「東京頼み」は終わりにしよう 新政権の「地方創生」、経営コンサルが描く予想図は

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「東京頼み」は終わりにしよう 新政権の「地方創生」、経営コンサルが描く予想図は

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倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

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自民党総裁選で菅義偉氏が選出され、次期首相に就任する予定となりました。新しい時代に「東京と地方」の関係はどうあるべきなのか。経営コンサルタントで経済思想家の倉本圭造さんが解説します。

「東京の足を引っ張る」地方創生の限界

 連日報じられた自民党の総裁選。候補者のひとりだった石破茂氏が、「東京一極集中の是正が必要だ。それなしに国はもたないところまで来ている」という趣旨の発言をされているのをニュースで見ました。

 ただ、こういう話題はなかなか今の時代、賛同を得にくいようです。

地方のイメージ(画像:写真AC)



 なぜ紛糾するかというと、「東京一極集中を是正したほうがいい」のはいろいろな意味で正しいものの、具体策となると、単に地方へのバラマキを強化することであったり、東京が持っているはずだった財源を地方に付け替えることだったり……といったことになりがちだからでしょう。

 日本全体の経済がなんの問題もなくうまくいっていた時期にはそういう「シンプルな所得の地方移転」というものでも良かったのでしょうが、必ずしも日本経済自体が元気でない今となっては、「世界と戦えている東京」をちゃんとバックアップして、切り込み隊長として東京に頑張ってもらう視点もどうしても必要になります。

 そういう意味では私(倉本圭造。経営コンサルタント、経済思想家)は、「東京一極集中の是正」はたしかに必要だが、「東京から分け与えてもらう」だけの「地方創生」は決して成功しない、と考えています。

 ではどうしたらいいのか?

 そのためには、「国土の多様性」をもっと推し進めていく方向性の模索が必要になります。

東海地方をひとつの例として

 私の経営コンサルティングのクライアントには東海地方の会社が多いのですが、現状日本一の会社であるトヨタをはじめとして、地域全体に非常に「独自のカラー」を持っています。

 あまり「はやり物」に飛びついて追い掛けるのは得意ではない半面、実直にものづくりのスキルを蓄積して「東京を経由せず直接世界と商売する」気風がちゃんとあるので、東京にとって「従属の関係」になっていない。

 要するに、ある程度「自分たちはこれで食ってくぞ」というコンセンサスが地域で共有されていると、東京とは「住み分け」る形で独自の発展をしていけるわけですね。

 たとえば福岡周辺は、東京とは地理的に遠いが「アジアに近い」特性を生かしたビジネスを仕掛けていっていると聞きます。沖縄にもそういう独自性を形成していこうとする考え方も一部にあるらしい。

 大事なのはそういう「地域である程度まとまった戦略性を持つリーダーシップ」を誰が取るのかという部分なのでしょう。

 今後「道州制」の検討がされるかも? というニュースを最近聞きましたが、それもひとつの考え方ではあると思います。もし実行されるとしたら素晴らしいと私は考えています。

 ただ、必ずしも道州制が必要なのではなく、愛知・三重・岐阜・静岡の一部にまでまたがる東海経済圏が、行政的にはバラバラのままでも独自色を出せているように、要は「こういうふうにやって行こうぜ!」という掛け声を一緒に掛け合って、「東京から言われたことをただやる地方」ではなく、他人事でなく自分たちで動かしていく気風をいかに育てていくかが大事なのだと思います。

関西や九州だからできること

 香港に対する中国共産党の支配が強められたことによって香港の国際金融センターとしての地位が低下し、有名な「国際金融センターランキング」でニューヨークとロンドンに次ぐ3位に東京が返り咲いているのをご存じでしたか?

 中国による香港支配は、ある程度経済ダメージを受けてもやりきるという中国政府による強い意志の下に行われているわけですね。

 結果として、中国の香港支配はさらに強まり続ける見通しなので、自由と透明性を確保できる何らかの代替的な国際金融センターが必要とされる流れがあります。

東京とは異なる文化圏を築く関西。その可能性とは(画像:写真AC)



 普通に考えたらその地位はシンガポールに取られてしまうわけですが、日本がその「後釜」に誘致を目指す中で、関西や北九州が候補地に挙げられているようです。

 え!? なんで東京じゃないの? と思うのが普通の感覚だと思いますが、個人的に私はそのニュースを見る前から同じ施策の可能性を考えていたので、「わが意を得たり」とばかりに驚きました。

 と言うのも、東京のように「自国内の豊富な資金需要に応える金融機能」と、いわゆる「国際金融センター的な機能」は、それぞれ目指すところがずいぶん違うのです。

各地方のキャラ付けの重要性

 東京は「日本国の首都」として独自性を常に示し続けていく必要があるわけなので、香港やシンガポールが目指すような「身軽な金融セクターのために徹底した自由度を与える」ようなことに細部まで応えてあげる作業は鈍重(どんじゅう)になりがちです。

 たとえばシンガポールという、国土全体がひとつの街でしかなく、しかもほぼ一党独裁で思い通りの政策をバンバン打ち出せる国と規制改革で競争しなくちゃいけない局面において、「東京」というのは“関係者”が多すぎるのです。

 しかし、たとえば大阪なら、利害関係者が少ないですから、必要なことがあればパッと動くようなことも、担当者が優秀であればできやすい。

 江戸時代に世界初の「先物取引」を発明した都市が大阪ですし、そういう「金融機能に特化した方向性」への地域的理解や、それを実行できる政治勢力にも恵まれているはず。

 東海地方の私のクライアント企業たちを見ていても、「自分たちはこっちに行くぞ」という「キャラ付け」がある程度の地域まとまりで明確に共有されていないと、ひとりの個人やひとつの会社といった単位で個別にいくら頑張っても限界があるように感じています。

