チャームポイントは「崖と急坂」 セレブと庶民派のごった煮が生み出す唯一無二の磁場 豊島区・駒込駅周辺【連載】東京商店街リサーチ(6)

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チャームポイントは「崖と急坂」 セレブと庶民派のごった煮が生み出す唯一無二の磁場 豊島区・駒込駅周辺【連載】東京商店街リサーチ(6)

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荒井禎雄

フリーライター、放送ディレクター

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高級住宅街と庶民的な街並みのコントラストが印象的な駒込駅周辺。その魅力について、フリーライターの荒井禎雄さんが案内します。

一口では言い表せない奥深すぎる町

 駒込は歴史ある古い土地であるにもかかわらず、都民であってもパっとイメージが浮かばない「影の薄い山手線駅ランキング上位」です。

 ところが駒込はソメイヨシノ誕生の地であり、知る人ぞ知る高級住宅地があり、そうかと思うと庶民的かつ長大な商店街が延びていたり、さらには結界のように大きな庭園や公園が取り囲んでいたりするなど、オンリーワンな魅力にあふれた町なのです。

 その反面、バリアフリー対策のしようがない断崖絶壁といった「チャームポイント」もあり、何とも一口では言い表せない奥深すぎる町です。今回はそんな駒込を掘り下げてみたいと思います。

●立地と歴史

「駒込」は豊島区の地名で、JR駒込駅の所在地も豊島区のため、何となく巣鴨とワンセットの豊島区の町という印象がありますが、実際には豊島・北・文京の3区が入り乱れ、エリアによって色合いがガラっと変わる複雑な土地です。

 例えば、駅前のさつき通り商店街は1本道に向かい合ってお店が並ぶオーソドックスな商店街ですが、実は通りそのものが区境になっており、西側が豊島区、東側が北区となっています。

 駅の南側にある六義園(りくぎえん、文京区本駒込)から南北線の本駒込駅方面にかけては「文京区本駒込」という地名で、このエリアの一部は高級住宅地として知られています。また、駒込駅東口のアザレア通りや谷田川通り、地域を代表する商店街の霜降銀座などは北区であり、町名は中里、田端、西ヶ原となります。

駒込を代表する名商店街がこの霜降銀座(画像:荒井禎雄)



 この中で豊島区や文京区に属するエリアには共通の空気があり、多くが武蔵野台地の高台に位置していることと、広い邸宅や名所旧跡の多さから「正真正銘の山の手感」が漂っています。

 それと比較すると、旧谷田川に沿った低地に位置する北区内のエリアには、霜降銀座や田端銀座といった商店街が集まっており、打って変わって庶民的な雰囲気となっています。この両極端さが駒込の独自性を生み出していると言えるでしょう。

難儀な地形に悩まされる駒込駅

 駒込一帯は豊島・本郷・白山といった台地と、川や谷の低地とが入り組んだ複雑な地形をしており、中には崖と表現するよりない急勾配の坂も。このため台地側と低地側とで文化圏や生活圏がハッキリ分かれているような印象を受けます。

 駒込は歴史的に武家屋敷や寺院が多く、その多くが今も庭園・公園・霊園として残されているため、23区内でも特に緑の密度が高く、健康的な生活ができそうな地域だと言えますが、そもそも駒込駅一帯から王子・飛鳥山にかけて縄文~古墳時代の遺跡があちこちで発見されていることから、気が遠くなるような大昔から「人たちが住むに適した土地だった」とも言えるでしょう。

 駒込駅は山手線の駅としては比較的新しく、1910(明治43)年に日本鉄道が国有化された後に開業しました。その後、山手線の車両が1両から2両に、2両から6両にと増える度にホームの延伸工事を繰り返し、平成の時代に入ってからは11両編成に対応できるようになっています。

 ところが、駒込駅は前述した台地とその東側を流れる谷田川の谷との間に作られた駅なので地形的な制約が大きく、ホームを延ばすといっても簡単ではありません。比較的工事が容易だった田端駅方面へ少しずつ延ばして行った結果、東側の谷底にも出口が作られ、ホームの東端は大人がふたり並んだらソーシャルディスタンスもへったくれもないような狭小さになってしまったのです。

