今さら聞けない? 二郎や天一より「家系ラーメン」が万人受けする理由

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今さら聞けない? 二郎や天一より「家系ラーメン」が万人受けする理由

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小野員裕

フードライター、カレー研究家

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横浜の吉村家が作り出し、現在では全国に広がる家系ラーメン。その独自の魅力について、フードライターの小野員裕さんが解説します。

家系ラーメンとは何か

 よほどのラーメンファンでない限り、ラーメン屋の店名を事細かに覚えないと思いますが、「〇〇家」という「家」の付く店名は、皆さん街でよく目にするのではないでしょうか。

 その店名の多くは、「横浜家系ラーメン」と言われるラーメン屋です。略して「家系」と呼ばれています。

 家系は近年、東京ではJR、私鉄、地下鉄沿線の各駅にほぼ1軒あるといっても過言ではありません。私(小野員裕。フードライター)の知る限り、都内・都下でチェーン展開を行っている家系は130店舗ほどあり、個人店を含めるとさらに多くの数に上ります。ちなみに、全国規模では2000店舗とも言われています。

 そんな家系ラーメンですが、主な特徴は

・薄茶色に濁ったスープ
・ストロークが短いウエーブの太麺
・燻煙(くんえん)がかかった独特な風味のチャーシュー
・ホウレン草
・大き目ののり

といったビジュアルです。

家系ラーメンのイメージ(画像:小野員裕)



 昨今のラーメンブームもあり、ラーメン屋で女性のひとり客を多く見かけるようになりました。私はテレビ番組でラーメン店を取材することが多く、同行するモデルやタレントさんたちも家系ラーメン好きな人たちが多いです。

横浜「吉村家」という名の元祖

 家系の元祖は、横浜駅西口にある「家系総本山 吉村家」(横浜市)です。

横浜市西区南幸にある「家系総本山 吉村家」(画像:(C)Google)

 吉村家は元々、JR根岸線「新杉田駅」近くで1974(昭和49)年に開業。長距離トラック運転手の間で評判となり、ここから巣立った弟子たちがさまざまな場所に店を構えたことで、全国的にその名を知られるようになりました。

 私の大好きな家系は、何といっても「吉村家」です。新杉田駅にあった頃からお世話になっており、一番おいしいと思っています。そういえば、板橋にある有名なラーメン屋の店主が

「吉村家はレベルが違うね。あそこのラーメンを食べたら、ほかの店は食べられないよ」

とも言っていました。

そもそも何が魅力なのか

 すっかり市民権を得た家系ラーメンですが、その魅力について改めて考えてみましょう。

 乳化(水分と油脂分が混ざり合った状態)して白く濁ったスープに、エッジの効いた塩分濃度の高いしょうゆの「元ダレ」が合わさり、キリっとした塩味に柔らかさが加わって格別な味わいになります。

 モチっとした太麺は食べやすいようにストロークが短く、スープが飛び跳ねづらくなっています。燻煙のかかったチャーシューは独特な風味があり、スープに心地よい香りをプラスしています。私はラーメンだけでなく、ライスも必ず注文して、チャーシューとのりを巻いて食べるのがお気に入りです。

 そしてもうひとつの魅力は、好みの味に調整ができることです。

 麺の硬さ、味の濃さ、脂の量がそれぞれ3段階に分かれ、これを組み合わせることで27通りの自分好みの味に調整できます。私はたいてい、麺の硬さと脂の量が「普通」で、味の濃さは「薄め」にしています。

好みの味に調整できるのも家系ラーメンの魅力(画像:小野員裕)



 仕上げに加えるのは鶏油(チーユ)。さらに吉村家の本店や直系店では「酒井製麺」(大田区西糀谷)の特注麺を使い、これがモチモチとしてスープによく絡みつくのです。

 この「吉村家」の直系店は11店舗ほどありますが、いずれの店も個性はあるものの、本店の味を忠実に再現しており、どこも文句なしのおいしさとなっています。

好き嫌いが分かれづらい味

 人々はなぜこれほどまでに、家系ラーメンに魅了されるのでしょうか。

 例えば、まるでビシソワーズ(ジャガイモの冷製ポタージュスープ)のような白濁スープのラーメンを出す「天下一品」(都内28店舗)や、野菜てんこ盛りで、歯応え強烈な極太麺の「ラーメン二郎」(都内22店舗)に比べ、家系ラーメンはそれほど濃厚ではなく、また歯応えも強烈ではありません。

熱狂的なファンを有する、港区三田の「ラーメン二郎 三田本店」(画像:(C)Google)

 天下一品、ラーメン二郎両店の人気は絶大ですが、そのインパクトゆえ、好き嫌いが極端に分かれます。

 しかし家系は個性があるものの、前述のようにスープのまろやかさ、自由自在な味の調整で、万人受けすると考えられます。また細麺を選択できる店も多く、太麺が苦手な人にも需要があるのです。

 近年では、家系の人気に目をつけた外食チェーンが独自店舗を展開。ただその多くは職人の人手不足や労働時間の制約などの影響で、業務用のスープ缶を使っているところが多い印象があります。よくできているのですが、いまいち何かが足りない仕上がりになっている店も少なくありません。

「六角家」破産から見えるもの

 つい先日、直系店から独立して一世を風靡(ふうび)した「六角家」(横浜市)が破産手続き開始決定を受けていたというニュースが報じられ、ラーメンファンを驚かせました。

在りし日の「六角家」。2014年撮影(画像:(C)Google)



 六角家はかつて、「新横浜ラーメン博物館」(同)に家系として初めて出店。コンビニでカップ麺を販売するなど破竹の勢いを見せていました。実のところ、ニュースが出る結構前から良くないうわさは私の耳にも入っていました。

「六角家はもうダメかもしれない」

と友人から知らせを聞き、「ああ、やっぱり」と感じたものです。

 開店当初こそ個性的でおいしいラーメンを出していましたが、後に腕のいい職人が独立。そこにいろいろな事情が重なり、ご主人が不在がちになったころからスープの質が落ちていきました。同店周辺に勤める友人は、「ここ数年、客が入っているのを見ない」とも言っていました。

 かつては「家系でおいしいお店はどこか」と質問されたときは、「何といっても吉村家が一番だが、杉田家、環2家、六角家もいい」と推薦していたのですが、非常に残念な結果となってしまいました。

 いまさらですが、私も神奈川県の某所でラーメン屋を経営していた過去があります。東京に住んでおり、また私自身が怠惰であったため、全てを職人任せにしていました。

 お店は残念ながら1年後に閉店。悔やまれるのは、私が厨房(ちゅうぼう)に立つべきだったということです。味の調整はもちろん、お客さんがラーメンを食べる姿などをじかに見ることで、気づくことが多くあったのだと今は痛感しています。

 きちんとしたシステムを構築しない限り、経営者は現場に立たないとお店はなかなかうまくいかないのです。

都内の家系おすすめ4選

 最後に都内のおすすめ店をご紹介します。それは

・麺達 うま家(新宿区高田馬場)
・壱蔵家(同区百人町)
・麺処いのこ平和台店(練馬区平和台)
・洞くつ家(武蔵野市吉祥寺南町)

です。

練馬区平和台にある「麺処いのこ平和台店」(画像:(C)Google)

 まず元祖「吉村家」を体験した後、これらの店に行ってみれば、何か新たな発見があるかもしれません。

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