私立大学難化の陰に「指定校推薦」あり 東京理科大学が挑む学力格差是正の取り組みとは

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私立大学難化の陰に「指定校推薦」あり 東京理科大学が挑む学力格差是正の取り組みとは

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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大学受験でかねてより話題を呼んでいる、一般入試組と推薦組の学力差。そんななか独自の取り組みを行っている東京理科大学について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

難化する私立大学の一般選抜

 大学入学共通テストが2021年1月16日(土)と17日、初めて実施されます。本年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、受験生や保護者、大学側は厳戒態勢で本番を迎えます。

 例年以上に緊張感が高まっている大学入学試験ですが、近年は私立大学の定員厳格化もあり、一般入試(本年度から一般選抜に改称)が難化。受験生の「安全志向」が加速し、上位校や人気大学の志願者は軒並み減少しています。

 代わりに人気を集めているのが、小論文や面接によって学生の合否を決めるAO(アドミッションズ・オフィス)入試と、推薦入試(本年度よりそれぞれ総合型選抜、学校推薦型選抜に改称)です。

新宿区神楽坂にある東京理科大学(画像:(C)Google)



 文部科学省が毎年発表している「国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」によると、2014年度入学者試験の私立大学入学者のうち、AO入試による入学者は10.3%(4万8129人)、推薦入試による入学者は39.7%(18万6329人)でした。

 しかし2019年度入学者試験になると、AO入試による入学者は11.6%(5万6184人)、推薦入試による入学者は42.6%(20万6672人)と割合が高まりました。

 これらのデータを見ると、推薦入試による入学者の増加が目立ちます。推薦入試は公募推薦(自己推薦)、指定校推薦に大まかに分類されますが、入試制度別による入学者の割合は詳しく公表されておらず、特に指定校推薦による入学者の全体像は見えません。

ほぼ全員が合格する指定校推薦枠

「指定校推薦はほぼ合格できる」とよく言われますが、果たして本当なのでしょうか。

 上智大学(千代田区紀尾井町)は指定校推薦の志願者と合格者を公表しており、そのデータを見ると、2016年度入学者試験から2020年度入学者試験までの指定校推薦の志願者は1793人でした。そのうち合格者は1791人と、志願者のほぼ全員が合格しています。

上智大学の指定校推薦合格者(画像:上智大学のデータを基にULM編集部で作成)



 これは上智大学のみのデータですが、大学から指定校推薦が割り当てられている学校の場合、よほどのことがない限り落とされません。一般入試による入学が難化している昨今、指定校推薦は志望大学へ確実に入学できるルートとして受験生からのニーズが高まっているのです。

 その一方、指定校推薦は年内に合格が決まるため、受験終盤まで勉強に励む学生との学力差を危惧する声が上がっています。もちろん、指定校推薦による入学者の全てが学力不足ということはありません。一般入試による合格者より優秀な学生も少なくありません。

 このように両者の学力差が問題視されるなか、独自の取り組みを行っている大学もあります。

学力是正に取り組む東京理科大

 大学入学後の専門的な授業についていくためには、基礎学力が不可欠です。特に理系学部は授業内容を理解できない場合、留年に直結します。

 こうした問題を解決すべく、東京理科大学(新宿区神楽坂)は早い段階で入学が決まった学生に対して「入学前学習支援講座」を実施しています。

「入学前学習支援講座」について記載された東京理科大学のウェブサイト(画像:東京理科大学)



 同講座は帰国子女選抜や社会人特別選抜試験での入学者に対しても、通信制や通学制の講座を行い、基礎学力を鍛えて入学後の勉強に対応できるようサポートしています。

 しかし推薦入学者に関してはさらに突っ込んだ学習支援を行っており、講座に先行する形で課題が出されます。具体的には、進学後に重要となる教科(数学)の問題集や新書を与え、自分の考えをまとめた文を提出させるといったことなどです。

 また、2009(平成21)年度より新入学生を対象としたアセスメントテスト(学修到達度調査)を行い、学生の学力を測っています。テストの教科は数学、物理、化学、生物、英語と、東京理科大で学ぶ上で欠かせないものばかりです。これには入学したばかりの学生のレベルを調べることで、授業の進め方に反映する狙いがあります。

 また基礎学力に不安を感じる新入生に向けて、先輩学生が基礎科目の学習をサポートする学習相談室(2年次以上も利用可能)を各キャンパスに設置しています(2009年度運用開始)。

 最難関私立大学群「早慶上理ICU」に属する東京理科大学ですが、そのような大学でも一般入試による合格者以外に対して基礎学力を定着する取り組みを10年以上前から行っているのです。

学力差を抱えた大学生活の辛さ

 一般入試による入学が年々難化している昨今、指定校推薦を選ぶ受験生が増えることは自然な流れと言えるでしょう。しかし、入学後に授業内容を理解できないと充実したキャンパスライフを送ることはできません。

大学受験を控えた高校生のイメージ(画像:写真AC)



 東京理科大学のように大学独自の取り組みを行い、指定校推薦による入学者をサポートすることは簡単ではありませんが、長い目で見ると大学のブランド力を維持向上することにつながります。

 今後、こうした取り組みを行う大学が次々と現れるのであれば、大学内で学力層が二分されるという事態を回避できるはずです。

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