【NiziU考・前編】主導権はプロデューサーかファンか? NiziU爆発的ヒットに見る「オーディション番組」攻防の50年史

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【NiziU考・前編】主導権はプロデューサーかファンか? NiziU爆発的ヒットに見る「オーディション番組」攻防の50年史

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田島悠来

帝京大学文学部社会学科講師

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2020年に大躍進を遂げたグループといえば、女性9人組の「NiziU」が筆頭でしょう。彼女たちを生み出したのは「オーディション」企画。そこに現れるプロデューサーやファンの役割について、帝京大学講師の田島悠来さんが過去の例を踏まえつつ解説します。

渋谷が“Nizi色”に染まった日

 若者の街・渋谷のランドマークのひとつであるSHIBUYA109(渋谷区道玄坂、以下109)。

 若い女性が担い手となる文化の発信地であり、ファッションの聖地として位置づけられてきたこの場所で、2020年を物語るアイコンとして掲示されているのは、12月2日(水)に日本での本格デビューを果たしたばかりのガールズグループNiziU(ニジュー)の姿。

 12月25日(金)まで期間限定で実施されているキャンペーン「SHIBUYA109 Xmas × NiziU」の一環として、109ビル外壁にはNiziUのメンバー8人(9人グループだが、現在ひとりが休養中)が、クリスマスをイメージしたコスチュームに身を包んで初々しくほほ笑んで登場しています。

 関連グッズを販売する「POPUP STORE“Step and a step”」もオープン。デビューを果たした、彼女たちに会いに、大勢のファンがこの地に足を運んでいます(新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、ストアは事前予約制を取っているので注意が必要!)。

 まさに、渋谷、そして東京が“Nizi色”に染まっているともとれる光景が広がります。

 お茶の間で、SNSで、そして街中でと、多様なメディア空間を駆けめぐり、2020年のアイドル界、ひいては、エンターテインメント界を賑わせたNiziU。

 今回の記事では前編・後編の2回に分けて、NiziUが女性を中心とする若者にとっていかにインパクトを持ち得る存在なのか、またその表象を読み解くことで現代社会のどのような局面が見えてくるのかを、過去のオーディション番組を踏まえた上で(前編)、メンバーと同年代の女性同士の「関係性」をキーワードに(後編)考えてみましょう。

異例・記録ずくめの快進撃

 まずは彼女たちの来歴を振り返っておきたいと思います。

 NiziUは、世界で活躍できる新しいグローバルガールズグループを発掘するという名目で、韓国最大手の芸能事務所のひとつJYP ENTERTAINMENT(以下JYP)と、ソニーミュージックエンターテインメントによる日韓合同のオーディション企画「Nizi Project」から誕生しました。

ロッテのガム「Fit’s」の新CMキャラクターを務め、TikTokでのハッシュタグチャレンジ企画も展開するなど、各メディアに引っ張りだこのNiziU(画像:TikTok For Business)



 2019年7月から日本8都市(東京・大阪・名古屋・札幌・福岡・広島・仙台・沖縄)とアメリカ2都市(ハワイ・ロサンゼルス)での地域予選が行われ、その合格者26人による4泊5日の東京合宿、続いて実施された半年間の韓国合宿(13人参加)を経て、2020年6月26日(金)に最終デビューメンバー9人が決定しました。

 直後の6月30日(火)には、配信限定のデジタルミニアルバム『Make you happy』を日韓同時リリース(翌7月1日には世界配信)。

 表題作は日本国内の各種ストリーミングランキングで1位を獲得、「オリコン週間ストリーミングランキング」では史上最短(登場19週)で累積再生回数1億回、同曲のMV(ミュージックビデオ)のYouTube再生回数も配信から約2か月で1億回を突破しています(12月20日12時現在、1億9259万2703回)。

 パッケージCDデビューを前にして音楽特番『THE MUSIC DAY』(日本テレビ系、2020年9月12日)を皮切りに、各局の主要音楽番組に出演。

 登場(歌唱)シーンでは高視聴率を叩き出し、年末の恒例の『第71回NHK紅白歌合戦』や『第62回輝く!日本レコード大賞』(TBSテレビ系)への出場を決め、グループ名が「2020ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、“異例”“記録”ずくめの活躍を見せ、メディアも頻繁にその快挙を取り上げています。

 さらには、デビュー前からSNSアカウントで多くのフォロワーを獲得し、『Make you happy』のサビ部分の「縄跳びダンス」はTikTokやインスタグラムなどのSNS上で「踊ってみた」ユーザーが有名無名問わず続出しました。

始まりは1971年、「スター誕生!」

「Nizi Project」のオーディションの様子は、動画配信サービスHuluで2020年1月~6月まで(地域予選から東京合宿の模様をPart1の全10回、韓国合宿の模様をPart2の全10回として)配信され、同時に、朝の情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)でも動画の内容の一部が放送、特集が組まれました。

