23日公開『コンフィデンスマンJP』 東京にもかつて、笑えて泣けるコンフィデンスマンたちが実在した

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23日公開『コンフィデンスマンJP』 東京にもかつて、笑えて泣けるコンフィデンスマンたちが実在した

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橘真一

ライター、ノスタルジー探求者

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7月23日、映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』がいよいよ公開されます。それを記念して、過去に東京を騒がせたコンフィデンスマン(信用詐欺師)の歴史を振り返ります。解説するのは、ライターの橘真一さんです。

東京に出没した“痛いコンフィデンスマン”

 2019年5月に公開された映画『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』の第2弾にあたる『コンフィデンスマンJP プリンセス編』が、2020年7月23日(木)にいよいよ公開されます。

映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』公式サイトより(画像:(C)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会)



 フジテレビ系のテレビドラマから始まったこのシリーズで、 「コンフィデンスマン」なる言葉は「信用詐欺師」という日本語で説明されています。

 作中、ダー子(長澤まさみ)ら華麗なるコンフィデンスマンたちは、ずる賢い手段で大金を稼ぐ人物に近づき、何者かになりすまし、十分に信用させた上で、痛快にお金をだまし取ります。

 しかし、それはあくまでフィクションのなかでのお話です。

 現実世界のコンフィデンスマンは、ドラマや映画のように華麗でも痛快でもありません。そもそも詐欺は犯罪です。ここでは、過去に東京の街に出没した、痛いコンフィデンスマンの例をいくつか挙げたいと思います。

チャールズ皇太子のいとこを自称する日本人

プロフィルを誇張する人はいつの時代にもいるものですが、それをあり得ないレベルに盛って盛って盛りまくり、女性をだました結婚詐欺師がいました。

詐欺師のイメージ(画像:写真AC)

 1982(昭和57)年、金髪でサングラスをかけ、欧米の軍人風の制服を着用した男が、都内に住む51歳の女性・Aさんに接近します。

 男は片言の日本語を話す外国人のような口調で、

「ワタシノー、ナマーエワー、“プリンス・ジョナ・クヒオ”デス」

と名乗り、その上で、自身の驚きのプロフィルを明かしたのです。

「イギリス王室から5億円をもらえる」というウソ

 この男の母親はイギリスのエリザベス女王の双子の妹で、父親はハワイのカメハメハ大王の子孫。職業はアメリカ空軍特殊部隊のパイロットである……。

ハワイのホノルルにあるカメハメハ大王像(画像:写真AC)



 わざわざ目立つ軍服を着て、なぜか東京の街をウロウロしているという行動もインチキくささ満点です。そんな人が寄ってきたら「危ないヤツが来た」と、距離を置こうとする人が多数派でしょう。

 しかし、人間の心理というのは不思議なものです。

 Aさんは男からすぐに求婚され、

「結婚支度金として、イギリス王室から5億円をもらえる」

といった猛烈な虚言攻撃に、冷静な判断ができなくなってしまったようで、すっかり信用してしまうのです。1982年に、「エリザベス女王 双子の妹」とググるという選択肢はありませんでした。

「愛がある証拠としてお金を貸してほしい」

 ある日、男は本来の目的を果たすべく、Aさんに

「米軍の資金を使い込んでしまった。返済しなければならないので、愛がある証拠としてお金を貸してほしい」

といった旨を告げます。

 これに対し、近々、自分が英国王室とハワイの旧王室の親族となれると思い込んでいるAさんは、数回に分けて合計4000万円以上を払ってしまいました。

 以後、Aさんの前から姿を消した自称「プリンス・ジョナ・クヒオ」ですが、のちに東京・三田署に逮捕されます。その正体は、当時42歳、北海道生まれで、イギリスともハワイとも無関係の日本人でした。

 なお、裁判で有罪となり、塀の中に入ったこの男は、なんと出所後も同様の結婚詐欺を繰り返します。

 1989(昭和64・平成元)年以降、「ジョナサン・エリザベス・クヒオ」などと名乗って、女性からお金をだまし取り、度々逮捕されています。

2010年に発売された『クヒオ大佐』のDVD(画像:アミューズソフトエンタテインメント)

 この事件は『クヒオ大佐』のタイトルで2009(平成21)年に映画化されています。映画に主演した堺雅人と実際の自称・クヒオとでは、見た目がまったく異なることを確認しておきましょう。

“皇室の結婚披露宴”の驚きの引き出物

 皇室を名乗った詐欺師による犯罪事件も、過去にいくつか例があります。

 2003(平成15)年4月、東京都港区にある会員制ラウンジにて、宮家・有栖川宮の祭祀(さいし)継承者であり、高松宮宣仁親王(昭和天皇の弟)のご落胤(らくいん。身分の高い男が正妻以外の女にひそかに生ませた子)「有栖川識仁」と名乗る男性と、“妃殿下”とされる女性との結婚披露宴が行われました。

 実際には有栖川家はすでに断絶しており、これは祝儀を集めることを目的とした詐欺師による、ニセの披露宴だったのです。

事件を題材とした、久世光彦『有栖川の朝』(画像:文芸春秋)



 出席したのは、複数の芸能人も含む、皇室と縁がある訳でもない招待者たち約400人。当然ですが、皇族の姿はゼロでした。

 また料理が豪華という訳でもなく、引き出物はバウムクーヘンと、皇室の結婚披露宴にしては、内容が庶民的だったようです。

 なお、同年10月に警視庁公安部に詐欺罪で逮捕されたニセ殿下とニセ妃殿下の間に恋愛関係はなかったといいます。

女子大の入試を中年男性

 罪としては、詐欺ではなく、「有印私文書偽造」に該当するのですが、強烈ななりすまし事件をもうひとつ紹介します。

 津田塾大学は現在は東京都小平市と千駄ヶ谷にキャンパスがある女子大学です。1975(昭和50)年、同大学へ入学を希望する娘になりすました父親が、代わりに入学試験を受けた……という珍事件がありました。

津田塾大学の公式サイトより(画像:津田塾大学)

 10代の女性が大多数の空間に、付け焼き刃的な女装をした中年男性がひとり混じったら、よほど目立ったのではないでしょうか。

 ですが、替え玉がバレたのは、テスト2日目のこと。つまり、1日目にはスルーだったのでした。なお、1990(平成2)年に、この出来事を題材としたテレビドラマがNHKで制作されています。『メイクアップ』というタイトルで、父親役を演じたのは、北大路欣也(当時47歳)でした。

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