他人の痛みがわかってこそ一人前になれる――下町人情と江戸っ子の心意気に涙する『唐茄子屋政談』とは【連載】東京すたこら落語マップ(12)

落語と聞くと、なんとなく敷居が高いイメージがありませんか? いやいや、そんなことないんです。落語は笑えて、泣けて、感動できる庶民の文化。落語・伝統話芸ライターの櫻庭由紀子さんが江戸にまつわる話を毎回やさしく解説します。


貧乏長屋の親子を救った若旦那

 カボチャは残りふたつ。少し軽くなったてんびんをありがたいと担ぎ、売り声を練習しようと人気のない田んぼの脇に来た。向こうに見えるは通いなれた吉原遊郭。

「あの頃は、今思えば夢のようだ。花魁(おいらん)と一緒に飲んで歌って……」と昔を思い出しているうちに、唐茄子屋の売り声がいつしか座敷で歌った端唄になってしまう。

 そうこうしているうちに声が出るようになってきた。「とーうなすやーでござい」と誓願寺店(せいがんじだな)に入った。裏さびれた長屋のひとつから、どこか品の良い奥さんが「カボチャをひとつ」と若旦那に声をかけた。

 カボチャを売ったついでに、弁当を使わせてもらおうと玄関に腰掛けると、その家の小さな子どもが若旦那の弁当をねだる。事情を聞いてみると、浪人の旦那が江戸を出て働いているが、送金が滞って店賃(たなちん。家賃)はおろか食べるものも買うことができないと言う。「この子も、もう2日も何も食べていません。ようやくこうしてカボチャを買ったのです」

 ひもじい辛さは身に染みている。若旦那は子どもに弁当をやり、残ったカボチャと売り上げを奥さんに押し付けた。「いただけません。せめてお名前を」という声を背中に聞きながら、若旦那は逃げるように達磨横丁の叔父の家に帰ってきた。

「ああ、徳! よくやったぞ、全部売ってきたのか」と、空になったてんびんを見て叔父は喜び、食事を用意する叔母に「鯵(あじ)も付けてやれ」と労をねぎらう。しかし、長屋の奥さんにお金をやってきてしまったので売り上げはない。これを聞いた叔父は「鯵はなしだ」とおかず付きを撤回。「どうせ遊びに使っちまったんだろう」という叔父に、若旦那は、てんびんを担いで転んでしまったところをたくさんの人に助けられたこと、売り声を稽古して行った先でカボチャがひとつ売れたこと、その家で子どもがひもじい思いをしていたこと、気の毒になって売上金を奥さんに渡してきたことを説明した。

 苦労人の叔父、人の苦労や情を理解できたと踏んだのか「そうか。豪気と威勢がいいな。やったらやった、それで良いんだ」と若旦那に飯を食わせた。見届けようと若旦那と叔父がさっきの誓願寺店までやってくると、何やら長屋が騒がしい。行って聞いてみると、この家の奥さんが弁当とお金をくれた唐茄子屋を追って外に出てみたら大家に会い、大家に店賃としてお金を全てまきあげられてしまった。世をはかなんだ奥さんは子どもと心中をはかったと言う。

 怒り心頭の若旦那、大家の家に飛び込み大家を殴りつけた。そこに長屋の住民も加勢し大乱闘。後日、大家は奉行所で厳しいとがめを言い渡された。親子はご近所の介抱で命を取り留めた。

 親子は叔父が大家をしている達磨横丁に移り住むことになり、若旦那は親子の命を助けたとしてお上から青差し十貫文の褒美をいただいた。人の恩を知った若旦那は性根を入れ替え、勘当も解かれて立派な商人となったという、おめでたいお話。

吾妻橋1丁目付近にあった達磨横丁


【地図】作中に出てくる「達磨横丁」の位置を見る

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