渋谷駅はなぜ迷路のような構造なのか? 漫画『呪術廻戦』舞台を機に考える

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渋谷駅はなぜ迷路のような構造なのか? 漫画『呪術廻戦』舞台を機に考える

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有馬里美

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コロナ以前は1日平均乗降人員が300万人を超えていた渋谷駅。そんな渋谷駅は同時に複雑な構造でも知られています。いったいなぜでしょうか。フリーライターの有馬里美さんが解説します。

漫画「呪術廻戦」の舞台・渋谷駅

 2020年秋にアニメ化され、注目を集めている人気漫画『呪術廻戦(かいせん)』。同作における重要なエピソード「渋谷事変」では、東京・渋谷駅とその周辺が舞台となっています。

渋谷駅(画像:写真AC)



 作品中、敵との戦闘が繰り広げられたのは渋谷駅構内を始め、渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)やスクランブル交差点など、渋谷駅を中心とした実在するさまざまな場所です。

 展開が進むにつれ、登場人物たちが渋谷駅周辺の各地を移動し、舞台となるスポットも移り変わります。場所や建物等の背景もしっかり描かれているため「聖地巡礼」をするファンが続出し、SNS上でも広がりを見せました。

「渋谷事変」を見て気づくのが、渋谷駅とその周辺の複雑さです。登場人物が駅構内の通路や周辺の通りを移動しますが、駅構内へ入る出入り口や駅へ向かう道がいくつもあることが分かります。

 事実、渋谷駅は「迷宮」や「ダンジョン」と呼ばれるほど難解な作りの駅。初めて利用する人だけでなく、普段通勤や通学で利用している人でも、違う行き先に行こうとすると迷うと言われています。

 渋谷駅とその周辺はどのような構造を持ち、なぜ「ダンジョン」と呼ばれているのでしょうか。

「ダンジョン」と呼ばれる渋谷駅の構造

 渋谷駅は、JR東日本、東急電鉄、東京メトロ、京王電鉄の4社から複数路線が乗り入れる国内有数のターミナル駅です。

『呪術廻戦』16巻(画像:集英社)



 その作りは垂直方向かつ水平方向に長いのが特徴。地上3階、地下5階の8層で構成され、最も高い3階にあるのが銀座線、最も低い地下5階にあるのが副都心線(東横線)です。

「渋谷事変」において、最強の呪術師・五条悟と特級呪霊との戦闘で登場した場所が、東京メトロ渋谷駅地下5階の副都心線ホームです。呪術廻戦では、五条悟は渋谷ヒカリエShinQsから吹き抜けを通って地下へ降りましたが、副都心線(東横線)ホームは地表からかなり深い場所にあることがわかります。

 水平方向にも長い渋谷駅は、水平移動距離が最長で800m近くあります。そのため、同じ駅のホームにかかわらず、移動に10分超歩かなければなりません。

 水平方向に長い理由は、各路線が山手線・埼京線を中心にばらばらに配置されているからだと考えます。

 JRの2路線を基準にすると、駅北部に半蔵門・田園都市線、東横・副都心線にまたがる形でほぼ中央にあるのが銀座線となります。西に少し距離をおいて配置されているのが井の頭線です。

渋谷駅を取り巻く地形や道路も複雑

 渋谷駅周辺に目を向けると、駅に向かって伸びる通りや駅付近を通過する通りが多数あることが分かります。

渋谷駅の構内図(画像:東急電鉄)

 東西方向に通過するのが、駅南部の国道246号、首都高3号渋谷線です。駅東側の道玄坂通り、文化村通り、センター街は駅に向かってスクランブル交差点で合流しています。南北方向にある主要な道路は駅東部にある明治通りです。

 これらの道路を取り巻く商業施設として、西部には渋谷109や渋谷マークシティ、東部には渋谷ヒカリエや渋谷ストリーム、北西にBunkamuraや東急百貨店渋谷本店があります。呪術廻戦においても、これらの場所で印象的なシーンが多く描かれました。

 多数の道路や商業施設が駅の周囲に入り乱れる渋谷の街。これに複雑な構造を持つ渋谷駅が絡むことで、重層的な舞台となり「渋谷事変」の面白さが際立つのでしょう。

 では、なぜ渋谷駅とその周辺はこのように複雑になったのでしょうか。

渋谷は川に削られた谷を中心に発展

 渋谷駅とその周辺が複雑な構造を持っているそもそもの要因は、地形にあります。

 渋谷は「谷」と地名につく通り、渋谷川と宇田川のふたつの川で削られた谷。ふたつの川の合流地点がちょうど現在の渋谷駅付近にあたります。

渋谷駅周辺の地形(画像:国土地理院)



 渋谷川は近年まで地下に川を埋設した暗渠(地下水路)にされていましたが、渋谷駅直結の複合施設「渋谷ストリーム」(渋谷3)の整備とともに顔をのぞかせるようになりました。

 渋谷駅に向かっていくつもの道路が交差しているのは、渋谷駅付近が谷底にあたるためです。宇田川と渋谷川の川筋に沿って道が作られた結果、谷底である渋谷駅周辺に道が集まるようになったと考えられます。

 それが顕著なのが駅西部の道玄坂一帯です。道玄坂通り・文化村通り・センター街通りは、宇田川が谷に向かって流れ下るルートに沿ってできた通りとなっています。

 谷底の狭い土地に多くの鉄道路線が行き交い、さらに商業を中心に栄えたことで、複雑な街ができあがったと言えるのです。

「迷宮化」解消に向け再開発が進む渋谷駅

 明治時代からその歴史が始まった渋谷駅は、昭和初期の東京横浜電鉄(現・東急電鉄)の乗り入れを機に開発が本格化します(宮田道一、 林順信「鉄道と街・渋谷駅」)。

 同時期に東京高速鉄道(現・東京メトロ)や帝都電鉄(現・京王井の頭線)も開業。昭和初期には既に現在乗り入れている鉄道会社4社がそろっていたことになります。

 駅の複雑化が加速したのは1970年後半以降です。1970年代後半、東急新玉川線(現・田園都市線)や地下鉄半蔵門線が開業しました。

 さらに平成に入ってから新たに乗り入れしたのが、JR埼京線や地下鉄副都心線です(松本典久「時刻表が刻んだあの瞬間― JR30年の軌跡」)

 結果、路線の数に応じてホームがあちこちに点在するようになり、各路線への水平方向の移動距離が長くなりました。昭和から平成にかけ、時間をかけて「ダンジョン」「迷宮」と呼ばれるほど入り組んだ駅が構築されていったのです。

渋谷駅周辺開発全体図(画像:東急)

「ダンジョン」と呼ばれる渋谷駅とその周辺は、現在その複雑さの解決に向け各地で再開発が進められています。しかしその複雑な構造は課題である一方、作品の舞台になるほどの魅力も内包しているのです。

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