「恋愛アプリ系ドラマ」空前のブーム 背後にある現代人の飽きっぽさ

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「恋愛アプリ系ドラマ」空前のブーム 背後にある現代人の飽きっぽさ

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苫とり子

フリーライター

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街角で偶然肩がぶつかった相手と恋に落ちる。気になる相手と社内のエレベーターで偶然の停電に見舞われて閉じ込められる。――ドラマでしばしば見かけるこうした場面、実際に経験したことがある人はどのくらいいるでしょうか。文字通りドラマチックな「運命の出会い」に対して、より現実的な「マッチングアプリでの出会い」を描くドラマ作品が徐々に増えているようです。フリーライターの苫とり子さんが、現代的背景を含めて解説します。

東京20代女性「今どきの出会い方」は

 2021年1月、ゲームメーカーUeharaLaboがリリースしたスマホ用ゲームアプリがTwitterで話題となりました。タイトルは「たたかえ!マッチングアプリ」。

 このゲームは主人公の女性になりきり、マッチングアプリを利用した人なら心当たりのあるセリフで自分を口説いてくる男性と戦うバトルゲーム。

渋谷109をバックに、スマホを掲げる若者のイメージ。東京の女性たちにとっても、マッチングアプリは今やごく身近な存在になっている(画像:写真AC)



「いしき高い系さん」「理系さん」といった名前の男性たちのメンタルを、「どんな人脈を持っているんですか!?」「自分で話して自分だけで笑わないでください!」といった痛烈な言葉で削っていき、弱ったところで連絡先を聞いて友達になるという、ポケモンを彷彿とさせるバトルが展開されていきます。

 MMD研究所(港区港南)の「2020年マッチングサービス・アプリの利用実態調査」によると、スマートフォンを所有する20~49歳の独身男女5385人のうち、マッチングアプリを「現在利用している」「過去に利用していた(現在は利用していない)」と答えた人は全体の57.1%。

 この数字を見ると、マッチングアプリを利用した人にしかわからない面白さがある前述のゲームが多くの人から共感を呼んでいるのも頷けます。

利用経験者、交際経験者とも約半数

 また、同社の調査で注目したいのがマッチングサービス・アプリ利用経験者623人に聞いた「マッチングサービス・アプリを使って実際に会った人とのその後」について。

マッチングアプリで出会った相手と交際に至ったケースも約半数に上るという調査結果もある(画像:写真AC)



 男女ともに約半数が「実際に会ってみたが、それ以降はなにもない」と答えている一方、「現在付き合っている」「付き合っていたが別れた」と答えた人もそれぞれ25%以上に上っているのです。

 マッチングアプリで恋人ができた東京在住の20代女性は、筆者の友人だけでも5人以上。それだけ、マッチングアプリは男女の出会いに貢献していると言えるでしょう。

アプリから始まる恋愛ドラマも続出

 ここ数年、ドラマや映画でもマッチングアプリでの出会いが描かれるようになってきました。

 例えば2021年1月10日(日)、日本テレビ系で本田翼さん主演のスペシャルドラマ『アプリで恋する20の条件』を放送。このドラマではマッチングアプリを通して出会った男女6人の恋愛模様を描きました。

 作中に「ヤリモク(恋人を作るためではなく性行為を目的とする人)」や「メシモク(出会った人にご飯を奢ってもらうことを目的とする人)」など“マッチングアプリあるある”が盛り込まれていたのも印象的です。

マッチング系ドラマはなぜ増えたのか?

 さらに、テレビ東京系では昨年11~12月にかけてドラマ『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』が放送されています。

 山口紗弥加さん演じる38歳バツイチ独身女性のチアキが、マッチングアプリを使って年下のイケメン男子と“遅咲きの青春”を謳歌する本作。

 単なるラブストーリーではなく、マッチングアプリで男性からちやほやされ満たされていく気持ちや、一方で時折アプリを利用しているときに感じる虚しさなども丁寧に描かれ、リアリティーのある物語に仕上がっていました。

変化する「結婚相手との出会い方」

 実は近年、結婚に至る男女の出会い方も時代とともに変化の様相を見せています。

 婚活支援サービスを展開するパートナーエージェント(品川区大崎)のアンケート調査によると、結婚相手と知り合ったきっかけについて、1991(平成3)~1995年には35.4%と最多だった「職場で知り合った」と回答する人が徐々に減少し、2011~2015年には19.9%に低下。

 同じく「家族・友人・知人からの紹介」と答えた人も、1991~1995年の16.6%から2011~2015年には5.8%にまで下がっていることが分かっています。

 反対に、「インターネットで知り合った」と言う人は1.6%から11.0%に増加。この傾向は今後も続くものとみられます。

 もはや日常生活での出会いで結婚相手を見つける人はどちらかといえば少数で、たとえフィクションの世界であるドラマや映画でも、偶然出会った人と恋に落ちる……なんていう展開は視聴者の目にも不自然に映るのかもしれません。

今の若者が職場恋愛を避けたがる理由

 しかしそもそもなぜ、最もチャンスが多そうな職場での恋愛が減少傾向にあるのでしょうか。

 前述のパートナーエージェントの調査を受け、ウェブマーケティングなどを行うninoya(港区六本木)取締役でコラムニストの川崎貴子さんが、同社で運営する婚活サイト「キャリ婚」の面接に来た男女に「なぜ社内で恋愛しないのか」を聞いたところ、多くの人が「社内だけは絶対に嫌」「仕事がやりづらくなると困る」と答えたと言います。

フラれたときや別れたときのリスクを考え、社内恋愛は「絶対しない」という若者は少なくない(画像:写真AC)



 確かに筆者の周りでも、マッチングアプリで恋人を作った友人たちは皆、社内恋愛に対して消極的でした。

 理由はやはり、どれも「フラれたとき/別れたときに気まずいから」「何かあったときに仕事に支障をきたすから」といったトラブル回避のため。大学時代も同じような理由からゼミ内・サークル内での恋愛を避けている人たちが多かったように思います。

 特に若者の間では、グループ内で恋愛沙汰を引き起こし、人間関係を崩壊させてしまう人のことを揶揄する“クラッシャー”という言葉が存在します。

 そんな言葉も相まって、グループ内で恋愛を始めるなら絶対にトラブルを起こしてはいけないというプレッシャーがあるのかもしれません。

コロナ禍で加速したマッチング利用傾向

 その点、マッチングアプリは1対1の世界なので、相手とうまくいってもいかなくても誰にも迷惑をかけることがありません。

 また、職場よりもはるかに多くの男性に出会うことができ、顔のタイプや共通の趣味などからあらかじめ相手を絞ることができます。

 その便利さが多くの人に受け入れられている理由なのでしょう。

 とはいえ、マッチングアプリの世界を描いたエンタメ作品はまだ物珍しさがあります。しかしながらコロナ禍でさらに自然な出会いが困難になっている今、マッチングアプリの利用率はさらに高まっており、今後その傾向を取り入れる作品も増えていくのではないでしょうか。

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