東京の「駅ホーム」で泣いた女性 声を掛けてくれる人は誰もいなかった

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東京の「駅ホーム」で泣いた女性 声を掛けてくれる人は誰もいなかった

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櫻井朝子

フリーライター

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東京という街に対して、あなたはどのようなイメージを持っているでしょうか。地方と違って人が冷たい? 人と人との関わりが薄い? 果たして実際にそうなのか。東京で暮らして11年になるフリーライターの櫻井朝子さんが、自身の体験を通して考えます。

半数が地方出身者、ひとり暮らしの街

 あなたは「東京」を好きですか?

 東京は冷たい人が多いとか、怖い事件が日常茶飯事だとか、ネガティブな印象を持っている人もいるかもしれません。仙台に生まれ大学で過ごした秋田を離れるまで、人生の大半の時間を東北に費やした筆者も、かつてはそう思っていたひとりでした。

 一方で、東京は地方出身者の多い街です。

 人口が約1400万人もいるこの街で、45.6%が東京以外の生まれ(国立社会保障・人口問題研究所「第8回人口移動調査」)。ふたりにひとりは地方出身者だという計算になります。確かに、自分の身の回りの知人を思い浮かべても、東京出身の人は意外と少なく感じます。

地方出身者が45.6%、全世帯のうち単身世帯が約半数。東京は、圧倒的に「ひとり」が多い街と言えるかもしれない(画像:写真AC)



 都の推計(「東京都世帯数の予測」)によれば、単身世帯は今後も増え続け、2035年には50%を上回るそう。東京は、たくさんの「ひとり」が暮らす街。冷たい、というイメージが根強いのは、こうしたところから来ているのかもしれません。

 筆者が通った大学ではほとんどの仲間が、地元の秋田か、身近な都会である仙台に就職していきました。「なんでわざわざ東京へ?」という言葉をかけられたことも、一度や二度ではありません。

 住み慣れた地元で安定した生活を送りたい、勇気を出しても仙台まで――。少なくとも筆者が過ごした時期の秋田では、そうした保守的な考え方の方がどちらかというと正統だったように思います。

慣れない東京生活、慣れない営業職

 そんな、地方出身者にとっては得体のしれない大都会・東京へ出てきたのは、今から11年前。賃貸住宅を紹介するウェブメディアの運営会社に就職したことがきっかけでした。2010(平成22)年、その頃はまだiPhoneも今ほど普及していなかったし、スカイツリーだって半分くらいしか出来上がっていませんでした。

 筆者が配属されたのは、営業部。不動産会社さんに、「うちの媒体に物件を掲載しませんか?」とお願いをして周る仕事をしていました。

 もともと明るさには自信があったものの、成績は想像していた以上にひどいものでした。

 主に飛び込み営業をしていたのですが、「うちには必要ない」と追い返される毎日。ようやく座って話をさせてもらえたと思ったら、単に話し相手が欲しかったおじいちゃん社長だったり。つたない営業トークを社内の上司に聞かれるのが恥ずかしくて、わざわざ会社近くの公園まで出て電話をかけていると、近くにいたママさんたちに変な視線を送られたり。

慣れない東京生活に、慣れない営業職。落ち込むこともたくさんあった(画像:写真AC)



 今振り返っても、もっとうまくできたよなぁと恥ずかしくなるような“黒歴史”です。

 あるとき、どうしても電車に乗っていられなくなるほど辛くなり、途中下車をして駅のホームで泣いていたことがあります。忘れもしない、押上駅(墨田区押上)。東京の東エリアを担当していた筆者は、出来上がっていくスカイツリーの足元で、人目もはばからず、静かに泣いていたのです。

誰も立ち止まらない、そのありがたさ

「こんなはずじゃなかったのに」、「どうしてこんなに自分はダメなんだろう」、「早くこんな仕事辞めてしまいたい」。まして駅のホームで泣くなんて、恥ずかしい。きっとみんな私を見ている。次の電車が来るまでに、早くここを離れなきゃ。でも赤い目をしながら歩いていたら、もっと変に思われるかも……。

 いろんな気持ちが混ざりながら、その場を動けないでいると、次の電車が来てしまいました。ああ、もう終わったな。みんなが通り過ぎるまでやり過ごそう。そう思いながらハンカチのすき間からホームを見ると、驚くほどに誰もこちらを見ていないことに気が付きました。

 みんな携帯をいじったり、話したりしながら、足早に出口へと向かって行きます。

 これが秋田だったらどうでしょう。「大丈夫? 辛いことでもあった?」と声をかけてくれる人がいるかもしれない。隣に座って、話を聞いてくれる人も、いたかもしれない。

 けれどそのとき不思議と、私は安心したのです。放っておいてくれてありがとう。見て見ぬふりをしてくれてありがとう、と。

 いつしか涙はひいて、気づけばやってくる電車に乗り込んでいました。泣いてすっきりしたのか、泣いてばかりいても始まらないと諦めたのか、ひとまず会社へ向かったような気がします。

 あのとき誰にも声をかけられなかったことは、もしかしたらただの偶然だったのかもしれません。でもこの出来事をきっかけに、これまで東京に対して抱いていたイメージはずいぶん変わって、東京を好きになれたような気がします。

 自分ではダメだと思っている弱点も個性も、この街はこの街なりのやり方で受け入れてくれるのだと知りました。

東京で「辛い」と感じたときは

 今でもスカイツリーを見ると、少しだけ胸がざわつきます。けれどそんな話も、飲み会の席で笑いながらできるほどになりました。東京に暮らして11年、気づけば気の置けない友人も増えていました。

上京した頃、半分しか出来上がっていなかったスカイツリーも完成して、筆者にはいつの間にか友達や居場所もできていた(画像:写真AC)



 東京でひとり生きていくことが不安でたまらなく感じるときというのは、誰にも避けがたく訪れるものなのでしょう。けれど、ふとした気づきやささやかな出会いによって救われる場面も決して少なくありません。

 東京は、たくさんの「ひとり」が暮らす街。ひとりばかりだから、ひとりとひとり同士の出会いがあります。「辛い」や「寂しい」は、そのための大切なきっかけにもなります。

 東京に出てきたばかりの時期、それまで住んでいた土地との違いに、戸惑うこともあるかもしれません。でも、大丈夫。せっかくなら、その違いを楽しめばいい。きっとあなたの個性を理解してくれる人が、東京にはいるはずだから。

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