第2の「新大久保」になる日も近い? 大塚駅周辺にアジア系飲食店が急増しているワケ

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第2の「新大久保」になる日も近い? 大塚駅周辺にアジア系飲食店が急増しているワケ

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室橋裕和

アジア専門ライター

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外国人労働者が多い東京のまちと言えば、新大久保などが真っ先に思い浮かびます。しかし現在、大塚駅周辺にも徐々に関連する飲食店が出店しているようです。アジア専門ライターの室橋裕和さんが解説します。

駅周辺に広がるディープなアジア世界

 大塚駅の「アジア化」が止まりません。

 南口を出てすぐ目の前の商店街に入ると、2月にオープンしたばかりのネパール料理店『バッティ』(豊島区南大塚3)がまず見えてきます。現地のローカル居酒屋をそのまま再現したスタイルで、ネパール人、日本人に人気となっている店です。

 さらに進んでいくと、行列ができることもあるインド料理店『やっぱりインディア』(同)が左手に。そしてその先に、今度はバングラデシュ料理店『スナリ』(同)が。

 ほんの短い通りに南アジアの文化が集結している、なかなかに濃いエリアとなっています。

南口にはバングラデシュのレストランと食材店など、南アジアの店が点在(画像:室橋裕和)



『スナリ』にはハラル食材店も併設されていますが、こちらは日本人にもなじみの野菜や果物もたくさん並び、近隣に住んでいる様子の日本人も足を止めています。店員のバングラデシュの女性が愛想よく応対している姿もあります。

 近辺にはほかにもハラル、ベトナムなどの小さなエスニック食材店が点在しており、迷い歩くだけでもなかなか楽しい商店街です。

多国籍でカオスな雰囲気

 北口もなかなか面白いことになっています。『星野リゾートOMO5』(北大塚2)ができるなど再開発が進んでいるかいわいではありますが、その足元では昔からの歓楽街が広がっています。

 もちろんコロナ禍によって活気はあまりないのですが、それでもこの近辺にアジア系の店が少しずつ増えているのです。ベトナムやフィリピンのレストラン、中国の麻辣湯(マーラータン)やしゃぶしゃぶ……昔からあるタイ料理や韓国料理も混じり、なかなかにカオスです。

北口から徒歩5分ほどの『MMマート』はアジア全域さまざまな食材がそろう(画像:室橋裕和)

 この歓楽街を西に進み、空蝉(うつせみ)橋通りを渡ると、今度はエスニック総合スーパーマーケット『MMマート』(北大塚3)が現れます。扱っている商品はインドやトルコ、ミャンマー、ベトナム、タイ、さらには中南米と、実に多国籍。

「モスク」「ターミナル駅から近い」「商店街」がポイント

 店の社長、エナム・ウラさんはミャンマー出身のイスラム教徒です。

社長のエナム・ウラさん。やり手のビジネスマン(画像:室橋裕和)



 もともと南口のほうに食材店を構えていましたが、2021年2月に北口に移転し、店舗も拡張。いまではさまざまな国のお客さんがひっきりなし。ほかの食材店よりだいぶ広々としていて、きれいで入りやすいからか、日本人のお客もちらほらと見かけます。

「コロナで自宅で料理して食べる人が増えているから、こういうビジネスはいいんじゃない?」

 そう笑うエナムさんに「大塚のアジア化」の理由を尋ねてみると、

「僕の場合は、大塚にモスクがあったからだよね」

 との答え。

 南口には「マスジド大塚」(南大塚3)というモスクがあり、イスラム教徒が集まる場所になっていますが、日本人にもオープンで、東日本大震災など災害のときには炊き出しを行うなど、日本社会になじもうと地域との交流を続けてきた存在です。『スナリ』もやはり、そんなマスジド大塚があったことが開店のきっかけだったといいます。

 加えて大塚は、ターミナル駅である池袋から山手線でひと駅の割に家賃やオフィスの賃料が安いこと、北口と南口のにぎやかでごちゃついた商店街の様子がアジアの人々にとっては懐かしさを感じることもあり、イスラム教徒ではない人も含めて、大塚に住むアジア系の外国人が増えているそうです。

新大久保はもう飽和状態?