 かといって「国」レベルでしかまとまった意志を出せず、1億数千万人がただ言われたことに従うという仕組みでは鈍重すぎますし、これだけ多様な国土の可能性を存分に発揮できません。

「関西地方」あるいは「大阪」ぐらいのサイズで、国際金融センターを誘致するぞというガッツを持った集団が形成され、国との連携もうまく行けば、それは東京がやるよりもうまく動く可能性は高いと私は考えています。

金融を担う地域に必要なこと

 過去10年ぐらいは、シンガポールや香港のような「国際的なおカネの流れだけに全権力を与えてそれを邪魔する人間は排除する」というようなモデルが結構成功していた時期でした。

 ただ、香港は政治的に問題化していますし、シンガポールも、最近では「金持ち族とそれ以外」とのギャップが広がりすぎて、ビザ発給などの条件でモメることが増えてきたようです。

 要するに、あまりに「地域に根付いた他の産業」がないところに高度な金融機能だけを誘致してしまうと、その影響が「薄まる」ことなく地域コミュニティーを破壊してしまいがちなのです。

 単純な話で言っても、シンガポールのように狭い国土の中で金持ち用の住宅の価格が上がりすぎることで普通の一般人の住宅コストも維持不可能なレベルに上がってしまうといった無理が起きる。「薄める水」が少なすぎるのですね。

金融感覚と独自の個性を併せ持つ大阪。政府が外資金融機関の誘致強化に乗り出す方針の候補地のひとつ(画像:写真AC)



 関西圏は全部足せばオランダやスイスぐらいの中規模国程度のサイズはありますから、ちゃんと「国際金融センターでうなる資本の流れ」をうまく薄めて「地域住民の心」と溶け合わせることも可能じゃないかと思います。

 東京で、「国際金融センター機能のためにアレコレの制度変更を」となっても、これは絶対にモメにモメてなかなか進みそうにありません。

 一方で、関西には有権者の支持をある程度得ている地域政党があるし、「関西人の東京への対抗心」的な感情もバックアップしてくれるだろうし、という形で、国の政策とも連携し合えれば、結構スムーズに「シンガポール的なもの」を、空いてる湾岸の土地に作り上げることも可能かもしれません。

 このように、「地域のキャラ付け」がハッキリし、「東京への対抗心」を持ってどんどん「違い」を生み出していってこそ、迅速に意味のある対策が打てるようになっていくのではないでしょうか。

「公助」に期待するより先に

 次期首相に就任する予定の菅義偉氏が「自助・共助・公助」というキーワードを掲げたことについて、「公助は最後ということ? 政府に頼らず自分で全部なんとかしろということ?」といった趣旨の批判がネットなどで散見されましたが、それは少しうがった見方ではないでしょうか。

 ある程度のまとまりの中で自助や共助が共鳴し合って動いてこそ、「本当に困っている人」に「公助」を向けていくこともできるわけですから。

「地方創生」は、「東京の視点」で「各地にプチ東京」を作ろう……という発想では決してうまく行かず、ただ「東京にぶら下がる人を増やして全体のスピード感や発展を鈍化させるだけ」に終わるでしょう。

 東海地方が持っている「独自性」のような、「自分たちはこういう方向で行くのだ」というリーダーシップを、それぞれの地域がある程度まとまった単位でもって動いていくことができれば、初めて個別のチャレンジが「点と点がつながり線になり面になる」方向になっていきます。

 そして、新型コロナ以降の時代には、リモートで勉強会に参加してくる文化のような形で、「東京の文化」に、そういう「多種多様な地域人」がそのまま影響を与えてくることになります。

 今までの「東京の振り付けに地方を従わせる」のではなくてその逆に、「ある程度まとまった多種多様な地域のアクション」が集まった形での「日本国」の文化を、「ボトムアップ的に吸い上げて、結晶化して、そして何かオリジナルなものとして提示」していく、そういう東京の独自性はこれから、ますます重要になっていくでしょう。

真の「東京一極集中」是正は

 東京以外の地域は、もっと「独自性」を徹底的に磨ける態勢になっていき、そして東京はそれらの多様性を「レペゼン(代表)」し、多様な地方の可能性を総合した「今の日本」を世界に発信できる都市となっていく――。

 そういう「地方と東京のWIN-WIN」の可能性の中にこそ、本当の「東京一極集中の是正」は見えてくるはずです。

 こういう響き合いの関係を、「お上まかせ」にせずにそれぞれが自発的に模索していくことの中身こそが「自助・共助」であり、それは「公助」と矛盾するものではないはずです。

 数日前まで、菅氏は首相になったらどのような政策を展開するのだろうかと思っていたのですが、総裁選に関する記事を読む中で(国際金融センター誘致候補地に関西を選ぶのも菅氏の案とのこと)、これは結構期待できるかもしれない、と、経営コンサルタントの立場として思うようになりました。

 もちろん、「公助」が必要な人にはちゃんと「公助」が行き渡るようにするべきですが、自助や共助ができる人は、もっと意識的に自分から動いて盛り上げていきましょう。

 とりあえず東海地方ですでに実現しているような、「その地域はこれで食ってくぜ感」がある程度共有され、個別のチャレンジが孤立無援にならないような流れをいかに生み出せるか、一緒にそれぞれ考えて工夫していけたらと考えています。

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