結婚しようがしまいが……『タラレバ娘2020』が暴きだした30代女性の避けられない孤独と後悔、そして希望

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結婚しようがしまいが……『タラレバ娘2020』が暴きだした30代女性の避けられない孤独と後悔、そして希望

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ふくだりょうこ

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2017年に人気を博した連続ドラマ『東京タラレバ娘』のスペシャル編が、2020年10月7日に放送されました。3年の時をへて3人の女性たちはどう変わり、また変わらなかったのか。作中に描かれる「現代に生きる女性たちの苦悩と希望」について、ライターのふくだりょうこさんが考察します。

なぜ人生は、一筋縄ではいかないのか

 2017年に話題となった連続ドラマ『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)の3年後を描くスペシャル編『東京タラレバ娘2020』が、2020年10月7日(木)夜に放送されました。

33歳になった3人の「3年後」を描いたスペシャルドラマ『東京タラレバ娘2020』(画像:(C)日本テレビ)



 恋人との結婚を控え最高に浮かれている倫子(吉高由里子)、人妻となった香(榮倉奈々)、夢だった自分の店を持つための準備を進める小雪(大島優子)。

 3人とも一見順調に見えるものの、そううまくはいかない……。そこには東京で暮らす女性ならではの悩み、孤独、そして変わらぬ息苦しさがあったのです。

簡単には覆らない価値観と対峙して

 ちょっと地味だけど穏やかな恋人、朝倉理一との愛を育んでいる倫子。ふたりが登場するシーンに、ふたつの印象的な場面があります。

 デートで入ったお店で、ふたりのテーブルに運ばれてきたのはビールとパフェ。当たり前のようにビールは理一の前へ、パフェは倫子の前に置かれますが、理一はそっとそれを入れ替えます。そう、ビールを頼んだのは倫子の方だったのです。

 どうしても先入観で「女性には甘いものだろう」と思われてしまいがちですし、女性側もそうした視線に遠慮して自分の好きなものを頼めないことも。

 けれど、理一は「まだまだそういう価値観は残ってるよね」と言いつつ、自分は気にしないから倫子は好きなようにすればいい、と行動で伝えているようにも見えます。だからこそ、倫子はのびのびと過ごすことができているのです。

 プロポーズも勢いとは言え、倫子からでした。もはや、男女どちらからプロポーズしようといいはずなんですよね。そんな現代の都会のカップルらしいふたりでしたが、最高の瞬間であるはずの結婚式で事態が急変。理一の元カノが式場に飛び込んできたのです。

 そしてそのまま新郎を略奪! 元来、結婚式で略奪されるのは新婦で、飛び込んでくるのは元カレのはず、でしたが、何をすることも男女関係ないと言うなら……こんなところで描かれる“男女逆転”も、都会的展開と言えるのかもしれません。

 しかし、理一を奪っていった元カノが倫子とは正反対の、男性に「俺がいなきゃダメなんだ」と思わせるような気弱そうな女性というのがなんとも皮肉。まあ本当に気弱な女性なら、人の結婚式で元カレを略奪したりはしないでしょうが……。

夫婦ふたりが「本当の家族」になるために

 倫子や小雪よりひと足先に結婚した香。気の合う夫と穏やかな日々を過ごしていましたが、気になることと言えば、ちょくちょく姑(しゅうとめ)が家にやってくること。そして母親に甘える夫。

 共働きと言っても家事をするのは主に女性なのは当たり前……という価値観は東京などの都会では変わりつつあるはずですが、香の夫は香に任せっぱなし。

あれから3年。今でもしょっちゅう3人で飲んでいるという設定だった(右から)香、倫子、小雪(画像:(C)日本テレビ)



 少しずつ夫に対する不満が積み重なっていく香。我慢できずに香は家を飛び出してしまいます。

 ここで終わってしまうカップルも多いでしょう。香も「恋をしているのが楽しい」とこぼしており、結婚という制度に嫌気が差して離婚を選ぶ可能性もありました。

 しかし、香は最終的に夫と一緒にいることを選びます。結婚したのに、独身の頃と変わらない自分の振る舞いを反省し、その旨を夫に伝えたのです。

 夫も、自分もできるだけ家事をやるようにすること、母親(香の姑)にも夫婦の家に来ないように伝えることを香に説明し、ふたりでちゃんと協力して生活していこうと、互いに確認し合うことができました。

 東京は核家族やDINKs(共働き夫婦ふたり暮らし)が多い街。親戚・親族付き合いの煩わしさに影響されることなく生活を営んでいくこともできます。そんな中で、どのようにして夫婦の関係を築いていくか。

 どんなに自由きままなふたりでも、独身気分のままではいられない。自由気ままだからこそ、東京で「家族」として暮らしていくには、パートナーとより深く向き合っていかないといけないのかもしれません。

大勢の中にひとりでいることの孤独

 念願の自分の店を出すために恋愛よりも仕事を優先していた小雪ですが、香や倫子の結婚を機に、マッチングアプリに登録します。

 最初は恋人探しにさほど積極的な様子は見せませんでしたが、バーでひとりお酒を飲んでいるときにふと強い孤独を感じます。

 きっとこの孤独感は東京に住む多くの人が知っている感覚なのではないでしょうか。周りに人がいるからこそ、自分がひとりだという現実が心に染みていきます。

 そんなとき、タイミング良く連絡が来たのはマッチングアプリで仲良くなりつつあった男性。一緒に飲んでいるうちに話が盛り上がり、小雪は自分から誘って男性と一夜を共にします。

 しかし、寂しさが埋まることはなく、孤独感は強まるばかり。男性と一緒にいるベッドの中でさえ小雪は寂しさをかみしめます。

 なんとなく寂しいときに、寂しさを共有もしくは埋めてくれる近しい人がいない――。自覚してしまった孤独を持て余して、都会に住む人は辛さを引きずってしまうのかもしれません。

 小雪の場合、そんな孤独から救ってくれたのは「偶然の再会」でした。たまたま会った元不倫相手の男性、丸井良男。無邪気に小雪に声をかけ、小雪が店を出すことになったと話すと自分のことのように喜びます。

「ずっと自分の店を出したいって言ってたもんね」

 自分が語った夢を覚えてくれている人がいる、誰かの中に自分の存在が残っているという事実が、彼女の孤独感を消してくれました。そして、寂しさは「誰か」が埋めてくれるものではなく、「恋をした相手」でないと埋まらないことにも気付きます。

自分のことを覚えていてくれる存在

 小雪は運良く思い出せたからよかったものの、もしかしたら寂しさを埋めるための方法を探してさまよってしまったかもしれません。

 たくさんの人があふれる街でも、簡単に運命の人とは出会えません。けれど、小雪のように自分のことをちゃんと見て、正しい形ではなかったけれど愛してくれて、思い出としてその記憶を持ち続けてくれる誰かがいることは、決して孤独ではないはずです。

 その人がたとえそばにいてくれなかったとしても。

選択肢の数だけ可能性がある街・東京

「あのとき、あーだったら」「もっと、こーしてれば」

 タラレバばかり言って、と揶揄(やゆ)されていた彼女たちですが、どれも自分たちの目の前にある選択肢で、選び取ったのは彼女たち自身です。

 だからこそ、あのときあーしていれば、と後悔の言葉が口をつきますが、それだけ都会にはたくさんの可能性があり、選ぶ自由があるのです。

 後悔してもいい。自分で選択し、自分の力で未来を作っていくことができると考えると、少しこの先が楽しみになるのではないでしょうか。

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