松本人志も苦言! 芸能人の発言を切り取っただけの「お手軽記事」乱造に読者も怒っている

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松本人志も苦言! 芸能人の発言を切り取っただけの「お手軽記事」乱造に読者も怒っている

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本多修

メディアウォッチャー

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芸能人のSNSやテレビ発言での発言を切り取った「お手軽記事」があふれるネットニュース。そんな状況に対して、メディアウォッチャーの本多修さんが持論を展開します。

「こたつ記事」が氾濫するネット

 現在、多くの人々はインターネットから主に情報を得ています。

 筆者は長らく週刊誌などの現場を渡り歩いてきましたが、紙媒体に書く機会はこの10年間でグッと減りました。この記事を書くにあたってパソコンに保存している過去の原稿を確認したのですが、10年前は紙媒体とインターネット媒体の割合が「8:2」でしたが、今や「1:9」くらいになっています。

 さて近年、誰もが情報を発信できるようになったことで、既存のマスメディア(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)は批判にさらされることが増えました。

 彼らの特権意識や「偏向報道」(何をもって偏向かどうかは各人の解釈によります)とも呼ばれる、どこかバランスが悪く、単純化された善悪を押し付けるような姿勢を巡る議論は活発です。もちろん、記者自身の取材力も落ちています。

 とりわけ活字メディアに対する不信を高めているのが「こたつ記事」です。こたつ記事とは、

「独自の調査や取材を行わず、テレビ番組やSNS上の情報などのみで構成される記事」(小学館デジタル大辞泉)

のこと。平たく言えば「お手軽記事」といったところです。

芸能人が発言しただけで記事に

 こたつ記事の粗製乱造は、最近ますます増加しています。

ネットニュースを読む人(画像:写真AC)



 例えば、芸能人がTwitterやInstagramなどを更新しただけで「○○(芸能人)がTwitterを更新した」として報じるものがあります。大抵は更新内容と、それに対してファンが寄せたコメントだけで記事が構成されています。

 同様のテイストで作成されるのが、「○○が△△(番組名)に出演し、××と語った」というテレビ・ラジオ番組での発言を切り取る記事です。

 さらに、主にTwitterで広く拡散された「動物」「漫画」「ライフハック」などのネタ(いわゆるバズネタ)を、そのまま引用している記事も頻繁に見かけます。とりわけ漫画に関する記事では、作品の内容もそこそこに漫画そのものを掲載しているため、もはや記事というより、単なる紹介になっています。

読者から「プライド無さすぎ」の声

 6月20日(日)に放送された情報番組「ワイドナショー」(フジテレビ系)でダウンタウンの松本人志さんは元プロ野球選手の上原浩治さんが自身の容姿に言及した記事について言及。このなかで、

「ライターの質は落ちているんじゃないんですかね」
「こういうのをこたつ記事みたいなこと最近、言いますけど、今、こたつ入っていてもスマホで調べられるからね」
「ヤフコメ(「Yahoo! ニュース」のコメント投稿サービス)でアクセス数を稼ごうとする。あのやり方もいい加減、腹立ってきてんねんけど」

と発言しています。

ネットメディアの記者イメージ(画像:写真AC)



 まさにテレビ番組での発言を再編集した記事に対する苦言ですが、これもまた記事になり、多くのヤフコメを集めているのですから、実に皮肉な結果と言えます。ちなみにそこには、

「(ライターの)プライド無さすぎ」
「アクセス数によって次の仕事につながるとか収入に直結するとか。だから、質の低い記事が多い」

といった読者のコメントが付いていました。

 ヤフコメには「無責任な意見が集中している」「誹謗中傷ばかり」という意見もよく聞かれますが、例えそうであっても、記事を配信するメディアはそれらを読者の意見として真剣に受け止めなくてはなりません。

年々増加するインターネット広告費

 こたつ記事の大半は、東京に拠点を置くメディアによって作られています。これはれっきとした東京の問題なのです。書き手の多くは東京にいるはずなのに、なぜこたつ記事が量産されてしまうのでしょうか。

ネット上の膨大な情報イメージ(画像:写真AC)

 その理由は、こたつ記事が多くのPV(ページビュー。訪問者が実際にサイト内でページにアクセスした数)を獲得できるからです。

 電通のサイトで公開されている「2020年 日本の広告費」によれば2020年のインターネット広告費は2兆2290億円(前年比105.9%)となっています。この広告費を得るために、PVを得ることを最重要課題としているメディアも少なくありません。

 これまで、筆者が関係したメディアのなかには

「データを分析して、ネットでウケるキーワードをつなげればPVを上げられる」

と真顔で語っているところもありました。しかも編集長が。

 それくらいメディア、特にインターネットのみで記事を配信するネットメディアはPV稼ぎに傾注しています。さらに、バズる見出しを付けるためだけの専門スタッフがいるネットメディアも存在しています。

消費者の「お手軽思考」にも問題あり

 先日、映画本編の映像や音声を切り貼りし、本編を見なくとも映画の大まかな内容がわかる「ファスト映画」という投稿が動画投稿サイトで急増していると話題になりました。

 このような話題は、手軽に大まかな情報、それも面白い部分だけを知ることができればいい――という消費者の、お手軽記事ならぬ「お手軽思考」にも問題があることを教えてくれます。問題はメディア側のPV問題だけではないのです。

 しかし、こうした流れはいつまでも続かないでしょう。こたつ記事は書き手にとっても退屈な作業ですし、読み手も不満をためるばかりです。

ネットニュースを読む人(画像:写真AC)



 筆者は、ニュースの書き手たるもの、現場に出て、人に会い、もしくは資料を調べてナンボだと強く思っています。そうすれば「この記事はぜひ読んでほしい」という熱も書き手に自然と湧いてきますし、読者にとっても喜ばしい結果になるでしょう。

 今のメディア、特にネットメディアにまず必要なのは、取材して、調べて書くことの面白さに書き手が気付くことです。しかし取材には決して安くない費用がかかります。ネットニュースは基本的に無料です。だからPVに頼らざるを得ない、という悪いサイクルを打破しなければいけません。

 筆者がお願いしたいのは、読者もしっかり取材された記事を見つけたら、熟読し、正統に評価し、適切な感想を述べ、書き手をさまざまな方法で応援したほうがよいということです。いかがでしょうか。

 そしてネットニュースの書き手の皆さん、そろそろ現状を変えて見ませんか?

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