東京駅のホームで別れを惜しむカップルたち――JRの知名度アップに貢献した「シンデレラ・エクスプレス」の記憶
2021年6月4日
ライフかつて、東京駅の新幹線プラットホームで男女が別れを惜しむ光景がよく見られました。「シンデレラ・エクスプレス」と言って思い出す人もいるのではないでしょうか。20世紀研究家の星野正子さんが解説します。
「離れ離れ」という愁い
そんなロマンチックなイメージをCMとして打ち出したのが、誕生したばかりのJR東海でした。
民営化とともに誕生したJR東海は東海道新幹線という「ドル箱路線」を抱えつつも、そこに安寧することなく、民間企業として新たな宣伝戦略を迫られていました。というのも、東海道新幹線を所有しながら企業としての知名度が低いのではないかと考えていたからです(『宣伝会議』1987年9月号)。
そして登場したテレビCMの舞台は、やはり夜の東京駅のプラットホーム。恋人らしいふたりの若者が手を取り合って別れを惜しむシーン。そして走りだす新幹線。男性を見送る若い女性の愁いを含んだ表情に続いて入るナレーションは
「離れ離れに暮らす恋人たちが、週末を東京で過ごし、また離れ離れに……」。
でした。

JR各社の駅には、同じく愁いを帯びた表情の女性をメインに、新幹線の窓を挟んで見つめ合う恋人の姿のポスターが張り出され、そこには
「日曜夜9時、シンデレラたちの魔法がとける」
とのキャッチコピーが入っていました。
駅のポスターが盗まれる騒ぎも
1987年の夏から始まった広告戦略は、すぐ話題に。とりわけ、駅ではポスターが盗まれる事件が相次ぎ、皮肉にもCMの効果を証明することとなりました。
この広告のためにJR東海が投じた予算は1億数千万円。半分はテレビCMの費用です。当時の宣伝費としては控えめの額で、CMの開始がお中元シーズンと重なったこともあり、東京では21日間に65回と、あまり多く流れませんでした(『THE21』1987年9月号)。
それにもかかわらず効果は圧倒的。元はCMに登場するような20代前半の男女をメインターゲットとしていましたが、実際にはあらゆる年齢層にうけたのです。その結果、CMの目的のひとつだった会社名の浸透は達成されました。

国鉄の民営化によって生まれたJR各社は、地域によっては知名度の浸透に苦慮していました。タクシーに乗って「JRの○○駅」と伝えたら、間が一瞬あり「ああ、国鉄の」と聞き返されてしまうほどで、そのような現象は1990年代になっても地方で続いていました。ところが「シンデレラ・エクスプレス」の宣伝が行われた地域では、瞬く間に「JR○○」という社名が普及していったといいます。
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