都内高級ホテルの「長期宿泊プラン」はインバウンド減の逆境に風穴を開けるか

  • おでかけ
  • 新宿駅
  • 日比谷駅
  • 赤坂見附駅
  • 都庁前駅
都内高級ホテルの「長期宿泊プラン」はインバウンド減の逆境に風穴を開けるか

\ この記事を書いた人 /

中村圭のプロフィール画像

中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

ライターページへ

有名ホテルの長期滞在型宿泊プランなど、新型コロナウイルス感染拡大を受けたホテル業界の動向に注目が集まっています。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

老舗高級ホテルの長期滞在プランが話題

 帝国ホテル東京(千代田区内幸町)が2021年2月1日、帝国ホテルサービスアパートメントとして「30連泊36万円~」(サービス料・税込み)という長期滞在型宿泊プランを打ち出し、大きな話題となりました。

 タワー館の客室3フロアの一部を、99室のサービスアパートメントとして改修。アメニティーの提供は到着日のみ、リネンの交換は1週間に3回と通常のホテルステイよりも簡素化したサービスですが、専属サービスアテンダントによる24時間対応のサービスや、ランドリーサービスやルームサービスをサブスクリプションで提供するなど、ホテルならではのサービスが受けられます。同プランは3月15日からの稼働ですが、人気が高く、7月15日まではすでに完売しました(2月28日時点)

 大都市の老舗高級ホテルでは、長期滞在プランが相次いで提供されています。

千代田区紀尾井町にあるホテルニューオータニ(画像:(C)Google)



 ホテルニューオータニ(同区紀尾井町)では2020年、都民還元キャンペーン「STAY TOKYO+EAT TOKYO~食べて泊まって、東京で過ごす夏~」で、6連泊・室料半額にミールクーポンが付く破格のプランを出しましたが、2021年も2月15日から6月30日まで、「新・スーパーTOKYOCATION」として朝・昼・夕3食付き長期滞在プランを提供しています。価格は30泊75万円~(サービス料・税込み)で、こちらは1滞在につき、人数分のアメニティーが用意され、ランドリーサービスは無料。エステティックなど館内施設の優待券も付きます。

 また、京王プラザホテル(新宿区西新宿)では「“暮らす”@theHOTEL」プランとして2月22日から5月15日まで30連泊21万円~(サービス料・税込み)の朝食付き長期滞在プランを用意。コストパフォーマンスが非常によいこともあり、販売を開始してすぐにすべてのプランが完売しました。

 ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル(横浜市)では12月30日まで「マンスリーステイプラン」として、31連泊15万円(サービス料・税込み)の破格プランまで出しています。7~8月分はすでに完売。9月以降の利用分は、6月1日からの予約受付となっています。そのほかにも類似したプランを提供するホテルが増えています。

ホテル滞在そのものを目的とするトレンドも

 このようにホテルが長期滞在プランを打ち出す背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の長期化があるのは言うまでもありません。

 2020年夏にはコロナをこのまま抑え込めるという期待があったものの、第2波によるGoToトラベルの一時打ち切り、2回目の緊急事態宣言、オリンピック無観客試合の懸念など、宿泊需要が元通りになるにはまだ時間がかかり、厳しい状況が長期化する見通しになってきています。まとまった稼働を確保するためには単純に値引きするのではなく、長期滞在プランで思い切った値引きをすることが有効です。

千代田区内幸町にある帝国ホテル東京(画像:写真AC)



 一方、今回の長期滞在プランはサービスアパートメントのトライアルとしての側面もあるでしょう。外資系ラグジュアリーホテルのなかには、通常からサービスアパートメントとしての機能を持つものもあります。

 今回の長期滞在プランは格安であったことが人気の大きな要因ではありますが、映画の様なホテル暮らしへの憧れを実現するよい機会ともなったでしょう。多くのメディアに取り上げられたことから、「暮らすように宿泊する」ホテルの使い方を改めて利用層にアピールする効果もあったと考えられます。

 ホテル、旅館、民泊といった宿泊業では、コロナ禍で稼働を確保するためにさまざまな新しい試みが実施されています。宿泊に関する施策だけでも見ていくと、第1波の感染拡大時にはリモートワークが推進されたため、日中をホテルで仕事をするデイユースプランが登場しました。

 さらに1回目の緊急事態宣言後は新しいバケーションスタイル「ステイケーション」のプランが登場。ステイケーションとはイギリス発祥の造語で、遠方へ旅行するのではなく、節約したその交通費を使って、例えば近場のホテルでゴージャスに過ごすことなどを言います。

 コロナで都道府県間の往来の自粛が求められるなか、「地元割」などの割引プランは地域住民のホテル利用を促進しました。そのほかにも客室内にテントを持ち込んでキャンプ気分が楽しめるプランや、働く女性などをターゲットにホテルステイで気分転換できるプランなど、ステイケーションを意識したプランが登場しました。

 元々ホテルは観光やビジネスの拠点として機能し、ホテル滞在自体が目的というものではありませんでしたが、コロナ禍でホテル滞在自体を目的とする利用者が増えたと言えます。さらに観光地ではリゾートや観光地で仕事をする「ワーケーション」が注目され、リモートワークに対応できるホテルが増加。そして、今回の長期滞在プランです。

コロナ禍でイノベーションも生まれた

 2010年代後半、わが国では空前のホテル開発ブームが到来していました。

 当時はインバウンドの急増にオリンピック時の客室不足が課題とされ、早急に宿泊機能を整備する必要性が言われていました。国内の成長分野としてホテル事業に投資が集中し、東京や大阪などの大都市圏、京都や北海道などの大型観光地でのホテル開発が進行したのです。

 外資系チェーンや国内チェーンは次々に新しいホテルをオープンし、あまりの開発ラッシュにむしろ市場の飽和状況が問われ、オリンピック後の供給過多が危惧されましたが、それでも開発の勢いは止まりません。

新宿区西新宿にある京王プラザホテル(画像:(C)Google)



 インバウンドは当初の国の目標であった年間2000万人を2016年に突破、新たに目標は4000万人に上方修正され、2019年は年間3188万人と、コロナ感染拡大までは増加の一途でした。大都市圏や大型観光地では海外の富裕層をターゲットとした高額設定の宿泊施設も増加。民泊も増加し、2018年6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されます。

 オリンピックイヤーであった2020年のはじめは宿泊料金が値上がり、民泊でも1泊10万円を超えるような状況が見られました。ところが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって状況が一変しました。ホテルだけではなく、飲食店やカラオケ、映画館、劇場など、集客を伴うビジネスはコロナによって大きな打撃を受けました。

 その一方で、これらの業界でさまざまなイノベーションが生まれていることも事実です。格式やブランドが問われるホテルでは思い切った変化はなかなかできませんが、コロナ禍ではかつてないほどのチャレンジがあったと言えるでしょう。世界的にコロナが収束すればホテルの需要もおおむね戻ってくると考えられます。格安プランや多彩なプランは今だけのことかもしれません。

 しかし、さまざまなホテルの可能性が模索され、地域とのつながりの重要性も改めて認識された今、今後のリスクヘッジのためにも何かしらの形で継承されることが望まれます。

 ご興味のある人はぜひ、さまざまなホテルプランをチェックしてみてはいかがでしょうか。

関連記事