現「AKB48劇場」近くにたった3年だけ存在した秋葉原に似合わない施設の正体

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現「AKB48劇場」近くにたった3年だけ存在した秋葉原に似合わない施設の正体

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橘真一

ライター、ノスタルジー探求者

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サブカルの聖地として、国内外の多く人が訪れる秋葉原。そんな秋葉原にかつて同地には一見不釣り合いな施設がありました。ライターの橘真一さんが解説します。

存在はごく短期間

 現在の一般的な“アキバ”のイメージが決定的になったのは、1990年代の終わりから2000年代にかけてです。少なくとも1980年代までの秋葉原(千代田区)といえば「家電製品を安価で買える街」であり、「電子部品がなんでもそろう街」でした。

 そんな時代の秋葉原に、ごく短期間、美術館が存在していたことがありました。

 それは、アニメやゲームなどの関連作品を扱っていた……という訳ではなく、シュールレアリスムを代表するスペインの芸術家、サルバドール・ダリの作品を常設展示する美術館だったのです。付け加えると、その美術館は“AKB48と少しだけつながりがある”というフックもありました。

 にぎやかな電気街と静かな美術館というのはミスマッチな感じもしますが、果たしていかなる施設だったのでしょうか。

現在とまったく異なっていたアキバの風景

 1980年代の秋葉原には、駅前(電気街口)や中央通り沿いを中心に、家電量販店がズラリと並んでいました。具体名を挙げれば、

・アジア無線
・石丸電気
・オノデン
・サトームセン
・シントク
・第一家庭電器
・ナカウラ
・ヒロセムセン
・ヤマギワ
・ラオックス
・ロケット

といったところです。

 これらは秋葉原に本店を構える、いわば“アキバ系”家電量販店といえます。

 現在、家電量販店の上位シェアを占める、地方発の大型チェーン「ヤマダ電機」「エディオン」「ケーズデンキ」、カメラ販売店から発展し新宿または池袋に旗艦店を置く「ヨドバシカメラ」「ビックカメラ」とはルーツが異なります。

 またその多くは、秋葉原エリア内に何らかの特徴を持たせた支店を複数有していました。1980年代までは、そうした家電量販店こそが秋葉原のあるじだったのです。秋葉原駅の中央改札口側に「ヨドバシAkiba」がオープンするのは遠い未来(2005年)の話です。

現在「AKB48劇場」の入るビル(画像:(C)Google)



 そうした“アキバ系”家電量販店のひとつに、埼玉県で創業され、1948(昭和23)年に秋葉原に進出した「ミナミ無線電機」がありました。

 同社は1984(昭和59)年、地上8階地下1階の自社ビルを建て、そこを「ミナミ電気館秋葉原本店」としています。その売り場の総面積は当時、単一店舗としては秋葉原エリア最大級でした。

オーナーが集めたダリ作品

 ミナミ無線電機の創業一族は、家電量販店以外にもホテル、ゴルフ場、スキー場などのレジャー施設の経営も手掛けていました。

 多角経営の成功者だった社長の南学正夫(なんがく まさお)氏はまた、サルバドール・ダリ作品の収集家でもありました。

 そして、そのコレクションを一般公開するべく、1986年9月にオープンさせたのが「ミナミ美術館」です。場所は「ミナミ電気館秋葉原本店」の7階。家電量販店の上で「ダリ 愛の宝飾展」なるタイトルでダリ作品が常設展示されていたのです。

サルバドール・ダリ(画像:読売新聞東京本社)



 メインとして展示されていたのは、「ポルト・リガトの聖母」という1950年の絵画で、ほかはタイトルの通りに、「時間の眼」(1949年)、「宇宙象」(1961年)といった宝飾品がほとんどでした。

 ダリは日本でも人気の高い作家であり、「ミナミ美術館」には普段、電気街に縁のない人も足を運ぶことになります。

 しかし、電気街のど真ん中に美術館があったのはわずか3年ほどでした。この美術館は、1989(平成元)年に新宿に移転。「ミナミ宝飾美術館」と改称。その後はさらに、「ダリ宝飾美術館」として神奈川県の鎌倉駅前に移っています。

展示場所の真上がアイドルの聖地に

 ミナミ無線電機を含む“アキバ系”家電量販店の多くは、現在の秋葉原に存在しません。

 これは、バブル崩壊による家電の販売不振、安売り競争激化による疲弊、多角経営化による資金繰りの悪化などが理由として考えられます。1990年代になりと各店がパソコン販売に活路を見いだす傾向もありましたが、それも長く続きませんでした。

 そして、秋葉原に世界初の常設型メイド喫茶が誕生した2001(平成13)年あたりから、バタバタと業界の再編が発生。経営破綻、家電販売事業から撤退、他社との吸収合併などが続くのです。

 今でも、昔からの法人、スタイルで残っているのは、堅実経営だったオノデンのみといっていいでしょう。

 ミナミ電気館秋葉原本店も他社同様に持ちこたえられず2002年に閉店。鎌倉の「ダリ宝飾美術館」もそれ以前に閉館しています。

 その後、 同社ビルは「ラオックス」によるゲームやアニメ関連商品を専門で取り扱う店舗「アソビットシティ」の時期を経て、ミナミ無線電機による売却後の2003年の夏から「ドン・キホーテ秋葉原店」が入居。そして、2005年12月よりその最上階(8階)にオープンしたのが「AKB48劇場」でした。

サルバドール・ダリ「テトゥアンの大会戦」(画像:テレビ東京グループ)

 かつてダリの作品が展示されていたフロアの真上が、あの未曽有のアイドルブームの中心地となったのです。

 なお、「ミナミ美術館」のメイン展示物だった「ポルト・リガトの聖母」は現在、福岡県の福岡市美術館に所蔵されています。

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