東京に大地震がおきたら……今から知っておくべき「首都圏特有」の課題と具体的対策とは

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東京に大地震がおきたら……今から知っておくべき「首都圏特有」の課題と具体的対策とは

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古本尚樹

防災・危機管理アドバイザー 博士[医学]

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近年、首都圏で発生が危惧されている首都直下地震。発生時に首都圏住民がまずなすべきことは何でしょうか。防災・危機管理アドバイザーの古本尚樹さんが解説します。

過去の大規模地震から分かる課題

 2月13日(土)の23時すぎ、福島等で震度6強の地震が発生しました。3月には東日本大震災発生から10年という節目の年に、その余震とみられる大きな地震でした。日本は世界でもまれにみる災害発生国で、その被害規模も近年大きくなっています。

 特に首都圏では、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生が危惧されています。政府の地震調査委員会が今後30年以内に70%の確率で起きると予測している、マグニチュード7程度の大地震こそが首都直下地震なのです。

 異なる震源の複数の地震が想定され、このうち首都中枢機能への影響が最も大きいと考えられるのが、都心南部の直下で起きるマグニチュード7.3の大地震です。

首都圏の震災発生イメージ(画像:写真AC)



 大都市部特有の課題は帰宅困難者に関する問題です。これは東日本大震災時でも大きく取り上げられました。

 当時、駅などでは大行列が発生して徒歩で帰宅する人が多くいました。その数は車道にはみ出すほどの規模で、緊急自動車の移動も困難に。建物の落下物や倒壊による被害の可能性も高まり、危険な状態になりました。

 一方、計画停電により、電力が使えないことによる住民生活や企業活動へのダメージが少なくありませんでした。2018年に発生した北海道胆振東部地震では大規模なブラックアウトが発生したことからも、電力が使えなくなった場合の備えが必要です。

 大規模災害時は物流も混乱し、商品棚から商品が消える状態が継続されます。この背景には、

1.都市交通の脆弱(ぜいじゃく)さ
2.消費者の約10%が「買いだめ」すると混乱する物流
3.デッドストックの最小化
4.都市の流通構造(生産拠点 → 流通拠点 → 各店舗の構造が多層かつ幅が広い)

などの課題があります。

 なお、2011年の東日本大震災で購入状況の多かったものは順に、水、インスタント食品・冷凍食品、電池、米などの主食、ティッシュ・トイレットペーパー、ガソリン、懐中電灯です。

 そこで、次から首都直下地震への対策を考察します。

首都圏住民の特有の課題とは

 首都圏住民の特有の課題とは何でしょうか。また、なぜその課題に備える必要があるのか、その背景を考察します。

 都市の地震で起きる火災のひとつに「火災旋風」があります。高さ200mを超える巨大な炎の渦が竜巻のようになって家屋や人を吹き飛ばし、街を焼き尽くす現象です。これは東日本大震災でも発生しています。

首都圏の震災発生イメージ(画像:写真AC)



 また、指摘されるのが避難所不足です。支援するマンパワーと施設が、人口に対して圧倒的に少ないのです。また、鉄道やバス、地下鉄などの交通機関のマヒで行き場を失った被災者が滞留することによる2次被害も想定されます。

 さらに歩道橋や地下街の入り口といった、階段の近くや急に道が細くなった路地などで発生する「群衆雪崩」も危険です。歩行者が密集しやすい場所で、建物から物が落下するなどして群衆が動きだし、誰かがつまずき倒れると周りの人たちも雪崩のように折り重なって転倒します。下敷きになって押しつぶさる危険性もあります。

予想される首都圏での被害や影響

 首都直下地震の帰宅困難者は、1都4県で800万人に達すると予測されています。想定では東京の江戸川区と江東区が震度7、他の東京地区、千葉、埼玉、神奈川の四つの都県では、震度6強の激しい揺れが想定されています。

 最悪の場合、全壊または焼失する建物は61万棟に上り、このうち火災で焼失するのは約41万2000棟。死者はおよそ2万3000人に上り、その7割にあたる約1万6000人は火災が原因で死亡するとされています。

 けが人は12万3000人、救助が必要な人は5万8000人、避難者数は720万人に達すると想定されています。

首都圏の震災発生イメージ(画像:写真AC)

 電気や上下水道などのライフラインや交通への影響は長期化。都心の一般道は激しい交通渋滞が数週間続き、鉄道も1週間~1か月程度運転不可能な状態が続くおそれがあります。

 建物が壊れるなどの、直接的な経済被害は42兆円余り。企業の生産活動等が低下する被害は48兆円近くで、関連事項も合わせると、国の年間予算に匹敵する95兆円とされています。

行政レベルと住民レベルでの考え方

 それでは、どのような対策が望まれるのでしょうか。

 火災については、延焼中の地域には近づかないことです。延焼が大きいエリアは風速の強い火災旋風が発生する危険性が高いため、火災現場の「風下」側に行かないでください。また煙の向きに注意し、空が暗くなる、といった環境に注意してください。

 鉄筋コンクリート造りなどの頑丈な建物に避難し、飛散物から身を守るために窓ガラスの側から離れるようにしましょう。また自動車や物置、電柱などは飛散する可能性があるので近づかないでください。

首都圏の震災発生イメージ(画像:写真AC)



 帰宅困難な場合、情報を求める人が集まりやすい駅にはなるべく近づかないことです。特に高齢者や子ども連れは近づかないでください。原則は無理に帰宅せず、安全が確保できる場所で待つこと。地震後3日間程度は会社や学校、一時滞在施設で待機するつもりでいましょう。

 また事前に家族と話し合い、災害用伝言板やSNSなどの連絡手段を決めて訓練するなど、各人の安否が確認できる手段を確保しておきましょう。震災時は通信手段が一切使えなくなる可能性があるため、バックアップの手段も確保してください。

 SNS情報の正確性も最近の課題です。いわゆるデマ情報で混乱しないよう、公式のSNS情報を利用しましょう。災害後の天気変化にも注意し、自宅の屋根瓦の破損による水漏れ対策としてブルシートの確保も検討してください。

 災害後のデマ情報とともに、悪徳リフォーム業者や火事場泥棒などによる被害が現場で目立つため、自主防災組織や警察などと普段から連携しておくことが大切です。

 自治体は少ないマンパワーで対応しなければならないので、住民組織や企業などと事前の連携がより重要になります。加えて、地域を超えた広域連携のシステム作りも必要なのです。

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