東京生活で大切なことはすべて浅草橋の「異端ラーメン」が教えてくれた

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東京生活で大切なことはすべて浅草橋の「異端ラーメン」が教えてくれた

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倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

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「Go To トラベルキャンペーン」の発着追加で盛り上がる東京ですが、そんなときこそ、東京の持つ多様性に注目する絶好のチャンスかもしれません。経営コンサルタントで経済思想家の倉本圭造さんが解説します。

「逆側の東京」を体験しよう

 10月から「Go To トラベルキャンペーン」に東京発着が追加され、SNSでは同キャンペーンを利用してこんな体験をした、というような体験が流れるようになりました。

 結構良いホテルにありえないような値段で泊まれて、さらには地域共通クーポンまでついてくる……というわけで、私(倉本圭造。経営コンサルタント、経済思想家)も10月に入ってから「東京旅」をものすごくおトクな値段で楽しみました。

 ただ、そういう話を聞いて一瞬は心が動くものの、「でも東京なんて普段から住み慣れている街、わざわざ行くようなところなんて……」と思っている人も多いかも知れません。

 私はそんなあなたに、あなたの知らない「逆側の東京」を体験してみる旅を提案してみたいと思います。

「逆側」に住んでいる人たちに出会う

 逆側の東京というのは、例えば地理的なことです。

 東京周辺の隣県まで含めて考えると、世界最大の人口と国内総生産(GDP)になる首都圏で、自分と近い側の隣県に移動しようとすると、20~30分しかかからないことも多いです。

 例えば、新宿から大宮あたりまで30分、品川から横浜まで20分、上野から松戸まで20分――というように、「東京の入り口」との距離は案外近いことが多く、通勤通学で毎日多くの人が行き来しています。

 しかし自分が住むエリアの逆側となると、途端に移動時間が増え、普段接することがない人も多いでしょう。

 このことからも、人口とGDPが世界最大の都市「東京」は、それだけ「近くて遠い人たち」がたくさんいる街……と言えます。

浅草橋の昆虫食店「ANTCICADA」のコオロギラーメン(画像:倉本圭造)



 コロナ禍で海外旅行に行きづらいこの時代なら、近くにいるけど普段全然触れ合わない異質な隣人と出会える旅が東京なら実現できます。

 例えば東京の西側に住んでいる人は、普段行かない東京の東側の世界へ行ってみる。東京の南側に住んでいる人は、普段行かない東京の北側の世界を体験してみる――。

 それは単に地理的に逆だけでなく、文化的にも随分違っていたりすることもあるでしょう。普段から「同じ街に住んでいるつもり」だからこそ、その違いに驚き、発見することも多い旅になるはずです。

浅草橋でコオロギラーメンを食べた

 そんなわけで私は普段接することのない東京の東側の世界へ、「コオロギラーメン」を食べに行きました。テレビで紹介されていたのを見てツイッター上で感想をつぶやいたら、若い店主とやりとりをすることになったのです。

 地球温暖化の観点から、昨今注目されている「昆虫食」。浅草橋駅が最寄りの「ANTCICADA」(中央区日本橋馬喰町)では、食用に養殖された2種類のコオロギで出汁を取ったスープ、コオロギを練り込んだ麺、コオロギから造ったしょうゆ、付け合わせにコオロギの揚げたものが入ったラーメンを食べられます。

 知らない街に降り立ち、スマートフォンの地図を頼りに向かうと、そこにはマンションがあり、「これは開けて入っていいの?」という謎の一室的なドアが……。

ANTCICADAの入り口(画像:倉本圭造)



 しかし外見とは違って中に入ると店の作りは非常におしゃれで、夕飯時には結構早い時間でしたが既に満席でした。

 おしゃれなカフェ風なのに、カウンター上のディスプレーに生きているカイコがウネウネと桑の葉の上をうごめいています。カイコのふんを使ったアイスも食べましたが、すごくおいしかったです。ふんと聞くとギョッとするかも知れませんが、味は「ほうじ茶アイス」に近いものでした。

 店主と少々話したのですが、なんと1日ぶんの出汁を取るために、ボウルいっぱいのコオロギが使われているそうで、店中にすごくいい香りが漂っていました。

1日の疲れが吹き飛ぶおいしさ

 肝心の味ですがめちゃくちゃおいしかったです。その日は一日中歩きまわって疲れていたのですが、その疲れが吹き飛んでしまうぐらいでした。

世界最大の都市・東京(画像:写真AC)



 ANTCICADAのコンセプトは「地球を愛し、探求するレストラン」なのですが、地球本来が持っている生命力のようなものを吹き込まれた、目が覚めるような「食の体験」でした。

 普段の生活圏とは違うところまで足を伸ばせば、東京にはまだまだ「自分とは異質なもの」に命をかけて生きている人がいるのです。

 外国に行くと、案外「自分と近い国の人」と接することが多い……というのはよく言われます。見た目は多様でも、「同種の人間」と話していることは結構多いのです。

 逆に東京の逆側に行けば(地理的な意味だけでなく)、同じ言葉を話し細かいニュアンスまで相互理解可能だからこそ、「本当の異質」と出会える可能性もあるのではないか、と私は考えています。

異質が「なんとなく同居している」東京

 異質なもの同士がお互いに排除せず、「なんとなく同居している」のが東京の魅力だと私は考えています。

 日本以外で昆虫食のような分野は、伝統的な畜産などに対する政治的敵意に発展することも多いです。しかしANTCICADAの篠原祐太さんは、そういった大きな話にはせず、「純粋に食材としておいしい、可能性があるということをまず体験してもらって広めていきたい」とおっしゃっていました。

ANTCICADAにいたカイコ(画像:倉本圭造)



 日本で、強制力を使って自分の意見を聞かせようとする運動は徹底的に嫌われますし、そのこと自体の息苦しさを感じる人もいるでしょう。

 しかしそういった、自分の逆側にいる存在を断罪する運動が満ちあふれた結果、現代社会は果てしなく分断されどこにも進めなくなっているのです。取りあえず対立は横において、「単純においしいということを広めたい」という形に昇華する、東京の「マナー」が生み出す可能性も大きいと私は考えています。

あなたの「逆側」とは?

 オタク文化にあまり触れたことがない人があえて秋葉原のメイドカフェに行ってみたり、日本の右傾化を憂う人があえて靖国(やすくに)神社に行って、この神社を維持したいと考える人たちの願いを理解しようとしてみたり、日韓関係に腹を据えかねている人が、あえて新大久保に行って、日本が取り入れられるものを考えてみたり――。

 SNS上では全く分断されているが、

「東京 = 異質となんとなく同居している = 他人を断罪しきれない」

という感覚をなんとなく共有しているからこそ生まれるものが、今の時代にとても大切ではないでしょうか。

 最初は絶対にありえないと思っていたものも、まずは体感し、それに同意しないまでも彼らの思い自体をナマに感じ取ってみることから始めてみるのも悪くありません。

世界最大の都市・東京(画像:写真AC)



「Go To トラベルキャンペーン」はおトク感がありますし、そもそも適用以前の価格よりかなり安くなっているところが多く、観光業界の苦境をそのまま表していると感じています。

 私のクライアントの観光業関係者によると、そういう危機的状況の業界にとって「Go To トラベルキャンペーン」はかなり助かる制度だそうなので、あなたもぜひこの機会に参加してはいかがでしょうか。

 国境を自由に越えられた時代にはむしろ出会わなかったような、「本当の異質」の発見ができるかも知れません。

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