今なお新メニュー続々 スイーツの「SNS映え」は一体いつまで続くのか?

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今なお新メニュー続々 スイーツの「SNS映え」は一体いつまで続くのか?

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2017年の流行語大賞にも選ばれた「インスタ映え(SNS映え)」。もう飽きた、なんて指摘もある一方、街を見渡せば次々に登場する“カワイイ”スイーツと、それにスマホのカメラを向ける若い女性たち。一体SNS映えはいつまで続くのか? 東京都内のショップやGoogle検索、専門家の意見などから今後の展望を占います。

「もう飽きた」の声もある一方で

 ここ数年来、日常的に見聞きするようになったキーワードのひとつ、「インスタ映え」や「SNS映え」。

 映えるジャンルはさまざまで、おしゃれなスポットや雑貨、メイク、それからスイーツをはじめとする食べ物も。InstagramなどSNSの普及と歩調を合わせるように、世の中は以前にも増して“カワイイ”であふれるようになりました。

 一方、こうした風潮に疑問符を投げかける声も無いわけではありません。

 すでに1年半前となる2019年4月、人気タレントの藤田ニコルさんが

「インスタ映えってワードはもう個人的に古いと思っててこれ映えるよね?って言われると萎え萎えしちゃうようになりました。。(個人的に。。)」

とツイッターで発信。1.2万件の「いいね」が寄せられました。

「インスタ映え 飽きた」という検索ワードは、Yahooで280万件近いページがヒット。古い記事では、2017年10月配信のものもあります(「『インスタ映え』に飽きた人にオススメ! あえて『NOインスタ映え』な写真を撮ろう」、TIME&SPACE)。

 急激で強力な流行が訪れるとその反動もまた同時に表れるという現象が、SNS映えにも起こっているようです。

 とはいえ東京都内の飲食店やホテルのリリース情報を一覧すると、「SNS映え」は今も見逃すことのできない頻出単語のひとつ。

 2020年晩夏から秋にかけても、関連する新メニューが日々続々と発表されています。それはほかでもない、消費者のニーズがあるからこその動向と言えるでしょう。

 果たして「SNS映え」は一体いつまで続くのか? とりわけ「カワイイ」との親和性が高いスイーツの界隈(かいわい)ではどうなのでしょうか。まずは東京都内のさまざまな飲食関係の店舗に、この問いをぶつけてみることにしました。

原宿……流行の街の変わらぬ人気

 長年、若者の流行の発信地となってきた原宿。

 さらにその中心部ともされる竹下通りにあるスイーツショップ「Sweet XO Good Grief(スイートエックスオー グッドグリーフ)」原宿竹下通り店が、2020年8月末から販売しているのはバナナソフトクリーム(税込み600円)。

 皮を半分むいた生バナナの上にミルクソフトクリームを盛り付けた大胆な見た目です。

2020年8月末に発売されたバナナソフトクリーム。ちょっと奇抜で甘々しいところが“原宿らしい”逸品(2020年9月21日、遠藤綾乃撮影)



 同店の安立卓矢さんによると、普段から来店することの多い小中高校生だけでなく20~30代の大人たちもよく購入していくといいます。

 購入後にスマホなどで撮影する客の割合は「9割強、ほぼ全員」。消費者がSNS映えを求める傾向については、

「新型コロナの影響で自粛ムードだった期間中も『外に行けないなら家で(カワイイものを)作ろう』という動きがありましたし、SNS映え自体は変わらずに人気という印象です。自粛が解けて以降、徐々に客足も戻ってきました」。

「インフルエンサーと呼ばれる人の人数や価値も上がり続けていますから、この先も数年はSNS映えトレンドは続くのではないでしょうか」とのこと。

 2020年9月の4連休も、同店は10代女性のグループや親子連れなどでにぎわいを見せていていて、友人と訪れた20代の女性は

「外出先で何かを購入したら撮影してアップする、という流れがすでに自然に身に付いている感じですかね。無理してSNS映えを意識したものを探さなくても、今どきのものはだいたいどれもカワイイですから」

