ギョーザ人気の陰でひそかなブーム 東京で広がる「鶏シューマイ」とは何か

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ギョーザ人気の陰でひそかなブーム 東京で広がる「鶏シューマイ」とは何か

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シュウマイ潤

シュウマイ研究家

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人気トークバラエティ番組で注目され、近年人気のシューマイ。その最新トレンドについて、シュウマイ研究家のシュウマイ潤さんが解説します。潤さんはシューマイブームの活性化を図るべく、クラウドファンディングにも取り組んでいます。

マイナーな存在だった鶏

 わざわざ説明する必要もありませんが、「鶏シューマイ」とは、シューマイの具材が鶏肉を中心に構成されているものです。知名度や人気に格段の差はありますが、シューマイとよく比較されるギョーザは、具材よりもその配合や作り方、焼き方などの違いに注目が集まります。

 現在、シューマイは具材の多様化が進み、どんな具材を使うかがひとつのトレンドとなりつつあります。中でも2020年後半ごろから、都内を中心に鶏肉を使った名品が続々と登場。長年シューマイを食べ続けている「シュウマイ研究家」の私(シュウマイ潤)としては、その新たなトレンドに注目しています。

 そもそも豚肉、エビ、イカなどに比べて、鶏肉はシューマイの具材としてマイナーな存在で、一部の鳥料理店がサイドメニューとして提供する程度でした。

 強いて都内で挙げるなら、築地の鶏販売の名店として知られる鳥藤(中央区築地)の「鶏シューマイ」。これは、「築地シューマイ四天王」のひとつ、菅商店(同)とのコラボ商品です。両店舗は豊洲市場開業とともに移転したため、厳密には異なりますが、シューマイ好きの間ではそう呼ばれています。

 鳥の特徴を知り尽くしたプロフェッショナルが、シューマイのプロフェッショナルと作り出すシューマイがおいしくないわけがありません。シューマイの王道・豚肉の食感とは異なる、鳥特有の食感とジューシーさ、うまみがしっかりと出た一品は、「鶏シューマイ」のひとつのスタンダードとして定着しています。

専門店や老舗中華店で新メニューとして採用

 ところが先にも触れた通り、2020年に入り、急激に都内で「鶏シューマイ」を提供する店が増加。しかも、どれも名シューマイの仲間入りを果たすほどのクオリティーのものばかり。これは間違いなく「鶏シューマイ」トレンドが来ていると、研究家としては言わざるを得ません。

 都内のシューマイ専門店の先駆けのひとつである、渋谷の焼売酒場小川(渋谷区渋谷)は、オーソドックスな豚肉のシューマイにも銘柄豚の岩中豚(いわちゅうぶた)を使っています。

渋谷区渋谷にある焼売酒場小川の「鶏シューマイ」(画像:シュウマイ潤)



 さらには羊やカモなど、これまでシューマイに使われなかった具材を使い、元ビストロシェフらしい独創性あふれるソースとともに、新しいシューマイのおいしさを世に知らしめた「シューマイの革命児」的存在です。

 そのお店が、2020年末から「鶏シューマイ」を開始。これまた独創的なエビソースとともに、あっさり目ながら鶏のうまみを感じられる一品に仕上げています。その鳥は、前出の鳥藤から仕入れているとのこと。シェフオリジナルのエビソースに合う種類の鶏肉と部位を選び、使用していると言います。

 東京、神奈川と関東を中心に展開する老舗中華チェーン・直久(目黒区碑文谷)では、2020年後半から名古屋コーチンを使用した「鶏シューマイ」が新たにメニューに加わりました。

 誰もが知るブランド鶏らしいしっかりとしたうまみとジューシーさがありつつも、味付けはシンプル。ラーメンや炒め物などレギュラーメニューを邪魔せずに、見事な

シューマリアージュ(シューマイと他の料理と相性の良い組み合わせ)

を演出。

そもそもシューマイ自体には、他の料理を邪魔せず個性を引き出し合う力がありますが、ここの「鶏シューマイ」によってシューマリアージュの価値はさらに引き出された、と私は分析しています。

広がる「居酒屋×鶏シューマイスタイル」

 さらに、新たな世代のシューマイ専門店として注目されているところでも、「鶏シューマイ」が中心となっています。

 2021年1月に中目黒にオープンしたばかりのヤンヤン飯店(目黒区上目黒)では、あえて「鶏シューマイ」を看板メニューに掲げています。

 オーダーが入ってから手握りする基本のシューマイをベースに、辛味、ドライトマトと3種の展開。握りたてのふんわりとした食感も生かしつつ、しっかりと食べ応えもある仕上がり。

 こちらのお店でオススメしている、最近はやりのクラフトジンとの相性も抜群です。ドライトマトは凝縮したトマトのうまみと鶏肉が見事な共演。「鶏シューマイ」の可能性をさらに高めてくれています。

 また同じく2021年3月に立川駅南口にオープンした焼売のジョー(立川市錦町)は、川崎、多摩、町田に続く同名の居酒屋チェーンですが、こちらもメインは「鶏シューマイ」です。

立川市錦町にある焼売のジョーの「鶏シューマイ」(画像:シュウマイ潤)



 基本のシューマイ、揚げシューマイ、そして九州博多の「炊きギョーザ」を思わせる「炊きシューマイ」の3種を提供。基本のシューマイは、鳥の味わいをシンプルに味わえる一品。大きさも程よく、パクパク食べられ、ちょっと飽きたら春巻き感覚で「揚げ」、締めで「炊き」、のように、用途によって選べる楽しさもあります。

 実は同店のような「居酒屋 × 鶏シューマイ」のスタイルは、都内に限らず全国で増加中です。

 その発祥と言われるのが、福岡に2018年に誕生した焼売酒場いしい(福岡市)です。福岡はギョーザの聖地・宇都宮や浜松に負けないほどギョーザを食べる文化が定着していますが、焼売酒場いしいはあえて文化のないシューマイをセレクト。鶏を食べる地域ということもあり、地元産鶏を使用、気軽に立ち寄れるカジュアルな居酒屋スタイルのシューマイ専門店としてスタートしました。

 その後たちまち人気店となり、現在福岡で2店舗を展開。その後、全国の飲食事業者が着目し、焼売のジョーのような独自性を加えた形で「鶏シューマイ」を中心とした飲食店を各地で誕生させました。コロナ禍ながら、どの店も着実に人気のようです。

 そう、都内での「鶏シューマイ」トレンドは今日の日本全国のシューマイトレンドになりつつあるのです。その流れを受け、東京ではさらにレベルの高い「鶏シューマイ」が、今後も誕生する可能性は高いと推測しています。

 シューマイに関心ある方はもちろん、都内のグルメウオッチを欠かさない方も、ぜひともチェックしてみてください。

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