90年代に大人気 恋愛ゲーム『ときメモ』は令和のいまこそプレイすべき作品だ

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90年代に大人気 恋愛ゲーム『ときメモ』は令和のいまこそプレイすべき作品だ

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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かつて一世を風靡した恋愛ゲーム『ときめきメモリアル』。そんな同作、実はコロナ禍の今こそ注目すべき存在かも知れません。ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

30年以上の歴史があるバーチャル恋愛

 コロナ禍の町で激減したものといえば、休日のカップルです。「寒いね」と体を寄せ合って歩き、心を通わす冬のカップルを見るとほのぼのするのですが、今後いったいどうなってしまうのでしょうか。

 現在はただでさえ恋人がいない男女が増えているにもかかわらず、コロナ禍ではその出会いすら困難になっています。となると、この心のすき間を埋める手段はもはやバーチャルしかないのかもしれません。

 最近ではマンガやアニメのキャラクターだけでなく、バーチャルYouTuberに本気で恋をすることは珍しくありません。とりわけバーチャルYouTuberの世界では、ネタではない「ガチ恋勢」と呼ばれる人たちも少なくありません。この冷笑的な世の中で、そこまで一生懸命になれるのはむしろ尊敬すべきことです。

 バーチャルな存在に対して本気で愛を叫ぶ人たちが称賛されるようになったのは、実は最近の話ではありません。既に30年以上の歴史があるのです。

ゲームマニア以外にもウケた『ときメモ』

 恋愛をテーマにしたゲームの歴史は古く、1980年代には既に存在してました。しかし、パソコンがまだ普及していなかったり、アダルト系の作品が多かったりしたこともあり、知る人ぞ知る存在でした。

 それでも1995(平成7)年には、10万本を越えるヒットとなった『同級生』(エルフ)が一般作品として家庭用ゲーム機・PCエンジンに移植されたこともあり、ユーザー層が増加。趣味雑誌『自由時間』(マガジンハウス)1995年7月6日号が一般誌で始めて、同作を取り上げました。

 編集部はメーカーに取材し、ヒットの要因を「現実の恋愛により近いストーリーが過ぎ去った青春を思い出させるのでは」と解説しています。感度の高い、マガジンハウスの雑誌が取り上げるくらいですから、この頃にはバーチャルな恋愛が新たな趣味として認知されつつあったのだと考えられます。

 そんな流れに火をつけたのが、『ときめきメモリアル(ときメモ)』(コナミ)の登場です。

1994年5月に発売された『ときめきメモリアル』(画像:コナミホールディングス)



 それまでパソコンゲームが主体だった恋愛ゲームですが、この作品は最初からPCエンジン向けに開発されます。1994年5月に発売された『ときメモ』は、爆発的な人気となり翌年以降、プレイステーション版やセガサターン版なども発売され、人気を広げていくことになります。

 プレーヤーは男子高校生となって3年間に部活や勉強、デートに励みながら目当てのヒロインとの恋愛成就を目指します。そんな内容はゲームマニア以外にも感動を与え、あらゆる新聞・雑誌で称賛が相次ぎました。

「『最近ときめいてる?』『うん、昨晩なんか、5時間もときめいちゃった』 なんとも怪しげな会話が、ゲームファン、それも、20代、30代のマニアのあいさつがわりになっている。(中略)美少女が描かれたパッケージをレジに出すのは照れ臭いが、中身は忘れていた古い日記だ。買わずにはいられないのである」(『読売新聞』1995年11月5日付朝刊)。

発売日には秋葉原に行列

 なにより業界が騒然としたのは、その売れ行きです。中古市場では高値が続き、長く遊べるタイトルになっていることが注目されたばかりか、頭打ちだったPCエンジンの販売台数までもが伸びていたのです。既に次世代機が話題となる中で、マイナーかつ旧式なハードになっていたPCエンジンは、ここで最後の花火を打ち上げたといえます。

 さて、プレイステーション版である『ときめきメモリアル~forever with you~』が発売されたのは1995年10月3日のこと。

1995年10月に発売された『ときめきメモリアル~forever with you~』(画像:コナミホールディングス)



 ハードウエア性能に併せてグラフィックがアップし、新要素が追加されるとあって、秋葉原には長蛇の列ができました。地域によっていはファンが列で合唱をしながら待っていたといいます。現在でも人気タイトルの発売日には秋葉原に行列ができますが、そこまで熱いファンというものは、ついぞ見かけません。

 こうして『ときメモ』は声優イベントにもファンが詰めかけ、ついにはメインヒロイン・藤崎詩織のCDも発売されるなど、現代にも引き継がれるムーブメントの基礎をつくったのでした。

 そんな『ときメモ』で繰り広げられる恋愛は20年以上を経た現代から見ると、けっこうなリアリティーに満ちています。なにしろ、お目当てのヒロインに告白されるには恋愛しているだけではダメ。勉強や部活にも精を出して経験値を確保して、人間的な魅力を確保しておかないとならないのです。たとえバーチャルの世界でも、ときめいてもらうには努力が必要だということを『ときメモ』は教えてくれたのです。

 またヒロインたちも、けっこうクセがありました。攻略困難だった藤崎詩織は「ずっと避けていたくせに、見かけや成績が良くなった途端、すり寄ってくるし言葉の端々にトゲがある」と冷徹な分析をされるようなキャラでした(『SPA!』1997年9月10日号)。

 スマホが普及し、SNSが当たり前に使われる現在において、人と人との距離は遠くなりました。コロナ禍で東京の街からカップルが減っていることに危惧する声が聞かれないのは、とても危機的な状況です。

「あくまでもバーチャル」と思われていたかつてのゲームの方がリアリティーがあるなんて、時代はすっかり変わってしまいました。そんなときだからこそ、『ときメモ』から学ぶべきことはあるはずです。

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