「ここは2番目の新大久保なんです」

エラムさんは力説します。

「なにかビジネスを始めようとする外国人が、まず頭に思い浮かべるのが新大久保。外国人が多い街、ハラルが売れる街だとみんな思っている。だから新大久保に進出しようとする。ミャンマーだったら高田馬場だって誰もが考える。でも僕は、これからは大塚だと思っているんです」

 確かに新大久保は、都内ではアジア系の食材店やレストランが特に密集している街ですが、もはや飽和状態にも見えます。地価も上がっていると聞きます。だから新大久保を避けて、新しく外国人が急増している街……例えば

・小岩(江戸川区)
・十条(北区)
・赤羽(同)
・板橋(板橋区)

あたりに食材店やレストランが分散していく傾向も見られます。

 こうした街もやはり「ターミナル駅が近く、にぎやかな商店街がある」という条件を満たしていますが、大塚も、そのひとつとして外国人の居住・ビジネスの場となりつつあるようです。

 そしてミャンマー人が多い街と言えば、「リトル・ヤンゴン」高田馬場がよく知られていますが、いまは日暮里や巣鴨あたりで暮らす人も増えているのだとか。

 そんなミャンマー人は山手線に乗って高田馬場駅に行くより、その手前の大塚駅で下りて『MMマート』で買い物をしていく。そんな現象も起きてきているようです。沿線のお客をいかに獲得するか。日本人の知らないところで、なかなかにシビアな競争が繰り広げられているというわけです。

高田馬場駅と大塚駅の位置関係(画像:(C)Google)

「大塚は住みやすいですよ。駅も新しくきれいになったし、子どもの学校も近いしね。店を借りるのも隣の池袋や新大久保より安い。好きな街です」

ミャンマー人とネパール人が日本語で会話

 エナムさんが来日したのは14年前、26歳の頃。ミャンマーでも父を手伝い、子どもの頃から仕事をしていたといいます。

「故郷は西のラカイン州で、バングラデシュにも近いんです。だから商売は、ヤンゴンで買い付けたものをバングラデシュに販売したりね。大学に通いながら、学費は自分で稼げって言われて、仕事もしていました」

 来日後も中古車や中古自転車の輸出入、食材の卸や小売りなどさまざまな仕事を手がけ、日本語は学校に通うことなく実地でマスターしたそうです。そしていまは多国籍化する大塚に合わせて、さまざまな国のエスニック食材を売る『MMマート』を切り盛りします。

 その店頭では、ネパール人とバングラデシュ人のスタッフも働いています。

「学生のアルバイトですよ。同じ国の従業員がいると、その国のお客さんは店に来やすいし、買いやすいからね」

『MMマート』のお隣はこれも大きなベトナムスーパー。全国に発送もしているそうだ(画像:室橋裕和)



『MMマート』は単に買い物をするだけでなく、お客とスタッフがあいさつをし、ちょっとした世間話を交わしていくコミュニティーでもあるようです。

 彼らアルバイトスタッフと、ミャンマー人であるエナムさんの会話は日本語。お客同士も国が違う人たちは日本語で話しています。

 それにエナムさんは卸の営業のためにネパール人の社員を募集しているのですが、応募してくる人々は日本の履歴書に日本語で経歴を書き、日本人のようにリクルートスーツを着た写真を貼って送付してくるそうです。日本語と日本文化を軸とした多国籍世界が、大塚にはあるのです。

苦境にあるミャンマーの支援にも

 ミャンマーと言えば軍のクーデター以降、混乱が続いています。エナムさんも家族がヤンゴンに住んでいるから心配だといいます。

 日本に住むミャンマー人は祖国と行き来することも難しい立場に置かれてしまっています。それでも毎日、働き、稼いで、生きなければならない。

 そんなミャンマーの人々に、もしなにか支援をと考えているなら、こうしたお店を訪れてみるのもいいかもしれません。

大塚と言えば都電荒川線。都内にただひとつ残った路面電車(画像:室橋裕和)

 海外に行けないいま、旅行気分に浸れる大塚を歩いてみるのも楽しいものです。

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