金曜『俺の家の話』も話題 長瀬×クドカンコンビが描く、あえて定番じゃない東京スポットとは

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金曜『俺の家の話』も話題 長瀬×クドカンコンビが描く、あえて定番じゃない東京スポットとは

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太田省一

社会学者、著述家

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長瀬智也×宮藤官九郎コンビが話題を呼んでいる『俺の家の話』(TBSテレビ系)。同コンビ作品と東京の関係性について、社会学者の太田省一さんが解説します。

コンビは4度目

 各局で冬の連続ドラマがスタートするなか、「面白い」という評判が聞こえてくるのが『俺の家の話』(TBSテレビ系)です。プロレスラーの息子が、能楽師で人間国宝である父の介護のためにプロレスを引退し、実家に戻るというストーリー。主人公の元プロレスラーを演じるのが長瀬智也、そして脚本を担当するのがクドカンこと宮藤官九郎です。

『俺の家の話』のウェブサイト(画像:TBSテレビ)



 ふたりがドラマでタッグを組むのはこれが4度目。過去の3作はやはりTBS系列の放送で、いずれも東京を舞台にしていました。

 最初の作品は、『池袋ウエストゲートパーク』(TBSテレビ系)。2000(平成12)年の放送で、池袋の街で繰り広げられる不良少年たちの抗争を描いた若者の群像劇です。

 長瀬智也が演じるのは、地元で一目置かれる元不良のマコト。「めんどくせぇ」とぼやきながらも、トラブル解決のために奮闘する仲間思いの熱い性格の持ち主です。窪塚洋介、坂口憲二、山下智久、高橋一生なども、それぞれ魅力的なキャラクターで出演していました。

 石田衣良の同名小説が原作なのですが、宮藤官九郎はそこに彼一流の小ネタなどコミカルな要素をふんだんに盛り込み、いかにもクドカンテイストの作品に仕上げました。

 このドラマによって、脚本家・宮藤官九郎の名を知った人も多いのではないでしょうか。長瀬智也の真っすぐでありながらどこかとぼけた愛すべき魅力も、ここで本格的に開花したように思います。

 池袋は大きなターミナルですが、それまでは渋谷のような若者の街とは対極にある「あまり目立たない街」という印象でした。ところが、この『池袋ウエストゲートパーク』の人気によってがらりとイメージが変わり、池袋にも若者の関心が集まるようになりました。

青春ドラマの秀作だった『タイガー&ドラゴン』

 ふたりが送り出したドラマの2作目は、『タイガー&ドラゴン』(TBSテレビ系、2005年にスペシャルドラマとして放送、のちに連続ドラマ化)です。

動画配信サービス「Paravi」上の『タイガー&ドラゴン』(画像:TBSテレビ、プレミアム・プラットフォーム・ジャパン)

 ここで長瀬智也が演じるのは、ヤクザの山崎虎児。落語家・林家亭どん兵衛(西田敏行)の借金取り立てに向かいますが、口下手な虎児はどん兵衛の噺(はなし)を聞いて感激し、弟子入りを志願します。そこにいまはデザイナーですが、かつて落語の天才と言われたどん兵衛の息子・谷中竜二(岡田准一)が絡んできます。

 対照的なキャラクターのふたりが人間として成長していく青春ドラマの秀作でもありました。

ドラマを盛り上げた浅草の街

 宮藤官九郎の仕掛けも巧みでした。

 毎回「芝浜」や「饅頭(まんじゅう)怖い」と言った古典落語の演目がタイトルになり、その噺の内容がドラマの展開とオーバーラップするという仕組みです。その手際は鮮やかで、多くのドラマファンをうならせるとともに若者のあいだに時ならぬ落語ブームを巻き起こしました。

 そしてそこには、浅草の街も一役買っていました。スペシャル版の冒頭で虎児がどん兵衛の落語に魅せられたのも、浅草の演芸ホールでした。

『タイガー&ドラゴン』で寄席の会場となった浅草演芸ホール(画像:(C)Google)



 浅草は観光地としては人気のスポットですが、繁華街としてはやはり“旬”とは言い難い街です。だがこの『タイガー&ドラゴン』では、そこにいまも息づく古典落語の世界さながらの風情や人情が大いにドラマの雰囲気づくりに貢献していました。

あえて「定番」を避けるクドカン

 そして同じコンビによる3作目が、『うぬぼれ刑事』(TBSテレビ系、2010年放送)。こちらは刑事ドラマですが、そこはクドカンらしく、ひとひねりした設定になっています。

 長瀬智也演じる小暮己(こぐれおのれ)は警視庁世田谷通り署の刑事。優秀なのですが、恋愛体質で女性にほれっぽい。ところが好きになった女性がことごとく事件の真犯人であることがわかり、毎回失恋してしまうという役どころでした。このキャラクターも、かっこよさのなかに悲哀とユーモアがにじみ出る長瀬智也ならではのものでしょう。

世田谷区三軒茶屋から町田市に至る「世田谷通り」(画像:(C)Google)

 また東京が舞台の刑事ドラマというと、警視庁本部のある桜田門、あるいは『太陽にほえろ!』(日本テレビ系、1972年放送開始)の新宿といったイメージで、「世田谷通り」という場所の設定はかなり珍しく感じます。この部分でも、定番通りにはしないというクドカン流は一貫しています。

プロレスラーの所属団体が「さんたま」

『池袋ウエストゲートパーク』『タイガー&ドラゴン』『うぬぼれ刑事』と、どれもいまだに根強いファンの多い作品です。設定はそれぞればらばらにもかかわらずこれだけ長く人気なのは、長瀬智也と宮藤官九郎が俳優と脚本家として相性抜群であることの紛れもない証しでしょう。

 今回の『俺の家の話』は、前3作から一転して王道のホームドラマ。ただ、プロレスと能楽という一見ホームドラマとはかけ離れた世界が絡んでくる斬新な設定は、やはりクドカンらしいという印象です。また、『タイガー&ドラゴン』『うぬぼれ刑事』でも共演した西田敏行と長瀬智也の親子役も、大きな見どころのひとつでしょう。

 さらに付け加えておけば、長瀬智也演じるプロレスラーの所属団体の名前が東京の西部の西多摩、旧北多摩、旧南多摩3郡の総称「三多摩」から取ったとおぼしき「さんたまプロレス」ということで、東京の要素は今作でも健在そうです。

東京の西部の西多摩、旧北多摩、旧南多摩3郡から成る「三多摩」(画像:東京都)



 じわじわ尻上がりに面白くなるのもクドカン脚本の常。いずれにしても、“外さない”このコンビならではの楽しめるドラマになることは間違いありません。

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