 くしくもコロナ禍のステイホーム期間も重なって、メンバーと同年代で最新の流行やトレンドを生み出す――SNSと親和性の高い若年層ばかりではなく、メンバーの親世代も含めた幅広い層においてその認知度を高めていくことにつながりました。

 以上からNiziUは、マス / ソーシャル双方のメディアで関連コンテンツをバランスよく組み合わせて発信し、広く注目も集めているというイメージを作り出していると言えるでしょう。

12月2日発売のデビューシングル「Step and a step」が各音楽チャートで1位に輝いたNiziU(画像:(C)2020 Sony Music Labels Inc./JYP Entertainment. All rights reserved.)



「Nizi Project」のように、アイドル(グループ)がオーディションをへてデビューするまでの道のりに密着し、その様子をドキュメンタリータッチで描写するコンテンツはこれまでも国内外に多くありました。

 まず、日本においては、アイドル文化黎明(れいめい)期の『スター誕生!』(日本テレビ系、1971年~1983年)が、その嚆矢(こうし。物事の始まり)であると言えます。

 森昌子、桜田淳子、山口百恵、小泉今日子、中森明菜ら、時代を代表するような女性ソロシンガーがここから輩出されています。

 その後、「アイドル冬の時代」と呼ばれる過渡期をへて、90年代終盤には、『ASAYAN』(テレビ東京系、1995年~2002年)から、小室哲哉やつんくといった有名プロデューサーが携わって鈴木あみ(当時)やモーニング娘。らが鳴り物入りでデビューしました。

トップダウン型とボトムアップ型

 これらのコンテンツに共通しているのは、デビューする人(メンバー)の選択に際して大きな決定権を持っていたのが、芸能プロダクションやレコード会社など、メディアコンテンツ制作側であったという点です。

 いわば「トップダウン式」であり、特に『ASAYAN』ではプロデューサーが著名でありより前景化していることから「プロデューサー主導型」であるとも捉えられるでしょう。

 一方、韓国でもオーディションコンテンツは数多く制作されています。過酷なミッションや試練を乗り越えてデビューを勝ち取る(生き残る)メンバーが決められていく様子から、「サバイバルオーディション」と言われます。

 日本でも活躍するK-POPグループもこうしたコンテンツ出身のケースが多く、NiziUと同じくJYPに所属するTWICEも、『SIXTEEN』(Mnet、2015年)というサバイバルオーディションから誕生しました。

 日本と韓国との大きな違いは、参加メンバーが素人であるか否かです。

 韓国では、芸能事務所に所属し歌やダンスなどのトレーニングを積んでいる段階の歌手のことを練習生と呼び(練習生の期間は平均で5年程)、サバイバルオーディションに参加するのも基本的にはこの練習生がメインになっています。

 この点、日本の、デビュー決定後にプロダクションと契約を結び(たとえパフォーマンススキルに未熟さがあったとしても)直後にデビューすることが一般的な状況とは大きく異なっています。

 長年練習生としてトレーニングに懸命に励み、芸能経験を積んできたからこそ、「サバイヴ」するメンバーの必死さがより顕著にあらわれ、見ている側(ファン)のメンバーに対する思い入れも強くなる傾向にあります。

 さらに、2010年代のオーディションコンテンツでは、「ファン参加型」が大きなキーワードになっていきます。

アイドルへの愛着を高めるファン参加型

 情報技術の発展やソーシャルメディアの普及が進んだことは一方で、アイドルのパフォーマンスが行われるリアルな場所(ライブや各種イベントなど、いわゆる「現場」)でのファンとの直接的なコミュニケーションをいっそう価値あるものへと深化させました。

 ファン参加型は、コンテンツのみならず、アイドル文化を語る上でも不可欠な要素となっていきました。

 ファン投票によって楽曲を歌唱する選抜メンバーを決めていくプロセスをイベント化していくAKB48グループ(以下AKB)の総選挙はまさに、ファン参加の典型です。

 そして、韓国の練習生とAKBのメンバーによる合同のオーディション『PRODUCE 48』(韓国発のコンテンツ「PRODUCE 101」シリーズの第3弾、2018年放送)は、視聴者(ファン)を「国民プロデューサー」という呼び、ファンが作っていく「アイドル」であることが強調されました。

 ファンによる投票によって、日韓合同グループのIZ*ONE(うち3人が日本人メンバーで9人が韓国人メンバー)は誕生しました。

 これらファン参加型は、いわば「ボトムアップ式」であり、アイドルをプロデュースする視点をファンサイドに育んでもらいつつその形成プロセスへと誘い、ともに物語を紡いでいってもらうことで、アイドル(グループ)に対する愛着度を高める機能を持っていると言えるでしょう。

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