東京五輪から正式種目 「スケートボード」が持つ見逃せない社会的意義とは

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東京五輪から正式種目 「スケートボード」が持つ見逃せない社会的意義とは

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清水麻帆

文教大学国際学部准教授

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東京オリンピックから初めて正式種目となるスケートボードですが、スポーツとしてだけでなく、コミュニティーづくりという、また違った魅力もあるようです。文教大学国際学部准教授の清水麻帆さんが解説します。

ストリート・カルチャーからスポーツへ

 2020年に開催予定だった東京オリンピックの競技種目になったスケートボードは、現在注目度が上がっているスポーツです。1994(平成6)年にアメリカで初めて開催されたエクストリームゲームズ(現エックスゲームズ)でカテゴリー化され、10年後には国際的な連盟が誕生。以降、競技スポーツとして定着しています。

 日本におけるスケートボードの競技人口は男女合わせて2000人程度ですが、趣味とする人はさらに多く、全国にスケートボードパーク・スポットは約365か所あります。

スケートボードのイメージ(画像:写真AC)



 そんなスケートボードは、元々ストリート・カルチャーとして発展してきました。発祥の地は1950年代のカリフォルニアで、サーファーたちが始めたと言われています。現在では世界中に広まり、アジアでも浸透しています。

 スケートボードを始めるきっかけを東京都内の大学に通う学生たちに聞いたところ、友人の誘いや勧めなど、周りにスケートボード経験者がいたということが大きく影響していることがわかりました。

滑るだけじゃないスケートボードの魅力

 スケートボードをしている人たちによると、その魅力は滑る楽しさはもとより、

・コミュニティーづくり
・技を習得した際に得られる高揚感

などにあるようで、「けがさえもいい思い出のひとつになる」とのことでした。

 また、スケートパークや公共のスポットで友人ができたという人がほとんどで、そうしたこともまた魅力のひとつになっているのでしょう。年齢や性別、職業などに関係なく、多様性や他者を受け入れる寛容性のある世界観(ノーボーダー))を作り出しているのがスケートボードとも言えます。

 実際、女性スケーターも増加しています。

漫画『スケッチー』(画像:講談社)



 増加は2000年頃から。最近ではスポンサーも増え、プロスケーターも出てきています。話を聞いた学生たちもそれを実感しているようです。そうした世相を反映するように、女性スケーターが主人公の漫画『スケッチー』も発表されています。

『スケッチー』の聖地巡礼

『スケッチー』の主人公はスケートボード初心者のアラサー女性で、その葛藤や成長を描いた作品です。

 物語の舞台は、都内の実在するスケートボードパークやスケートボードのスポット。スケートボードをやっている人が絵を見れば「あっ、あそこだ」とすぐにわかるのではないでしょうか。

 主人公と友人は第2巻でスケートボードパークにデビューするのですが、場所は駒沢オリンピック公園(世田谷区駒沢公園)のスケートパーク。このスケートパークは、都内でスケーターが最も集まる場所といっても過言ではありません。

駒沢オリンピック公園内にあるスケートパーク(画像:(C)Google)

 初級から上級に合わせた四つのランプ台などが備え付けられたスケートパークは、2016年4月にリニューアルされ、女性スケーターやプロスケーターはもとより、老若男女から家族連れまで、スケートボード初心者から上級者までと誰でも楽しめる無料スポットとなっています。

草の根文化としてのスケートボード

 作中には、ほかにも「ムラサキパーク東京」(足立区千住関屋町)が登場します。

 ここは都内屈指のスケートパークで、ムラサキスポーツ(台東区上野)が2009年に足立区の旧アメージングスクエア遊園地跡地につくられ、スケート・BMX・インラインに対応しています。スケーターたちからは「アメージングスクエア」というニックネームで親しまれており、『スケッチー』の主人公が初めてスクールに参加する場面でも描かれています。

 作品にはほかにも、お台場の夜景が一望できる「ライジン スカイガーデン by H.L.N.A」(江東区青海)など、いろいろな場所が登場します。

江東区青海にある「ライジン スカイガーデン by H.L.N.A」(画像:(C)Google)



 また、スケートボードを初めて買うシーンでも実在するブランドが描かれており、デッキの絵についての背景なども詳細に説明されています。また、その他、登場人物たちが身につけているアパレルや靴なども実在するブランドが描かれており、登場人物それぞれの個性も表現できます。

 この作品で特筆すべきなのは、スケートパークの常連たちからプロ女性スケーター・選手まで登場することです。例えば、駒沢公園の元祖“駒ドル”や令和の”駒ドル”などの女性スケーターが漫画では紹介されており、実際のパークに行けば会える可能性があり、漫画の世界観を現実空間で体験できるかもしれません。

 また前述のように、ノーボーダーのスケートボードは人びとの横のつながりを作り出します。それが多様な人びとの存在するコミュニティーを形成し、地域を元気づける、活気づける要素のひとつになり得るのではないでしょうか。

 特に女性スケーターのコミュニティーではノーボーダーの精神を大切にしているようで、初心者も熟練者も関係なく、同じ空間で一緒に楽しんで滑ろうというのがモットーになっている雰囲気があるのでしょう。

 実際『スケッチー』にもそうした場面はよく出てきます。

 前述のように主人公とその友達は初心者のため、駒沢公園でのデビュー時にはなかなか入ることができなかったのですが、顔見知りの常連の女性スケーターに声をかけてもらい、そこで教えてもらうことで、楽しむことができたシーンが描かれています。

 つまり、スケートボードというものを媒介として、草の根文化もしくはコミュニティーが作り出されていると考えられます。

スケーターコミュニティーの行方

 こうした側面は、コミュニティーづくりや地域再生といった面で社会に貢献できます。例えばスケートボードの生みの親であるサーフィンにおいて、多くのサーファーは自然環境問題に関心が高く、ボランティアで海岸でのゴミ拾いや掃除などを行うコミュニティーが数多く存在しています。

 またフィリピンの女性スケーターで、アジア大会で優勝したマージリン・ディダルさんはフィリピン国内でのスケートボードの認知度を高めたことだけでなく、自身と同じ貧しい境遇の人たちの希望になりました。結果、彼女の偉業によって政府がスケートボード振興に対して支援を行うようになり、フィリピンのスケーターコミュニティーの環境も改善されるようになったのです。

 このように、スケートボードはファッション性やサブカルチャーといった要素はもとより、実際に滑って技を磨く楽しさや、多様性のあるつながりによって、若者をとりこにして言えます。

スケートボードのイメージ(画像:写真AC)



 そして時代を超え、それらを繰り返すことで、現在は幅広い世代が垣根なくつながれる空間となりました。そして、若者が世界一を目指すことができる競技スポーツとなり、さらなる飛躍を遂げてきました。

 一方、東京では公共のスケートパークが多く点在していますが、騒音や危険・破損行為などの課題もまだ残されているところもあります。今後、ストリートカルチャーとしてのスケートボードを継承し、楽しく滑るためにも、地域の人びとや社会とコミュニケーションを取ることが必要です。

 例えば、スケーターコミュニティーがサーファーコミュニティーのように草の根文化として発展できれば、地域社会に貢献するような存在になれます。コロナ渦で外出が難しいですが、公園のスケートパークでスケーターを見かけたら、技などを鑑賞してみてください。

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