と話していました。ちなみに休日の竹下通りでは、今もタピオカドリンクを飲んでいる女性たちが以外にも少なくないのが印象的でした。

ワード検索件数の推移は下降傾向

 そもそも「インスタ映え」「SNS映え」という単語が世間に広まったのは、2017年の夏のこと。Googleで検索された件数の推移が分かる「Google Trends」を見ると、同年8月に入ったあたりから一気に件数が上昇しています。

 この時期にはやったものといえば「ナイトプール」。都内でもホテルニューオータニ(千代田区紀尾井町)や東京プリンスホテル(港区芝公園)がたびたびニュースに取り上げられていました。

 そのほかホテルのデザートビュッフェや家庭での手料理なども“映え”を意識したものが増えていき、「インスタ映え」は同年のユーキャン新語・流行語大賞(年間大賞)に選ばれています。

 Google Trendsで同年以降の推移をたどっていくと、大小の上がり下がりを繰り返しながらも検索件数はほぼ横ばいか緩やかな下降傾向。

上がり下がりを繰り返しながらも、緩やかに下降をたどる「インスタ映え」。2020年は新型コロナも影響した(画像:Google Trends)



 定期的にやってくる大きな「山」は、毎年4月末から5月上旬の大型連休(ゴールデンウイーク、GW)の時期であることが多く、お出かけにちょうどいい季節にSNS映えするスポットやモノを求めて検索する人が増える傾向がうかがえます。

 2020年のGWはくしくも新型コロナウイルスの感染拡大による「緊急事態宣言」と重なり、前年や前々年の同時期と比べて極端に「山」が小さくなっているのが特徴的と言えるでしょう。

 さて、同じくGoogle Trendsで「インスタ映え スイーツ」と調べるとどうか。

 こちらも同じく2017年夏頃から一気に上昇するものの、年月をへるごとに先ほどの「インスタ映え」より鮮明な下降傾向がみられます。

 これは、ことスイーツというカテゴリーにおいて「『SNS映え』離れ」が進んでいる状況を示すものなのでしょうか? 店舗などへの取材を進めていくと、必ずしもそうとは言い切れない実態が見えてきました。

港区……若者も魅了する高級商品

 都心に数あるラグジュアリーホテルの中でも、東京湾とレインボーブリッジを臨む絶景が特長の「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ」(港区海岸)。

 同ホテルが2020年秋に展開しているのは、紫と黒を基調とするシックでおしゃれなアフタヌーンティーです。

紫と黒が高級感を演出する、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイの秋のアフタヌーンティー(画像:ベストホスピタリティーネットワーク)



 お値段は3621円(税・サービス料別)。街中の手軽なスイーツスタンドとは異なる次元の存在ですが、こうした高級ホテルにとってもSNS映えは今や欠かせない要素のひとつ。

 以前は少なかった20代前半くらいの若い女性たちも数多く来店するようになったと、同ホテルの担当者は話します。

「年代については本当に幅広です。女性グループがほとんですが、カップルもいらっしゃいますね。今回のようなメニューを展開することで20歳前後の学生さんにもいらしていただけるようになり、平日の重要な客層となっています」(同ホテル担当者)

「ですから新規のメニューを企画する際にはやはり『SNS映え』は非常に意識しますし、SNSで(メニューの画像が)拡散されれば、さらなる知名度アップや集客も期待できます。その分、広く拡散されることも想定してホテルの名に恥じぬ仕上がりにすることがより重要になっています」

 ちなみに、今回のようなスイーツを注文した利用客がスマートフォンなどで撮影する割合は、こちらも「ほぼ全員」とのこと。

 お気に入りのぬいぐるみやアニメのキャラクターグッズを持ち込んで一緒に撮影していく人が増えるなど、楽しみ方は多様化・細分化しているといい、

「(SNS映えトレンドは)今後もしばらくは続くと考えています」とのことでした。

荒川区……まちの活性化にも寄与

 見栄えの良いメニューを用意することで、従来とは異なる客層の開拓につなげる――。商品を提供する側にとっても、SNS映えは少なからずメリットをもたらします。そしてそれは、ひとつの店にとってだけでなく、まち全体に好影響を与える例もあるようです。

 荒川区町屋。

 流行の発信地というより下町のイメージが強いこのエリアで、SNS映えにぴったりなドリンクを販売しているのは、カフェ「TOKYO L.O.C.A.L BASE(トーキョーローカルベース)」です。