駒込駅の北区側の出口と南北を繋ぐトンネル(画像:荒井禎雄)



 ホームには延伸工事の度にツギハギした形跡が残っているので、よく観察してみると猛烈な違和感として当時の人たちの苦心のほどを察する事ができます。
筆者は “難儀な地形” という点で考えた場合に、山手線駅の中でも鶯谷・田端・駒込の3駅は他の追随を許さない孤高の存在ではないかと考えています。

駅周辺にひしめく商店街

 ただ、交通の便という面では山手線と南北線の乗り換えが可能で非常に便利。環状線の山手線と、その名の通り23区を南北に突っ切る南北線との組み合わせは、かゆいところに手が届く絶妙さです。主要駅への所要時間は、次のとおりです。

・池袋:7分
・上野:10分
・秋葉原:14分
・新宿:16分
・東京:18分
・大手町:20分
・渋谷:23分

●主な商店街と特徴

 駒込一帯は、駅周辺以外にも多くの商店街がひしめき合っています。ここではその中でも特に大きな商店街を紹介しましょう。

1.霜降銀座、そめい銀座
 駒込駅周辺は山の手のイメージが強い土地ですが、実は下町情緒あふれる昭和の商店街が生き残る庶民的な町でもあります。その代表的な存在が霜降橋交差点辺りから始まる霜降銀座とそめい銀座です。

そめい銀座も西側になると閑散としてくるが、それでも製麺店などが点在していて商店街が途切れない(画像:荒井禎雄)



 この商店街は生鮮三品(八百屋、肉屋、魚屋)の他に、エリアごとにスーパーマーケットもあり、それ以外にお茶屋、豆腐屋、瀬戸物屋、呉服屋といった昔ながらの専門店がそろっています。駅から西ヶ原の住宅地へ向かう通り道だからか常に人通りもあり、活気が維持できているという点も高く評価したいポイントです。

 ただ、前述したさつき通りと同様に、この商店街も北区と豊島区の区境にあり、北区側が霜降銀座、豊島区側はそめい銀座と商店会が分かれています。普通は区をまたぐ場合には、境界線になる通りが横切ったり、アーケードが途切れたりするといった目印があるものですが、なぜか駒込の商店街に場合はそういうものがなく、昔ながらのお豆腐屋さんを過ぎたらいきなり商店街名も行政区分も変わるという不思議さ。

 さらに付け加えると、そめい銀座を抜けるとまた北区に入り、そこからは西ヶ原銀座通りという名称になります。さすがにJR駅から遠く離れた西ヶ原銀座になると人通りもまばらになり閑散としますが、商店や飲食店は点在しており、単純に全長だけで言うと23区でも有数の存在だと言えます。

田端銀座にある謎な造りの建物

 余談ですが、西ヶ原銀座通りから南に進むと西ヶ原公園(北区西ケ原)や染井霊園(豊島区駒込)などがあり、染井霊園の隣には水泳の金メダリスト・北島康介氏が通っていた事で有名になった東京スイミングセンター(同)や、天然温泉の「東京染井温泉 SAKURA」(同)があります。

 北島氏が金メダルを取った際に、わが子を北島選手のように育成すべく遠方からでも無理をして東京スイミングセンターに通わせる親御さんが増えたという話を聞いたことがあります。

 ところが、北島選手が幼稚園にも上がっていない頃にこのスイミングセンターに3年間通っていた筆者は、いまだに立派なカナヅチだという悲しい事実をお伝えしておきます。つい先日も水泳が得意な息子(5歳)に「なんでお父さんは水に沈むの?」と笑われたばかり。

2.田端銀座
 駒込駅東口を出てすぐにアザレア通りという飲食店街があります。それを過ぎて適当なところで北に曲がると谷田川通りと交差します。渡って少し歩くと、田端銀座という昭和で時間が止まったような1本道商店街に行き当たります。ここは最寄り駅から遠く、周辺にバス停もロクにないエリアなのですが、住宅街の真ん中に砂漠のオアシスかのようにこつぜんと現れるのです。

