西武新型特急「ラビュー」のデザイナー・妹島和世がつむぐ東京建築の世界とは

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西武新型特急「ラビュー」のデザイナー・妹島和世がつむぐ東京建築の世界とは

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小川裕夫

フリーランスライター

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西武鉄道新型特急「ラビュー」をデザインした建築家・妹島和世さんは、東京都内にもその作品を残しています。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

鉄道業界に影響を与える「鉄道友の会」

「鉄道友の会」は、日本国内で最大規模を誇る鉄道愛好家による団体です。

 1953(昭和28)年に設立された同会は、会員の投票によって優れた車両を毎年選出してきました。特急・観光車両にはブルーリボン賞、通勤・一般車両にはローレル賞が授与されます。

 あくまで鉄道友の会はファンが組織する団体で、公的な組織ではありません。しかし、長年の活動実績からJRや私鉄各社、はては国土交通省などにも広く知られた存在になっています。また、“新幹線の父”と呼ばれた島秀雄さん、国鉄副総裁を務めた天坊裕彦(てんぼう ひろひこ)さん、JR東海の初代社長を務めた須田寛さんなど、歴代会長にはそうそうたる人物が就任してきました。

 そのため、鉄道友の会は鉄道ファンの親睦団体という枠を超え、鉄道業界全体に大きな影響力を発揮してきました。ゆえに、ブルーリボン賞・ローレル賞に選ばれることは鉄道各社にとって名誉なことと認識されています。

ブルーリボン賞に選ばれた西武鉄道「ラビュー」

 このほど、2020年のブルーリボン賞・ローレル賞が決定。栄えあるブルーリボン賞には、西武鉄道の新型車両001系「Laview(ラビュー)」が選ばれました。

鉄道車両の概念を大きく変えたといわれる西武鉄道001系「ラビュー」(画像:小川裕夫)



 西武鉄道のラビューは、西武池袋線の池袋~西武秩父間を走る特急列車です。

 同車両の特徴は、なによりも独特なフォームをしていることです。これまでの常識を飛び越えた丸みを帯びた外観、そして快適な内装と座席は、スタイリッシュなイメージとも相まって女性から絶大な人気を博しました。それらが、ブルーリボン賞の選定理由にもなっています。

「ラビュー」をデザインした建築家

 ラビューのデザインを担当したのは、「建築界のノーベル賞」ともいわれるプリツカー賞に日本人女性で初めて選ばれた建築家の妹島和世(せじま かずよ)さんです。

 妹島さんは、これまでにも建築関連の賞に多数選ばれています。建築業界では大御所といえる妹島さんですが、鉄道関連の実績は多くありません。2011年にリニューアルした日立駅のデザイン監修者を務めたのが最初といえるものでした。

太平洋を一望できる駅舎として、高い人気を誇る日立駅(画像:小川裕夫)



 妹島さんが監修した新・日立駅舎は全面的にガラス張りが採用されて美しい雰囲気を醸し出すとともに、駅舎の広場から一望できる太平洋というロケーションが話題になっています。今では日立市の顔ともいうべき堂々たる存在になり、最近は日立駅舎そのものが観光名所のように扱われるほどです。

 駅舎のデザインは、建築に近い分野です。一方、鉄道車両のデザインは建築とは異なる分野に属します。妹島さんが鉄道車両をデザインしたのはラビューが初めてでしたが、見事にブルーリボン賞に選ばれました。

 池袋~西武秩父間を走るラビューは妹島さんの代表作品のひとつといえますが、妹島さんは建築家なので、あちこちで建築物の設計を手がけています。そちらにも目を向けてみましょう。

 国際的な評価を受けている妹島さんですから、手がけた建築物は世界各地に点在しています。それらを写真集・作品集などで目にすることは簡単です。せっかくなら現地に足を運んで実際に見てみる方が、より深く妹島ワールドを知ることができるはずです。

都内にある妹島さんデザインの建築

 妹島さんデザインの建築は、東京都内にもあります。

 妹島さんが東京で最初に手がけた作品とされるのは、1994年完成の調布駅北口交番です。残念ながら、2008(平成20)年に調布駅北口交番は解体されました。現存していないため、今は見ることがかないません。

 妹島さんは個人住宅や民間企業のオフィスなども設計しています。東京にも妹島デザインの個人住宅・オフィスはありますが、それらは容易に見学できません。

 しかし、妹島作品には公共建築物も多く、自由に見学できるものもいくつかあります。

 2015年完成の、小平市公民館と図書館を一体化した生涯学習施設「なかまちテラス」(小平市仲町)は、“気軽に訪れることができる公園のような施設”をコンセプトにしています。建物のデザインだけではなく、施設内に設置されている椅子も妹島さんが選定しました。

建築家の妹島和世さんが手掛けた、小平市の生涯学習施設「なかまちテラス」(画像:(C)Google)



 インテリア・エクステリアの世界観が統一されることで、混然一体の雰囲気と快適な空間が生み出されています。

妹島さんデザインの建築は墨田区にも

 2016年に開館した墨田区の「すみだ北斎美術館」(墨田区亀沢)は、江戸時代に活躍した浮世絵師・葛飾北斎の生誕地とされています。公園内には生誕地碑も建立されていますが、なによりも目を引くのがアルファベットの「N」もしくは「M」を思わせる美術館の外観です。

墨田区のすみだ北斎美術館は、浮世絵師として活躍した葛飾北斎の作品展示や生涯を紹介している(画像:小川裕夫)

 そうした美術館の外観にも度肝を抜かれますが、アルミパネルを多用した壁面は近未来をほうふつとさせるデザインになっています。

 また、4階の展望フロアは東京スカイツリーが一望できるロケーションのため、近隣の江戸東京博物館とともに観光名所にもなっています。

 妹島さんは、建築家仲間の西沢立衛(にしざわ りゅうえ)さんと建築ユニット「SANAA(サナア)」を組んでいます。SANAA名義による代表建築物は石川県金沢市の金沢21世紀美術館ですが、東京にもディオール表参道などがあります。こちらもドレスをまとったようなガラス張りの美しいビルで周囲に気品を漂わせています。

 今般、女性建築家は決して珍しくありませんが、男性建築家ほど活躍は目立っていません。しかし、妹島さんのように世界を舞台に活躍する女性建築家は確実に増えています。女性の新しい発想と感性が、次世代の国際都市・東京をつくっていく日は近いかもしれません。

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