜んでいるのです。

早熟な子どもが有利な環境

 塾に通う子どもと通わない子ども、中学受験をしない子どもの間で学力差が出やすくなり、さらに塾に通う子どものなかでも思考力や読解力に差が出るなど、小学生のなかでもいくつものレイヤーが存在しています。

 このような「小4の壁」を難なく乗り越えられる子どももいれば、苦戦する子どももいます。それ自体は地方と変わりませんが、東京の一定数の子どもは中学受験という目標に向かって低学年、場合によっては幼児期から準備をしているのです。

中学受験のイメージ(画像:写真AC)



 子どもが幼いころは自身の能力以上に、個々の成長速度の影響が濃く出ます。残酷なことですが教育環境が似通っていても、結果が同じとは限りません。塾に通うことで壁を越えるどころか、いとも簡単に壁を破壊する早熟な子どももいる一方、壁を越える前に挫折感を味わう子どももいます。

 長い目で見れば伸びる子どもも、伸びきるチャンスをつかみ切れないこともあります。こうした現実を理解しなければなりません。

「小4の壁」だけでは済まない中学受験組

 中学受験は「親の受験」とも言われるほど、親の負担が大きいものとなっています。しかし受験するのは子ども。親が周囲に翻弄(ほんろう)されたり、前のめりになったりせず、冷静に子どもの性格を把握することが求められます。

 東京で中学受験は市民権を得ているため、早熟な子どもには有利な教育環境になっています。両者の差が縮まるのは中学以降です。就学前後から見られる差を少しでも埋めようと、子どもを無理やり勉強漬けにさせるのは避けなければなりません。

小学生のイメージ(画像:写真AC)

 机上の勉強だけでなく、読書などから語彙(ごい)を、親との会話から知識を増やすことが、「小4の壁」やその前にある小さな壁を乗り越える体力になります。

 子どもの持つポテンシャルを最大限に引き出し、壁を越えるときを迎えられるよう、日頃から気をつけていくことが求められています。

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