もはや無双状態? 医療とスポーツの文武両道「順天堂大学」とはどのような大学なのか

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もはや無双状態? 医療とスポーツの文武両道「順天堂大学」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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スポーツ強豪校のイメージがある順天堂大学ですが、医師養成の優れた育成機関でもあります。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

バサロの衝撃とともに知名度急上昇

 1988(昭和63)年に行われた、ソウルオリンピック。当時、順天堂大学(文京区本郷)体育学部(現・スポーツ健康科学部)の学生だった鈴木大地が、潜水艦のようなバサロ泳法で金メダルを獲得しました。

 爽やかさなルックスも相まって大々的にメディアで報じられた彼の存在を、40歳以上の人なら必ず覚えているでしょう。

 順天堂大学はそれ以前から箱根駅伝の強豪校として有名でしたが、オリンピックのヒーロー誕生のインパクトは想像以上に大きく、同大の名は瞬く間に全国へ広がりました。

文京区本郷にある順天堂大学の外観(画像:(C)Google)



 このことからも、「スポーツに力を入れている大学」というイメージが一般的な順天堂大学ですが、実は医師国家試験を始めとする医療系の国家試験で、大きな実績を残しているのです。

有数の医師国家試験の合格率

 順天堂大学は、

・医学部
・スポーツ健康科学部
・医療看護学部
・保健看護学部
・保健医療学部
・国際教養学部

の6学部3研究科と、六つの付属病院を有する医療系に特化した総合大学です。

順天堂大学のウェブサイト(画像:順天堂大学)

 2015年4月新設の国際教養学部は単なる文系学部ではなく、同大がこれまで培ってきた医療知識を生かしつつも、語学力に堪能な人材育成を目的としています。

医師国家試験の合格率は平均全国2位

 順天堂大学は「健康総合大学」を自負していますが、その言葉通り、各国家試験でも高い実績を誇っています。

 医学部の医師国家試験の合格率は全国平均を大幅に上回り、過去10年間の国公私立大内の平均順位は全国2位。2020年2月に行われた試験では、なんと99.2%という合格率をたたき出しているのです。

医師国家試験の合格率推移(画像:順天堂大学)



 多くの順天堂大学の医学生が試験を通過している理由は、臨床実習という実践の場数を踏んでいることにあります。

 付属病院は六つと大規模で、また国内有数の設備を有するだけあり、さまざまな症状を持つ患者を診る機会に恵まれています。

 机上だけの勉強だけでなく、豊富な臨床実習が試験合格の大きな支えになっているのです。

 そのほかにも看護師国家試験や保健師国家試験、助産師国家試験も全国平均を上回る合格率となっています。

起源は天保9年

 順天堂大学の起源は、江戸時代の天保(てんぽう)年間にまでさかのぼります。

 オランダの医学を学んだ蘭方医の佐藤泰然(たいぜん)が1838(天保9)年、両国橋からほど近い薬研堀(現・中央区東日本橋)で開いた和田塾を起源としています。

赤枠内が、かつて薬研堀のあった中央区東日本橋(画像:(C)Google)



 1843年に現在の千葉県佐倉市に移り、その際に大学名につながる「順天堂」と名づけました。

 泰然の跡を継いだ養子の尚中は、明治政府に懇願され東京の大学東校(現・東京大学医学部)の初代校長に任命されました。

 しかしその後、全ての官職を辞して1873(明治6)年、下谷練塀町(現・台東区秋葉原)に順天堂医院を開院。1875年、下谷練塀町から現在の大学本部がある本郷の地へ順天堂医院を移転しました。

 順天堂医院は単なる病院としての機能だけではなく、住み込みで勉強する学生や通学しながら医学の勉強をする学生を抱える教育機関の役割も持っていました。

 また江戸から明治への移行期間に西洋医学の知識を持つ人材育成をし、明治期には看護婦講習所も開設するなど、同医院は独自路線を突き進んでいきました。

しかし大学設立は戦後から

 順天堂大学が他の医療系大学と異なるのは、学問所と診療所ともに日本有数の歴史を誇りながら、本格的な教育機関設立は戦後だったという点です。

1909(明治42)年測図の地図。中央に病院と学校の地図記号が見える(画像:時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ3」〔(C)谷 謙二〕)



 大学としての歴史は戦後まもない1946(昭和21)年から始まり、医学部医学科を新設したのは1952(昭和27)年と、佐藤泰然が和田塾を開いてから100年以上たってからのことでした。

 順天堂大学の歴史を考えれば、このスロースタートは不思議以外の何物でもありません。当初より医院と独自の人材育成をし名声を得ていたことが、国からの認可を受けた教育機関設立の機運を遅らせたのではないかと考えられます。

スポーツと医療系学部の実績を両立

 2018年、女性差別が明らかとなった医学部不正入試問題では、順天堂大学も批判の対象となりました。

 問題が発覚するまで、同大の女子学生の合格率は5%台で推移していましたが、2019年度入学試験では8.28%、2020年度は7.77%と上昇しています。

患者と交流する女医のイメージ(画像:写真AC)

 合格者をコントロールすることなく優秀な人材は集めることは、長い目で見れば順天堂大学にとってプラスとなるのは言うまでもありません。

 同大にとって、2018年はくしくも開学180周年の年でした。そこからよりよい、新たな歴史が刻まれてほしいと、筆者は願っています。

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