東京に紅茶を作る男がいた 2018年グランプリで金賞、悩める「都市農家」が見た一筋の光

2018年12月9日

ライフ
ULM編集部

ダージリンやアッサム、スリランカーー。紅茶の産地として、これらの地名が真っ先に思い浮かぶ人は決して少なくないでしょう。紅茶に少し詳しい人なら、ケニアやインドネシアの名前も上がるかもしれません。しかし日本国内、さらには東京都内で紅茶が作られていることを知っている人がどれだけいるでしょうか。


茶摘み唄「味は狭山でとどめさす」

 1916(大正5)年、ダム湖である村山貯水池の建設にともない、木下さんの祖父は北多摩郡大和村(現在の東大和市)から新たな農地を求めて、現在の木下園が店舗を構える場所に移ってきました。祖父は本業である野菜栽培のかたわら、茶葉の栽培も開始。それから33年後にあたる1949(昭和24)年、本格的に製茶業に取り組み始めました。

「東大和市は平地で風が強いですから、作物の風よけとして、多くの農家がお茶の木を植えていました。ですから皆さん、家族で飲む分のお茶は自分たちでまかなっていたんですよ。うちの祖父が本格的に始めたのは知り合いから製茶機を譲ってもらったからです。自分たちで植えた茶葉だけではなく、周囲の農家からも買い取ったりして。まぁ、本格的といっても、当時はまだまだ野菜栽培との兼業だったんです」(木下さん)

多摩湖の通称で呼ばれる村山貯水池(画像:画像AC)

 現在の東大和市から武蔵村山市、瑞穂町にかけての西多摩エリアは、江戸時代から狭山茶の生産が行われてきました。同エリアの狭山茶は、埼玉県西部で生産される狭山茶と区別するために、昭和中期から「東京狭山茶」と呼ばれています。

 茶摘みは春と夏の2回行われ、うま味の強いお茶といわれています。「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という茶摘み唄があるほどです。

父親の死後、残された3000坪の茶畑

 木下さんが父親から3代目を継いだのは1992(平成4)年、25歳のとき。それは突然訪れました。

「父親が亡くなったんです。それまでは建設業で付帯設備の設計、施工管理をやっていました。もともと製茶業を継ぐ気はまったくなかった。自分がどこまでやれるか分からなかったし、相続税を払うために茶畑以外の農地も手放さなきゃいけなくて……でもよく考えたら、職人さんを当時2人雇っていましたし、これまでずっとお茶を作っていたのにもう辞めますなんて……言えませんよね。ですから、もうやるしかないなと腹を決めて、茶畑以外の農地も無くなったこともあって、私の代から製茶専業にしました。専業の歴史は意外と短いんですよ」

 現在、木下園の茶畑は東大和市内に3か所あり、全てを合わせると計3000坪(約9900平方メートル)だといいます。

東大和市の木下園の販売店の外観と店内の様子(2018年10月5日、國吉真樹撮影)

 そのような事情から家業を継ぐことにした木下さんですが、当然製茶の技術を知りません。そのためイロハを学ぶべく、静岡県岡部町(現在の藤枝市)の製茶工場に2年連続で4月下旬から5月上旬までの間、住み込みで修業しました。茶摘みから製造の技術まで必死になって学んだといいます。

 緑茶は生茶葉を蒸し、もみ、乾燥することで作られます。この工程を、木下さんは職人の見よう見まねで繰り返し練習しました。東大和市に戻ってからも、その成果を試す日々が続きました。しかし、修行先で覚えた技術は東大和市でそのまま使えるわけではなかったといいます。気候が大きく異なるからです。

「静岡は温暖なので葉肉が薄く、狭山茶の葉肉は厚い。葉は摘んだあとすぐ蒸すのですが、静岡のものは薄いから10秒ぐらいで蒸せるんです。でも狭山茶の葉は15秒ぐらいかかる。手もみの作業にしても同じ。葉肉が厚いともむのに力がいるんですよ。その加減が全然違う。しかも葉のコンディションは毎年変わりますから、それも考えなくちゃいけない。静岡で学んだ技術を狭山茶に合うよう、少しずつ馴染ませていったわけです。跡を継いで25年間ぐらい経ちましたが、このときの苦労は今でも役に立っていますね」

 以来、木下さんはただひたすら緑茶を作ることに心血を注ぐようになりました。

工場内の様子と、茶葉をもむ揉捻機(じゅうねんき)(画像:木下園製茶工場)
茶葉を発酵させている工程(画像:木下園製茶工場)

 そんな木下さんが紅茶に関わるようになったのは、2001(平成13)年の初頭のこと。熱狂的な紅茶ファンの知人男性から突然話を持ち掛けられたのです。

「木下さん、簡単だから紅茶作ってみない?」

「こんな飲みやすい紅茶ができるのか」と自ら驚く


【写真】紅茶はこうして作られる!

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