ある男性が語った臨死体験 「三途の川」ほとりで怒鳴りつけてきた人物の正体とは【連載】東京タクシー雑記録(9)
2021年5月22日
ライフタクシーの車内で乗客がつぶやく問わず語りは、まさに喜怒哀楽の人間模様。フリーライター、タクシー運転手の顔を持つ橋本英男さんが、乗客から聞いた奇妙きてれつな話の数々を紹介します。
気づけば花畑を歩いていた
タクシーの乗客には、大きくふたつのタイプがいます。
ひとつは、運転手に話し掛けられたくない人。もうひとつは、何かしらおしゃべりをしたい人。どちらか見分けるのが難しくないですか? と聞かれることもありますが、後者の方はだいたいご自分から話をし始めてくれるので、案外すぐに分かるものです。
「この時間でも外はまだ36度はある。地獄の暑さだ。え、そういえば俺はね、一度、地獄に行きかけたことがあるんだよ。三途の川も確かに見た。鮮明に覚えてるんだけど」
臨死体験というやつでしょうか。テレビ番組などで聞いたことはありますが、実際に経験した人に話を聞いたことはありません。私も興味を引かれました。
「へぇ、お客さん、それはどんな感じの体験だったんですか?」
すると男性が語り始めます。
――あぁ、本当に地獄に行きかけたんだよ。ちょうど10年前だ、旅先の長野県で登山道を歩いていたら、思い掛けず転倒して、そこらにあった鋭い木の枝で腹を深く切った。あの時はもう駄目だと直感的に感じた。

意識がなくなって、気づいたら広い花畑を歩いていた。あぁきれいだなと思いながらしばらく歩くと、川があって、高い見張り台がある。そこに中年の男が座って、番人をやっていた。坊主刈りの無精ヒゲ、妙に目玉が大きい。そいつが俺に声をかけてくる。
「おい、お前はどこに行くんだ」
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