 この田端銀座も霜降銀座と同様に、生鮮品のお店だけではなく呉服屋、お茶屋、豆腐屋、おでん種屋、漬物屋と昔懐かしい業種がちゃんと生き残っており、規模も活気もなかなか。一部で北区田端と文京区本駒込が入り乱れるという「THE駒込」な要素もあり、非常に面白い商店街になっています。

一階が洋品店で二階が銭湯という思い切った造りに驚かされた(画像:荒井禎雄)



 筆者が特にシビれたのは、1Fがブティックで2Fが銭湯という他で聞いた事のない取り合わせ。相当年季の入った建物で、上の銭湯から水でも漏れたら下のブティックは大損害だと思うのですが、どちらも長く営業されているようで、特に問題は起きなかったのでしょう。

3.駒込の商店街を生み出した母なる谷田川
 その昔、上野台地と本郷台地の間の谷を川が流れていました。染井霊園内の池を水源とするこの川は、千駄木や谷中を経て不忍池に流れ込んでおり、上流では谷田川、下流では藍染川と呼ばれていました。

 ところが、次第に上流の谷田川に沿って民家や商店が立ち並ぶようになり、生活排水による汚染と悪臭が問題となります。さらに建物が増えた分、雨水の流入を緩和していた自然環境が破壊され、氾濫や浸水といった水害が続発するようになり、対策を迫られるようになりました。こうして大正後期から昭和初期にかけて大工事が行われ、谷田川はほとんどが暗渠(あんきょ。地下水路)化されたのです。

やっぱり高い家賃相場

 谷田川が暗渠化されると、その上に数多くの個人商店が立てられ、霜降銀座やそめい銀座といった駒込地区を代表する商店街として発展して行きました。駒込地区の商店街は、その全ての成り立ちに旧谷田川(現谷田川通り)が密接に関係しており、まさに「いくつもの商店街を産んだ母なる川」であると言えるのです。

●家賃相場

 駒込周辺は家賃の幅が大きく、また最寄り駅がない住宅地も多いため、ここでは主な鉄道駅を例に挙げて、ざっくりとした家賃相場を見てみます(住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」参照)。

・ワンルーム/1K/1DK
駒込:9.15万円
本駒込:8.56万円
西ヶ原:7.53万円

・1LDK/2K/2DK
駒込:13.95万円
本駒込:13.67万円
西ヶ原:12.23万円

・2LDK/3K/3LDK
駒込:23.49万円
本駒込:19.79万円
西ヶ原:15.82万円

 過去に紹介した新小岩や砂町銀座周辺などと比較すると驚くほど高額ですが、南北線の西ヶ原エリアは比較的常識の範囲内に収まっている印象を受けます。ただ、この駅は駒込というより王子エリアだと思われるため、純然たる駒込駅周辺の家賃相場を考えると「お高めで住める人間が限られる」と結論付けざるを得ません。

 しかし、この数字はあくまでそのエリア全ての平均値ですから、場所によって地価に大きな差がある駒込のような土地には不向きな調べ方です。そこで、もっとピンポイントに土地価格を調べてみましょう。

●公示地価

 家賃相場を見るだけではいまいちピンと来ないので、次に国土交通省が公開してくれている「標準値・基準値検索システム」を使い、主だった場所の公示地価(円/平方メートル)を調べてみましょう。

・豊島区駒込1丁目:89万9000円
・豊島区駒込4丁目:80万0000円
・豊島区駒込7丁目:51万8000円
・文京区本駒込6丁目:121万0000円
・北区田端4丁目:70万4000円
・北区西ヶ原1丁目:76万5000円
※用途区分は住宅地のみ

 こうして見てみると、やはり際立って地価の高いエリアがあることが分かります。中でも本駒込6丁目は六義園のすぐ近くの高級住宅地で、ズバ抜けてお高い事が分かります。
駒込1丁目は駅のすぐ東側の高台にある住宅地で、ここも駅近物件だからかそれなりの高値になっています。駒込4丁目は駒込駅西側の染井霊園にほど近い静かな住宅地エリアで、駅から離れる分地価も落ち着いています。

