「怖かったよね、寒かったよね」台風の夜、荒れる川辺で耐えた子猫4匹 見つけたのは散歩中の愛犬だった

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「怖かったよね、寒かったよね」台風の夜、荒れる川辺で耐えた子猫4匹 見つけたのは散歩中の愛犬だった

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山本葉子

東京キャットガーディアン代表

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豪雨と強風。台風が通り過ぎていく明け方に、まだ小さい4匹の子猫が川べりで保護されました。細い木につかまり必死で耐えた4匹を発見したのは、散歩中のビーグル犬。保護当時の様子を東京キャットガーディアン代表の山本葉子さんが紹介します。

暴風雨が過ぎ去ろうとする早朝に

「子猫を拾いました」

 台風がそろそろ通り過ぎるかなという中、お電話がかかってきたのは朝の6時半くらいでした。

 寝ぼけた状態で出ると男性の声で、私(山本葉子。東京キャットガーディアン代表)たちの猫シェルターで保護できないかというご相談です。

 ほぼ1年通して、子猫の保護依頼を受ける団体を運営しています。受け入れの説明の前に子猫たちの状態を尋ねると、

「ひと晩嵐の中にいたようで、4匹とも冷たいです」

冷たくなった、手のひらほどの4匹

 場所は東京・多摩エリアにある普段は枯れている小川で、台風のせいで突発的な流れができた場所に取り残されていた様子。

「カイロなどで体温上げながららこちらに向かってください。近くにコンビニありますか?」
「ないんです。自販機くらいしか……」
「では、ホットドリンク買って布で包んで、子猫たちを温めながらお越しください」

 しばらくして、子猫たちを連れた30代くらいの男性が車で到着しました。

 その人の手のひらと同じくらいの子猫たちが4匹。1か月半くらいの黒猫ちゃんです。

 ホットコーヒーの缶を包んでいたタオルに白い毛が付いていたので尋ねると「あ、これうちの犬のなので」と。

 朝の散歩に出たときに、子猫たちを助けることになったのだそうです。

まだ暗い早朝、雨の残る散歩道で

 台風などで大雨が降り、急にできた水流で動物が流されたりすることがあります。

 この日も前日から強い雨と風。気圧もぐんぐん下がって、夜中過ぎには暴風雨と言っていいほどの状況でした。

東京キャットガーディアンが保護した黒色の子猫(画像:山本葉子)



 朝、4時過ぎに起床するその男性(早起き!)は、日課の犬(ビーグル)の散歩に行こうか止めようかだいぶん迷ったそうです。

 でも、一緒に暮らしたことのある人なら多分お分かりでしょうが、どんな天気でも犬族はお散歩が大好き。

「行く? 行くよね?」という期待に満ち満ちた表情で見つめられて、「やれやれ」とまだ暗い雨の中をいつもの散歩コースに出かけました。

 風や雨は夜中に比べてかなりおさまってきたものの、短縮コースに変えて早々に帰宅しようと思った矢先に、ゴンちゃん(わんこの名前)がピタッと動かなくなり、道の横の小川の方を見ているよう。

「どしたの? 何かいるの?」

 動かない。

「もう帰るよ」

 突然ゴンちゃんがグイグイ飼い主さんを引っ張って、小川の方に降りて行きます。

愛犬に導かれるように降りた水辺

 あたりは真っ暗で、近くの街灯のぼんやりした灯りを頼りにするしかありません。そして、普段はほとんど枯れていた小川が豪雨のせいでそれなりの流れになっていました。

 こういう場合近づくのはとても危険です。

「戻ろう。ねぇ……」

 一点を見て止まるゴンちゃん。流れの少し上の方。

 目をこらし、記憶を頼りにしながら考える。視線の先あたりは、確か土が島のように盛り上がっている場所で、人の背丈くらいの木が生えていたはず。

 急に気持ちがざわざわっとして、急がなくちゃいけないように思い、ゴンちゃんを引っ張って小川から離してリードを街灯にぎゅっとくくり付けました。

台風一過、増水した川辺の木につかまって、子猫たちは必死に生きていた(画像:写真AC)



「台風のときは、水辺には近づいちゃいけないんだよな」

 そんなことを思いながら、ひざ下くらいの水流に踏み込みます。冷たい。両手を前に出して、暗い中で「確かこの辺」という感じで進みます。

 木の幹に触れました。人の腕くらいのそれほど太くない幹。触ってたどって上の方に手を伸ばしていくと、コブのようなものがあります。

「?」

 木の幹とは違う感じ。何か知っている感じ。お風呂場でシャンプーしたときの、濡れたゴンちゃんの手触りのような……。

「動物!?」

一体いつからそこで耐えていたの

 木の幹にくっついてコブのように見えていたのは、子猫たちでした。

 逃げてしまわないかと心配しながら、腕に抱き上げようとしましたが取れない。

 手探りで、何かをはがすような作業を繰り返し繰り返しして、やっと全部抱えることができ、小川を渡って道に戻ったときは雨なのか汗なのか体がびっしょりでした。

 4匹の子猫たち。こわばったまま、そして冷たい体。街頭の下でキラッと光った瞳はびっくり目の状態で開いているけど何も見ていない感じがしました。

「ショック症状なのかな? それにしてもどのくらいの間あそこにしがみついていたんだろう」

 ゴンちゃんにクンクンかがれながら持っていたお散歩用タオルに子猫たちを包んで、小走りに家に帰ります。

 玄関先でダンボールを広げて、4匹を入れて。明かりの下で見るとお腹や顔に少しづつ白のある黒猫ちゃんたち。

 スマホで、保護したらどのようにすればいいか検索してて「子猫を拾ったら」というページを見つけました。

読んでいくと受け入れをしているという記述に行き当たったので、電話をかけてシェルターにつながったわけです。

「大変でしたね」
「いや、とにかく助かってよかったです」

体温を取り戻した4匹「ヘソ天」に

 ガチガチの子猫たちは、買ってもらったホットコーヒーの缶が当たっている場所だけがほんのり温かく、動き出すまでにかなり時間がかかりました。

 ブドウ糖を口の横から入れ、ホッカイロでゆっくり温め、高栄養フードを含ませてごくんと飲み込んでくれた後ふわっと解けて、長かった緊張から解放されました。

見つけてくれた男性と愛犬のおかげで、子猫たちはみるみる元気に(画像:写真AC)



 怖かったんでしょう。水が流れてきて慌てて木に登ったんでしょう。降りることもできずに兄妹(きょうだい)でくっついて耐えていたんでしょう――。

 マッサージをしながらまん丸の目に向かって言葉をかけます。意味はわからなくても声のトーンは通じる。

 男性に助けてもらった子猫たちは、少量のご飯を食べて少し眠り、その度に体温が上がっていって、やがて天真爛漫(てんしんらんまん)に「ヘソ天」で転がるようになりました。

 台風の最中に水辺に近づくことはとても危険ですが、保護していただいた彼と見つけてくれたゴンちゃんに感謝です。

※ 猫の保護主である個人のプライバシーに配慮し、写真は全てイメージ画像です。

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