一般入試組との学力差は? 「慶応義塾大学」のAO入試合格はどのくらい難しいのか

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一般入試組との学力差は? 「慶応義塾大学」のAO入試合格はどのくらい難しいのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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私立大学難化の流れにあって、一般入試組との学力差の観点から非難の的になりがちなAO入試。しかしAO入試の元祖・慶応義塾大学は少々異なるようです。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

AO入試を生みだした慶応義塾大学

 従来の学力試験を課さず、小論文や面接によって「ふさわしい学生」を選ぶAO(アドミッションズ・オフィス)入試はすっかり定着し、2020年度から総合型入試選抜と名称が変更しています。

 そんなAO入試を初めて導入したのは、慶応義塾大学総合政策学部・環境情報学部(神奈川県藤沢市)。1990(平成2)年のことでした。というわけで、平成の30年間で国公私立問わず広く浸透してきたことになります。

神奈川県藤沢市にある慶応義塾大学・湘南藤沢キャンパス(画像:(C)Google)



 AO入試は筆記試験がないため、一般入試組との学力差を懸念する声はいまだに根強く存在します。しかし、元祖である慶応義塾大学(港区三田)のAO入試は学部によって独自性の高い内容を実施。難易度も高く、合格者数も統一されていないのです。

AO入試激戦のSFC2学部

 慶応義塾大学総合政策学部・環境情報学部の2021年度の募集人員は150人ずつで、2020年度より各50人増員しました(4月入学と9月入学者の合計)。一方、一般入試は275人から225人へと減少しています。

 一般入試での募集が225人ずつであることを踏まえると、AO入試経由の方が容易に入学できるように思われますが、そうとは言い切れません。

 2020年度行われた入試結果を見ても、総合政策学部の志願者は募集人員100人に対し1194人(男子609人、女子585人)、最終合格者は127人(男子51人、女子76人)。合格率は10.6%でした。

 一方、環境情報学部の志願者は100人の募集人員に対して972人(男子507人、女子465人)、最終合格者は152人(男子78人、女子74人)で合格率は15.6%となっています。

2020年度の総合政策学部・環境情報学部のAO入試結果(画像:(C)Google)

 なお総合政策学部は、2013年に出版された「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大に現役合格した話」(坪田信貴著、KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)の主人公の進学先として話題になるほどの人気学部となっています。

学部によって募集人員はかなり異なる

 続いて文学部です。同学部が独自に行っているAO入試「自主応募性による推薦入試」の募集人員は120人。12月14日(月)に発表された2021年度入学者試験の結果を見ると、志願者数は350人(男子83人、女子267人)に対し、最終合格者は125人(男子23人、女子102人)で、合格率は35.7%でした。

 文学部の入学定員は800人で、2020年度の4月入学者数は820人。内部進学生を考慮すると、文学部を第1希望としている学生にとって、一般入試のみで勝負するよりAO入試も利用する方がリスクが低いと言えます。

文学部がある港区三田の三田キャンパス(画像:(C)Google)



 一方、理工学部や看護医療学部のAO入試は募集自体が若干名で志願者数は少なく、2020年度の結果を見ても合格者数も1桁にとどまっています。

「大学のローカル化」是正に寄与する法学部

 法学部は2012年度からAO入試に相当するFIT入試(2006年度より開始)を実施。FIT入試は対象を地方在住の学生に特化しており、関東出身者が学生の大半を占める「大学のローカル化」是正に寄与しています。

慶応義塾大学のウェブサイト(画像:慶応義塾大学)

 法学部(法律学科、政治学科)のFIT入試には、従来のA方式と地域ブロックに分けて行うB方式の2種類があります。B方式は47都道府県を7ブロックに分け、両学科の合格者をそれぞれ各ブロック最大10人ずつとしています(出身高校の所在地による)。 

 一般入試の難易度が年々高まっているなか、A方式とB方式は併用可能なため、法学部で学びたい地方出身の受験生にとってチャンスとも言える入試制度です。

B方式の効果のほどは

 2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大で、地方の受験生が東京を敬遠する動きが加速するなか、法学部のFIT入試B方式に志願者減少の動きは見られたのでしょうか。

 2021年度FIT式B方式の入学者試験の結果を見ると、法律学科の志願者数は184人(男子59人、女子125人)で、最終合格者数は58人(男子8人、女子50人)。合格率は31.5%でした。2020年度と比べると志願者数は16人増加、合格者は7人減少(2020年度は65人合格)しており、大きな変動は見られませんでした。

 もちろん、七つのブロックのうち東京都や神奈川、千葉と埼玉を含む南関東からの志願者は多いと推測されますが、各ブロック最大10人の合格者と定められていることから、少なくとも48人は地方の受験生ということになります(ブロックごとの詳細な志願者数や倍率は非公表)。

 政治学科のB方式の志願者数は2020年度よりも32人少ない183人(男子52人、女子131人)で、最終合格者は56人(男子9人、女子47人)。合格率は30.6%でした。前年の64人(男子17人、女子47人)より8人減っています。

 ということで、以上の結果をふまえると、コロナ禍にも負けない慶応ブランドの強さが浮かび上がってくることがわかります。

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