都心と郊外のいいとこどり? 東京転勤者にぴったりの江戸川区「瑞江」とは【連載】東京下町ベースキャンプ(4)

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都心と郊外のいいとこどり? 東京転勤者にぴったりの江戸川区「瑞江」とは【連載】東京下町ベースキャンプ(4)

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吉川祐介

ブログ「限界ニュータウン探訪記」管理人

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かつて江戸近郊の農村部だった東京東部の「下町」。そんな同エリアを、ブログ「限界ニュータウン探訪記」管理人の吉川祐介さんは新たな「拠点」と位置付け、再解釈を試みています。

転勤者からの指定が多かった駅

 筆者は以前、江東区のタクシー会社で乗務員として勤務していた時期があり、主要な営業エリアとして主に隅田川以東の下町を乗務していました。

 夜間は、繁華街である錦糸町周辺から酔客を自宅まで送るのですが、目的地を聞いた際、

「まだ東京に転勤してきたばかりで、道に詳しくないので……」

と前置きして、自宅の最寄り駅を指定されることが時折ありました。そうしたお客さんの多くは江戸川区の在住で、特に多かったのが都営地下鉄新宿線の瑞江駅でした。

かつては江戸川区で最も交通の便が悪かった

 江戸川区の瑞江は、都営新宿線の終点である千葉県の本八幡駅より二駅手前、新中川と旧江戸川に囲まれた千葉県寄りに位置しています。旧江戸川の対岸は地下鉄東西線の駅もある南行徳で、23区ながら街並みは郊外的な雰囲気が色濃くなっています。

 しかし瑞江は、今でこそ都営新宿線が開通し都心近郊の住宅地として発展していますが、かつては江戸川区でも最も交通の便が悪く、また最も開発が遅れた地域のひとつでした。

 都営新宿線の船堀~篠崎間が開通したのは1986(昭和61)年。それまで瑞江の人たちは、バスで総武線の小岩駅へ向かうか、あるいは新中川と旧江戸川の合流地点に位置する「今井橋」のたもとに存在する都営バスの始発地を、地域の玄関口として利用していました。

 この今井橋は、大正時代に「城東電気軌道」の終着駅が設けられたのを皮切りに、1952(昭和27)年にトロリーバスの発着場に切り替えられ、トロリーバスの廃止後は、都営バスの今井支所が置かれていました。

江戸川区西瑞江にある「今井」停留所。現在この支所跡の停留所からは亀戸駅行きの系統が残るのみであるが、かつてはここがトロリーバスの車庫だった(画像:吉川祐介)



 瑞江に住む人たちは、この駅からも遠い今井橋から、亀戸、錦糸町、上野方面へと向かっていたのです。今はその支所も廃止され、現在は都営バスの「今井」停留所を残すのみ。今井停留所の付近には商店や食堂などの店舗が今でも営業を続けており、かつてここが町の玄関口であった名残をとどめています。

都市生活と郊外生活が両立できる街

 この今井橋が玄関口として機能していたのは、現在の瑞江駅周辺がまだハス畑も多く残る農村時代でした。

 筆者の知人の祖父は1960年代半ば頃、現在の瑞江駅近くに位置した池を含む湿地1000坪を、当時の「日産ブルーバード」の新車価格(約67万円)と同程度の価格で購入しないか、と持ち掛けられた経験があるそうです。

 これは現在の物価水準に照らし合わせても破格値であり、高度成長期の1960年代でも、交通不便な瑞江には、発展の期待も寄せられていなかったことが伺えます。

 このように江戸川区内の都営新宿線の沿線は、地下鉄の新規開通という交通網の大幅な改革を経ながら、同時進行的に都市開発が進められてきたため、現代的な街並みが広がる一帯です。

 そして瑞江の場合は、駅周辺が新しい街並みを形成しているのに対し、先に述べた今井橋周辺など、駅から離れた地域が、古くからの街並みを残しているという逆転現象が見られます。

 では、この瑞江の町を拠点とした生活はどのようなものが想定できるか――それは一言で言えば、

「都市生活と郊外生活の両立」

です。

 既に自家用車が広く普及した時代に、新たに地下鉄が延伸された瑞江は区画整理が進んでおり、駅周辺も含めて、バス通り、裏通りともに車両の通行に支障のない幅員が確保されています。コンビニエンスストアや量販店も、江戸川区の郊外では来客用の駐車場を確保している所も多く、自動車利用を想定した街並みになっています。

 自家用車を想定しているとは言っても、瑞江は東京の町ですから、現代の郊外都市に見られるような、公共交通を利用した生活に著しい不便を感じる町ではありません。

 都営新宿線はやや都心部をそれたルートとは言え新宿駅まで40分未満で到着しますし、路線バス網も豊富です。また、都営新宿線の駅の中でも瑞江駅周辺は商業施設が集約しており、筆者も江東区在住時代、新宿線に乗って瑞江まで買い物に来ることがしばしばありました。

瑞江駅周辺の商業地域(画像:吉川祐介)



 駅前に大手量販店やスーパー、古書店などの多様な商業施設がそろっているので、瑞江だけで複数の用事を済ませられるのが理由でした。筆者の自宅の近くには有名な商店街がありましたが、その業種は飲食店や総菜店に特化していて、その他の日用品がそろえにくい欠点があったのです。

転勤者にとって「堅実な選択肢」

 東京23区では自動車を使わない生活を送る人も多いと聞きます。筆者も江東区在住時は自家用車を保有していませんでした。

 カーシェアリングやレンタカーの普及に伴い、都市部における自家用車の保有率の減少は時代の流れですが、それでもどうしても好きな自家用車を保有したい、一般のカーシェアリングで採用される車両では役不足という人も一定数はいるはずです。

どの道を見ても、自動車利用を想定した街並みが広がる瑞江の住宅地(画像:吉川祐介)



 確かに瑞江の町は、居並ぶ商業施設を見ても、東京ならではの生活感を感じ取れる街並みとは言えないかもしれませんが、転勤者の多くは転入時に自家用車を保有しており、そうなるとおのずと地価の手頃さと交通利便性が両立する瑞江は「堅実な選択肢」とも言えるのです。

 瑞江は千葉県との境付近のため、房総半島や鹿島灘方面へのアクセスは東京の他地域よりも良いですし、東京港臨海道路を利用すれば神奈川方面へのアクセスも悪くない地域です。

 一例を挙げれば、

・休日はマリンレジャーに親しみつつも、都心へのアクセスも重視したい
・公共交通も利用するが自動車を利用する機会も多いので、自動車の移動にあまり苦労するような町は選べない

などがあり、そんな都市と郊外の両方のメリットを享受したい人には「転勤者の選択肢」としても機能し、なおかつ賃料相場も手頃な瑞江はぴったりかもしれません。

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