西ヶ原公園の周辺は宅地開発されたばかりのようで、一戸建ても道路も真新しく綺麗だった(画像:荒井禎雄)



 際立って地価の低い駒込7丁目は、そめい銀座や西ヶ原銀座の南に位置する地域で、西ヶ原公園や染井霊園に近い住宅地です。4丁目よりもさらに駅から離れるため、地価もそれに準じて安くなっていると思われます。なお田端4丁目は田端銀座がある辺りで、商店街の周辺は非常に静かな住環境になっています。

対象エリアすべての犯罪発生率が低い

 最後に、西ヶ原1丁目はエリアが非常に広く、霜降銀座商店街から旧古河庭園まで含まれます。南北線の西ヶ原駅や滝野川公園にも隣接しており、駒込エリアと王子エリアの中間地点に位置していると言えるでしょう。そうした立地からか、地価はそれなりに高めになっています。

 以上の数値から、今も山の手の高台部分はどこもそれなりに地価が高く、旧谷田川の谷にあたる低地エリアは比較的お値打ちである事が分かります。

●犯罪発生率

 次に、警視庁の「犯罪情報マップ」を使って、駒込エリアの犯罪発生状況(2019年度)を調べてみます。

 すると、驚くべき事に駒込・本駒込・田端・西ヶ原と、どこも犯罪発生率が低く、特筆すべき点が何もありません。具体的な数字を挙げると、今回取り上げた地域の全てが2019年の犯罪発生件数(全刑法犯)が1~25件と、最も少ないゾーンにあるのです。

 JR巣鴨駅やJR田端駅の周辺はそれ相応に粗暴犯や自転車盗難などが目立つのですが、間に挟まれた駒込エリアは繁華街らしい場所が少ないからか、そうした犯罪も起こりにくいのかもしれません。

 強いて言うならば、駒込1丁目、駒込3丁目、西ヶ原1丁目、本駒込6丁目はそれぞれ侵入窃盗が年に3~5件ほどあり、ここだけが少々引っかかるところです。ただ、これも他の土地の発生件数と比較するとかなり少ない方で、常識的な防犯対策を施しておくだけで、かなり快適に過ごせる土地だと言えそうです。

●メリット・デメリット

 駒込駅周辺は、エリアごとに地価や標高に大きな差がありますが、おおむね安全で快適で緑の多い優れた住環境であると評価できます。

 ただ問題なのは台地と旧谷田川沿いの低地との標高差で、土地勘のない人間がうかつに自転車で乗り入れたりすると泣きを見る可能性が非常に高くなっています。もしもこのエリアに住む場合は、普段の足としてアシスト機能付きの自転車を人数分用意しておく事をオススメします。

山手線の線路脇の急坂を見れば、このエリアの特色が嫌でも分かるはず(画像:荒井禎雄)



 買い物環境に優れているのは圧倒的に谷田川通り周辺の低地部で、商店街の個人店からスーパーまでほとんどがこの辺りに固まっています。そうした点で、いかに崖を避けるかといった日常の生活動線にさえ気を配れば、北区の西ヶ原・田端・中里といったエリアは地価も落ち着いていて庶民的な暮らしに向いていると言えるでしょう。

 子を持つ親として注目したいのは、何と言っても緑の多さです。六義園や旧古河庭園といった有料の庭園以外にも、徒歩圏内にいくつも公園があり、西ヶ原駅寄りに住むならば滝野川公園(北区西ケ原)や飛鳥山公園(同区王子)といった特に優れた公園が徒歩圏内になります。

 また神社仏閣が多くとても静かであるという点と、道の細かい住宅地が多くスピードを出す自動車が少ない点なども、子育て世帯にとっては高く評価できるポイントでしょう。こうしたうらやましくなるような子育て環境は、ソメイヨシノやツツジで有名な『花の街 駒込』 の面目躍如といったところです。

 難点を挙げるならば、若者が住むには全く面白くないという点に尽きます。夜遅くまでやっている店は巣鴨か王子まで行かないとありませんし、そのふたつの街にしても他の繁華街と比べたら静かなもの。そうした事情から、このエリアに住むと自然と早寝早起きの健康的な生活サイクルになるのではないかと思われます。

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