赤やピンクが鮮やかなイチゴミルクのドリンクが、荒川区町屋の地域に与えた影響とは?(画像:TOKYO L.O.C.A.L)



 赤やピンクが目に鮮やかなイチゴミルクは、パッケージの上部に開けられた穴にひもを通して、首から提げて持ち歩くこともできるデザイン。コロナ禍のテイクアウト用としても好評を博しました。

 同店を運営しているTOKYO L.O.C.A.Lは、実は民間企業ではなくNPO法人。町屋エリアの地域活性化活動の拠点として2019年5月にカフェを開店し、飲食のほかイベントなども開催しているのだそう。

 広報担当の島健さんによると、月間の来店客数はおよそ3000人。

 東京23区で唯一スターバックスがないという特徴を持つ荒川区の町屋で、「こんなお店ができる日が来るなんて」と地域住民には驚きを持って受け止められたといいます。

「町屋は当店のような新規オープンのカフェが少なく、これまで『仲間とカフェで歓談しよう』という習慣自体がなかったエリアです。そんな町でちょっと珍しいメニューをきっかけに人々が集まって語らう場がつくれたという意味では、地域の活性化に多少とも貢献できているかな、と考えています」と島さん。

 SNS映えというトレンドについては、

「注文するメニューを選ぶときにSNSの投稿を参考しているお客さんはよく目にします。ことさらSNS映えをアピールする風潮は多少下火になりつつあるのかもしれませんが、参考になる情報を探すための検索エンジンとしてSNSを利用している人は今も多いですね」。

「スマホが手元にある限り、そしてSNSをやること自体が古い、恥ずかしいとでもならない限り、スイーツや料理を撮影したりSNSにアップしたりというのは、もはや日常の中の一行為として定着しているように感じています」

スイーツにおける見栄えの重要度

 ブームから定番へ。その風潮が高まるほどに、見栄えの重要度が増していくスイーツ業界。昨今のこうした流れを、専門家はどのように見ているのでしょうか。

 1980年代以降、数々の料理書を手掛け雑誌の編集長なども務めてきた食文化研究家の畑中三応子さんは、「スイーツの見栄え重視という価値観は、何も今に始まったことではありません」と指摘します。

「お菓子は嗜好品。また材料もシンプルですから、いかに独創的な形に作り上げていくかという意味において、かねて見栄えに重きを置かれることの多い食べ物でした。西洋でも古くから大きさや美しさ、豪華さなどで権力や富を誇示した歴史があります」

 一方、現在のように見た目がトレンドの重要な一部となったのは、日本・東京が空前のバブル景気に湧いた1980年代のこと。

「例えばケーキは、ホイップクリームを絞った飾りつけだけでも十分華やかとされていたものが、だんだん繊細なあめ細工やチョコレートのコーティングなど凝ったデコレーションが増えていきました。『宝石のように美しい』といった形容表現が見られるようになったのも、この頃ですね」

 ただ、当然ながら当時はSNSなどありませんから、自分の食べたものを人に見せる、アピールするという文化は現代ならではの特徴でもあります。

「個人の日々の食事は本来ブラックボックスでしたから、それがひとつひとつ公開されるようになったというのは大きな価値観の変化だと感じます」

 そのSNS映えというトレンドは、今後どのように展開していくのでしょうか。

「そうですね。人間は、飽きるし疲れる生き物です。写真を撮ることに気を取られずただ普通に食事をしたい、という人は今後増えていくかもしれません」

「特に2020年は、新型コロナの感染拡大によって『あんまり浮かれている場合ではない』というムードが広がりました。食事の本質に目を向ける契機になるかもしれないですし、見栄えに興味を引かれるにしても、他人に見せるためではなく自分自身が楽しむため、という方向へ回帰していくことは考えられます」

※ ※ ※

 スイーツの見た目のかわいらしさに引かれるのは、古今東西で変わらない価値観。

 一方で、スイーツ / 自分 / SNSの投稿を見る第三者……という「三角関係」は、今後少しずつ変化していくかもしれません。

 この先、SNS映えトレンドがひと息ついて、目の前のスイーツと1対1の関係で対峙(たいじ)するとき、今とは違うスイーツの楽しみ、新鮮な喜びを、あらためて思い出す人もいるのではないでしょうか。

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