経済都市・東京を作り上げた渋沢栄一 豪農だった実家を支えた「藍玉」をご存じか【青天を衝け 序説】

“日本資本主義の父”で、新1万円札の顔としても注目される渋沢栄一が活躍するNHK大河ドラマ「青天を衝け」。そんな同作をより楽しめる豆知識を、フリーランスライターの小川裕夫さんが紹介します。


都内の阿波踊り普及の陰に徳島藩の存在?

 しかし、令和の現在において藍玉と言われてもピンときません。当時の社会において、藍玉はどのぐらいの富を生み出すものだったのでしょうか?

 藍玉の生産・販売で富を築いたのは渋沢家だけではありません。阿波(あわ)踊りで有名な徳島藩も藍玉で大きな収益をあげていました。徳島藩は江戸時代を通じて蜂須賀(はちすか)家が藩主を務めました。

 蜂須賀家は領内で生産されている藍玉の販路を広げるために、江戸でも阿波踊りを流行させようとしたという説もあるほど。阿波踊りが流行すれば、それだけ藍染めの着物が売れる。着物が売れるということは、藍玉を生産している徳島藩がもうかるという仕組みです。

 蜂須賀家がこうした仕組みを狙って阿波踊りを普及させたか否かは不明ですが、現在でも豊島区大塚や杉並区高円寺などでは阿波踊りが夏の風物詩になっている地域は珍しくありません。

毎年開催される「東京高円寺阿波おどり」(画像:写真AC)

 幕末期、多くの大名は金銭的に困窮していました。ところが、徳島藩の蜂須賀家はスーパーリッチな大名として知られていました。明治新政府発足後、最後の藩主だった蜂須賀茂韶(もちあき)は妻同伴でイギリスのオックスフォード大学へ留学しています。

 幕末から明治初期にかけて、将来有望の政治家・技術者たちが海外へ渡りましたが、彼らの大半は政府が留学費用を負担する官費留学です。しかし、蜂須賀は私費留学。つまり、自分の財布から留学費用を捻出できるほどスーパーリッチだったのです。そうしたことが可能だったのも、蜂須賀家が藍玉で財を築いていたからです。

 渋沢と蜂須賀は藍玉で財を築いたという共通点がありますが、ふたりは政治でも経済でも濃密な協力関係にありました。

 イギリスから帰国した蜂須賀は大蔵省(現・財務省)に出仕しますが、その一方で蜂須賀家の莫大(ばくだい)な財産を使って多くの企業を立ち上げていきます。蜂須賀は江戸幕府が倒れたことで失業する武士が世にあふれることを危惧し、その受け皿となる事業を起こすことをイギリス留学中から考えていました。

 大量の失業した武士を雇用するには、大規模な企業を設立しなければなりません。大規模な企業を立ち上げるには、多額の出資金を集める必要があります。

 そうした考えから、蜂須賀は1877(明治10)年に十五銀行を設立。そして、十五銀行へ預金をするよう華族(旧大名家・旧公家)に呼びかけたのです。華族というと、金に困らない優雅な生活を送っていると思われがちですが、それはあくまでも一部に過ぎません。生活に苦しむ華族もたくさんいました。

 例えば、江戸時代は御三卿として高い身分にあった田安徳川家は、明治新政府発足後に伯爵となりました。田安徳川家の当主だった徳川達孝(さとたか)は、昭和初期から生活が苦しくなり、ついには屋敷を売却。家宝も売り払い、宗家の徳川家達(いえさと)の家で居候生活を送っています。

 また、旧信濃飯山藩の本多家は明治新政府の発足後に子爵を授爵されていますが、同じく昭和初期には破産宣告を受けるほど多額の借金を抱えました。本多家は窮乏を脱するため、子爵という爵位を売りに出すという奇想天外な行動に出ています。

 このように、多くの華族は明治期には苦しい財政状況だったのです。

東京府知事に就任した茂韶


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