今年ならではの演出？ ドラマ『恋あた』がクリスマスを最重要テーマとして描くワケ

　TBSテレビ系で火曜21時から放送されている『この恋あたためますか』、通称「恋あた」。この作品でキーワードのひとつになっているのが「クリスマス」です。

　2020年はコロナ禍で「おうちで過ごすクリスマス」が推奨されていますが、実のところ年々その存在感が薄くなっているようにも……？ 都会で過ごす女性たちの中でクリスマスはどのような存在になっているのでしょうか。

　舞台は東京。アイドルをクビになりコンビニチェーン「ココエブリィ」上目黒店でアルバイトをする主人公・井上樹木（森七菜さん）と、同社社長の浅羽拓実（中村倫也さん）が、コンビニのスイーツ開発を通じて少しずつ惹（ひ）かれあうようになるドラマ『この恋あたためますか』。

　浅羽の元カノの里保（石橋静河さん）、樹木と共にスイーツ開発を行う新谷誠（仲野大賀さん）を巻き込んだ恋の四角関係も気になるところ。12月22日（火）の最終回を控え、物語は大詰めを迎えています。

　その中でたびたび出てくるのが「クリスマス」というキーワードです。近年、ここまでクリスマスをフューチャーしている作品は珍しい気がします。

　スイーツ開発ということでクリスマスケーキも登場しますし、登場人物たちにもそれぞれクリスマスには特別の思いが。浅羽は子どもの頃の両親との苦い記憶が原因でクリスマスを敬遠しています。

　一方、新谷は樹木に「一緒に過ごしたい、クリスマスまでに樹木ちゃんにとっての特別な人になりたい」と告白する場面も。

　全体的にクリスマスが特別な日だとして描かれています。ただ、現代の都会の女性たちが同じように「特別」と思っているかというと「……？」というのがなきにしもあらず。

　昔は「クリスマスまでに恋人を作りたい」「ひとりで過ごすクリぼっちは嫌だ」という人は多くいたようですが、現代では少し変容しているようです。

　恋人がいるからと言って、一緒に過ごしたいと思うとは限りません。あるアンケートでは、恋人がいる男女のうち「クリスマスをふたりきりで過ごす」と答えたのは約6割程度（ネクストレベル調べ）。自分ひとりや、家族や仲間と過ごす予定の人も少なからずいるようです。

　2020年のクリスマスも平日なので仕事だという人が多いでしょうし、仕事終わりにデート……と言ってもコロナ禍では夜遅くにどこかへ行く、という気になれない人も多いのではないでしょうか。

　また、「そもそもクリスマスはやはり人出が多いので出掛けるのは億劫（おっくう）になってしまう」という声も。

　以前はドラマや映画、漫画などでも「クリスマスは特別な日だから」という描写が多く見かけられましたが、現在は少し減っている印象です。そういったところでもクリスマスに対する特別感が低下していることが分かります。

　とはいえ、だからと言って全く気にならないというわけでもないのが複雑なところです。

　近年はハロウィーンの盛り上がりが取り上げられることも多くなっています。しかし、経済効果から言うとハロウィーン、バレンタイン、ホワイトデーに比べるとクリスマスが圧倒的。

　日本記念日協会・記念日文化研究所によると、各イベントの経済効果は

・ハロウィーン：約1155億円（2019年）
・バレンタインデー：約1310億円（2020年）
・ホワイトデー：約295億円（同）

　これに対しクリスマスは、毎年約7000億円の経済効果があるのだそう。

　若者同士、カップルや職場、と限定されるほかのイベントに対して、クリスマスは全世代が楽しめるイベントだからということもあるかもしれません。

　ひとりで過ごすという点でもクリスマスはよい機会です。特に都会で働く女性は自分へのごほうびとしてプレゼントを買うことも。年末ということもあり、1年の自分をいたわる意味もあるのかもしれません。

　少し高いスイーツを買ってみたり、気になっていたアクセサリーを購入したり、はたまたエステやマッサージに行ってみたり。日々懸命に働く女性たちが自分を甘やかすという意味で特別な日となっているのではないでしょうか。

　クリスマスにはいつもより自分に優しくしてあげて、新しい年への英気を養っていると言えるのかもしれません。

　2020年は今まで誰も経験したことがないような1年でした。年中多くの人が行きかう渋谷のスクランブル交差点が閑散としている映像を目にした人も多いはず。それもまた、誰も経験したことがない景色のひとつです。

　そして、会いたい人に会えない1年でもありました。もともと特別な関係ならば、気にせず会うことができますが、そうでないなら誘うことさえも憚（はばか）られてしまったのが2020年です。

　ひとりで過ごすクリスマスも、いつもならもっと華やかでしょう。今はどこも自粛傾向にあり、ひとりイルミネーションを見上げる機会も減りました。

「クリスマス」だからというのはひとつの口実です。「クリスマスだから」ということで思い浮かべるのはきっと「今一番会いたい人」。好きな人でも、友人でも家族でも。

　こんなに交通の便もよくて、一緒に楽しめる場所もたくさんある東京なのに、何も自由にできない。そんな不自由さの中で会いたい特別な人。

　こんな時勢だからこそ、会えなかったとしても自分にとって特別な人は誰なのかを見直すことができるクリスマスになるのではないでしょうか。